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第二章 握力令嬢、修道女になる
2-9.ヤスミンの採用試験
しおりを挟むヤスミンは騎士団の館で武器整備などの職人募集に応募したようだ。
とはいえ、騎士団の事務方が、簡単な面接を、すぐに行うようでヤスミン達が事務室に入って行った。
どうやら、面接を受ける者は他にもいたようで、「ついでにやってしまおう」ということみたいだね。
面接官が質問をしているのが、私のいる部屋から見えた。
最初は、ヤスミンではない、もう一人の男性職人が答えていた。
次は、ヤスミンが答えている。
しばらくして、男性職人が勝ち誇っているようにも思えた。
あのヤスミンとかいう、男前の紳士は、ダメだったのだろうか?
すると、男性職人が顔を真っ赤にして、立ち上がった。
「嘘をつくなッ。お前」とでも言ったのだろうか?
何か叫んでいるが、騎士が、「座って」とでも言ったのか、椅子に座りなおした。
「はて、何があったのだろうか。気になるねぇ」
しばらくして、二人が退出していった。
となるとやることは決まっている。
あのヤスミンと言う職人を捕まえて、何があったか聞いてみることにするのだ。
私は、皆がいる部屋から、ススススゥッと抜け出して、廊下を音もなく滑るようにかけて行く。
すると先ほどの男性職人が、「嘘をついても、実技をすればバレるのだからなッ」と言って、館から帰って行った。
残されたヤスミンは、ヤレヤレと言う感じだ。
そこに、「もし、先の方。どうされましたか?」と白々しく、声をかけてみた。
「これは、先ほどのシスター。大したことはございません。あの方が私を嘘つき呼ばわりするので、困っておりました」
「嘘つきですの?」
「いえ、滅相もございません。私は真実を語っただけです」
う~ん、何のことだろうか? 益々、知りたくなってきたわ。
「もし、よろしければ、ワタクシたちにも教えて頂けませんか」と言って、先ほどの部屋に連れて行ったら先輩たちも大喜びだろう。
ということで、ワタクシ特性のクッキーで歓待してやりますの!
「さあさあ、こちらへ」と言って、ご招待すると、「おぉぉ」と言う声があがった。
そして、この様なことがあっても、彼(女)は紳士だ。
「大変失礼いたします。皆さまがご休憩中のところ、お邪魔させていただきます。ヤスミンと申します」と一礼をした。
ダメだ! 皆、本性を隠せていない。
修道女もしょせん、女だ!
「皆さん、実は、先ほど、このヤスミンさんに大声で怒鳴った男性がおりまして」というと、この部屋の女どものハートは、がっちりキャッチした。
「きゃ、何ですって!」と言った具合に……
「では、ヤスミンさん。いきさつを教えてくださいまし」と、私が言うと、ヤスミンは面接でのやり取りを教えてくれた。
「はい、それでは」と言うと、ヤスミンは語り出す。
つまりこう言うことだ。
面接官が、「騎士団のソードは何日あれば整備できるか?」と聞いたようだ。
ここで言う騎士団は、この城のことだけだ。ドイツ騎士団の領地は帝国の内外に多くある。
「私なら、三日程度ですべて整備してみせます」と男性職人が言ったようだ。
それは、おそらく仕事が早いのだろう。あの時の男性の様子からして。
ところが、このヤスミンは、「一週間は必要です。出来れば十日は欲しいです」と答えたようだ。
――それはマズいのでは?
だが、ヤスミンはこう付け加えた。
「私が本気で整備すれば、まず折れないし、曲がらないし、欠けないです」
それを聞いた、男性職人が「負け惜しみを言うのじゃない」
「負け惜しみではありません。事実です」
と言うやり取りがあったそうだ。
確かに、嘘だろう。
そんなソード見たことないわ。
なので、私の眼が、そのことを語っていたのだろう。
そして、ヤスミンは、一つ頷いたのだ。
「では、嘘か誠か証明いたしましょう」
「どうやって?」
「簡単です。ここには多くのソードがあります。どれかお貸しください」
「わかったわ。私の愛剣をあなたに預けるわ。アン、アン!」
「お嬢……シスター・ヴィルヘルミーナ! 如何なされましたか?」
「私のあの剣を彼女に渡して! 整備してくださるようよ」
そして、三日後にヤスミンは、整備して持ってくると言って帰って行った。
「しまった! ヤスミンの住所を聞いていなかったわ。あの剣が盗まれるかも?」と、気づいたのは後の祭り!
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