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第二章 握力令嬢、修道女になる
2-8.さすらいの風来坊、ヤスミン
しおりを挟む「奥さん、これで大丈夫かと思います」
「まあ、ありがとうございます。お代はこれで」
「はい、ありがとうございます。ご贔屓に」と、鍋の修理をした鍛冶職人が言うと、ご婦人は、この職人の手を取り、「お茶でも如何でしょうか?」と口説いている。
そして、ご婦人のご近所さんなのだろう。4人ほど、別のご婦人が、この二人を囲んでいる。
6人でお茶をしようということだろう。
「仕事しろよ」と、他の修道女と、それを見ていた私は、つい、ボヤいてしまった。
すると、私の声が聞えたはずはないと思うのだけれど、鍛冶職人が私の方へ近づいてきたのだ。
「まずい、やはり聞えたのか?」と、呟くと、シスターらしく背筋を伸ばした。
いや、シスターではなく、実は、年明けに正式な修道女に私はなっていたのだ。
クリスマスのゴタゴタに乗じて。
しかし、修道女同士は、「シスター(姉妹)」と呼び合うのも、また不思議。
お互い、父である神の子であるから、姉妹ということだよ。
「シスター。お尋ねしたいのですが」と、モテモテの鍛冶職人が私に声をかけてきた。
「えぇ……」と返答するも、少しばかり驚いた。
「実は、ドイツ騎士団の館に行きたいのですが。ドイツ騎士団修道院のシスターかと思いまして、お声をかけさせていただきました」
なんか、すごい紳士だ。
そこいらの職人では、こうはいかない。もっと粗暴というものだ。
また、身なりも良い。
黒のズボンに白い上着が似合っている。
なんとも男前じゃないか!
しかし!
私が、驚いているのは、そこじゃない。
ドイツ騎士団に用事があるという女にモテモテの職人は、女性だということなのだよ。
男前と言ったのに、女性とはおかしいではないかと思われるかもしれない。
ここで言う男前とは、
そう!
例えるなら、宝塚の男役が男前と言う感じだと思って欲しい。
「あのご婦人たちとお茶はよろしくて?」と、小声で言ってやると、この女職人は、ため息を付いて、「助けてくださいよ」と小声で返してきた。
私は、心の中で苦笑し、彼でなく、彼女を助けてやることにした。
「皆さん、申し訳ございません。実は、職探しをしておりまして、今から、ドイツ騎士団の募集に応募してきます。本日は、これにて」と、職人は返した。
ご婦人たちは、何やら言っていたが、上手く離れることが出来たようだ。
「私はヤスミンと言います。実は、ドイツ騎士団本部が、武器の整備をする職人を募集していると聞いて、応募しようと思っています」
「そうでしたの」と、私達、修道女が答えるも、紳士だ。
女とは思えないし、女と思って誰も話してはいない。
もちろん、男ではないのは、顔立ちで分かるが、短髪に帽子にズボン。背も高い。やはり、どことなく男役を感じさせる。
そんな彼女と話しながら、ドイツ騎士団城の館に着いた。
「ありがとうございます。では、また」と、言ってヤスミンは、館に入って行った。
修道女たちは、さわやかな風が過ぎ去って行ったのを感じたようだ。
この真冬に。
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