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第二章 握力令嬢、修道女になる
2-11.鍛冶師
しおりを挟むエマリーの抜けた腰が戻ったようだわ。
「ヤスミンさん、今の話は本当なの?」
「はい、ご先祖様が騎馬民族に教わったと聞いております」
「見つけたわ! ヒッタイトの末裔を」
おい、エマリー!
君は何を言っているのだ?
彼女は、騎馬民族に教わったと言っているのに、ヒッタイトって古代中東の国家じゃないか。
「いえ、ヒッタイトが製鉄を発明したのですが、この製鉄技術は騎馬民族が受け継いでいるのです。受け継いだのか、たまたま同じなのかは、わかりませんが。お嬢様」と、イリーゼが説明してくれたわ。
「なので、ヤスミンさん。貴女は、このドイツ騎士団城の館から、立ち去ることをお勧めします」
「エマリー、それは何故なの?」
そう、実は、ドイツ騎士団をはじめ大陸の騎士たちは、昔から、東方の騎馬民族の侵略の際、闘ってきたのだ。
だが、ワールシュタットの闘いでは惨敗を喫し、この大陸の騎士団たちにとっては、どうも軽いトラウマのように感じる。
「しかし、私は武器を手入れしたいのです」
「それは大丈夫よ。私の商会なら、どんな最新の武器もあるわ」
「エマリーさん。本当ですか」
「なんなら、ミーナちゃんの領地の武器も手入れしてあげて!」
「えっ、シスターは領地持ちのお方なのですか?」
「えっ、ええぇ。そうなのよ……」
エマリー、余計なことを……
「じゃじゃあん。ミーナちゃんは、次期女伯爵様よ」
「えっ、そうでしたか。これは知らずに失礼いたしました」
「い、いえ、失礼なんて、何もありませんわ」
「では、騎士団は諦めて、うちのアインス商会に来て!」
ということで、このヤスミンは、エマリーのところで雇用されるようだ。
その後、エマリーは騎士団に武器の販売契約をして、この日は帰って行った。
さて、エマリー達が来たということは、その後を付けていたクレマンティーヌたち、ブルゴーニュの亡霊たちも来たということだ。
「お嬢様、ここのようです」
「アレクサンドラ、その様ね」
「ヴィルヘルミーナは女騎士になったようですし、となると目立つでしょう。すぐに見つかります」
「まあ、どのみちドイツ騎士団城にいるんだろう。巡回で出てきた時を狙うか」と、「ヴィルヘルミーナはすぐに見つかる」と思っていたようだが、私が騎士になっていないので、見つかるはずもなかった。
「おかしい。それらしきものはいるのだが、決定打が無い」
「お嬢様、 アンゲーリカを使いましょう。あの女も来ているはずです」
「なるほどな」
***
ここは、ヤスミン工房。
「変わった工房ね」
「ええ、騎馬民族の製鉄が出来るようにしていますので」
「マスケット銃もあるのね」
「はい、エマリーさん。ですが、少し細工をしております」
「ほうほう、どんな細工かな?」
「まずは、火薬の量を増やしやすくしております。そして、増えた火薬にも対応できるよう鍛えております。となると、小型化しても大丈夫と思って作ったのがこちら」
ヤスミンはアルケブス銃を取り出した。
これは、マスケット銃より小型の火縄銃だ。
「先の製鉄術を使い、小型のアルケブス銃にマスケット銃並みの黒色火薬を詰めることに成功しました。難点は煙の多さです」
「すごいです。ヤスミンさん」と、イリーゼの眼が輝いていた。
それを見たヤスミンは、少し照れて、ほほを赤らめていた。
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