握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第三章 プロイセン公国へ(失われた栄光のために)

3-11.ケーニヒスベルクの街へ

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 さて、使用人の少女を連れて街へ出かけるのが、日課になっていた頃。
 どうも、この少女が、オドオドしているのが気になって来た。
 いつも、オドオドしているように感じる。
 彼女がこの調子では、ワタクシの変装が完璧でも目立つじゃないか!
 
 確か、この少女は、伯父上さまの騎士の娘だったと思う。
 名前は聞いたが声が小さくて聞えなかった。
 正直言って、自分の名前をはっきり言えぬような奴は、ダメだと思うわ。

 そんな奴に、ワタクシの高貴な名前を名乗るような気にならなかったので、「そう」としか返事をしなかったわ。

 まあ、それでは不便なので、A子とかB子で十分だろう。
 Aだと、アンに失礼かと思うので、Bにしようと思う。
 なので、「B子」と書いて、ドイツ語読みで「べぇこ」だ。
 牛みたいでよかろう。とろくさいし……
 
 しかしだ!
 ワタクシは、やはり優しいのだなぁぁぁ。

 こんな無礼な娘にも、チャンスをやろうではないか!
 オドオドせず、しゃっきり背筋を伸ばして歩けるように、してやろうじゃないか!

 ということで、今日は、B子の精神を鍛えるため、彼女にも変装をして頂きますわ。

***

「いやぁ、それだけは止めてください」と、仕立て屋の裏でB子が泣き叫ぶ。
「なぜ?」
 いや、私には、まったく理解が出来なかった。

 B子を貴族令嬢の姿にして、私が使用人の姿をして、街を練り歩くのだ。
「良かろう、良かろうに」
「お嬢さま、これだけはおやめください」
「いや、令嬢の姿で街を歩くお客もおると、店員も言うておろうに」
「そうではなくて、お嬢さまが使用人に……」
「良いではないか。伯爵嬢を召し抱えて歩くなど、王族気分じゃないか。ふふふ」

 こちゃこちゃと、うるさいので、さっさと剥いでやったの。

「は~い、ばんざーいして!」と、スカートを履かせ、良い感じに仕上がってきたわ。

 そして、貴族令嬢の出来上がりで、外出すれば、しゃっきりして、頼もしい使用人になってくれるはず。私って、良い奴だよなぁ。うむうむ。

 ワタクシも使用人の衣装に着替えて、いざ、外出へ。

 しかし、なかなか、外出をしたがらないB子だ。
「お嬢さま、勘弁を!」と、抵抗をするので、尻をつねってやったら、おとなしくなった。
「うん、ドロワーズを履いてなかったので、堪えたのでしょう。ふふふ」

 さて、いざ、街の中へ!

「オドオドしない。堂々としてなさいな」
「ひぃぃ」

 この日は、街を30分程度歩いて、仕立て屋に戻った。

 変装をして歩くのが溜まらん。別人になるという快感。

 さて、この日は、ハプニングがあった。
 貴族令嬢に扮したB子の後ろを付いて歩いていると、ある商店から、どこぞの貴公子が出てきた。
 それに驚いてしまったB子がよろけてしまったんだな。これが。

「おっと、お嬢さま、大丈夫ですか?」と、その貴公子が言う。
「も、申し訳ございません」と、B子。
「おや、お見掛けしないお嬢さまですね。どちらの方ですか?」
「えっ、いや、その……」と、B子が困っているので、助け船を出してやろう。

「御曹司様、お嬢さまは、ホーエンツォレルン家のヴィルヘルミーナ様ですわ。静養のため、ご領主様のところに、滞在させて頂いております」と、答えてやったわ。

「貴女でしたか。アンナ様の従姉妹様は!」

 へぇ、私って有名じゃないの。おほほ。
「噂とは、当てにならないものですね。おそらく、デマだったのでしょう」

 なに? デマ?

 気になるので、使用人が質問するのは、よろしくないが、やむなしだ。
「御曹司様、お嬢さまにどのような噂が?」
「いえ、怪力自慢だとか、じゃじゃ馬だとか、ワルシャワやウィーンから聞えてきたのですが、とんでもない。すばらしいお嬢様だ」

 理由はわからんが、むしゃくしゃする。何故だ?
 先から、B子ばかり褒められているじゃない。

 すると、貴公子の執事らしき男が、
「若様、お時間です」
「わかった。それでは失礼します」と、貴公子は去って行った。

 私は、使用人らしく、一礼をしておいた。
 なかなかの良い男でしたね。

 で、B子が動かない。足でもくじいたのか? と思い顔を覗くと、トロ~んとしていた。
 こいつ、牛のくせに!
 むしゃくしゃするので帰ることにするわ!
 また、尻でもつまんでおきましょう。


 さて、とある日のこと。

 伯父上さまから、呼び出された。
 そこは、応接間でアンナとマリーもいた。

「ヴィル!」と、伯父上さまは、私を一括した。

――えっ、なに? 私、なにか叱られるようなことをした?

「ヴィルよ。ステラの件だ」

――ステラ? 誰だ?

「はい、ステラですね」
「そうだ。ステラだ。毎日、泣いて帰って来ると、父親から苦情が来ておる」
「まあ、それはかわいそうに。どうしたことでしょう」
「おい、ヴィル!」
「ハイ!」

 アンナとマリーが、苦い顔をしている。

「ヴィル! ステラの父親は我が騎士団の一等級騎士なのだ。その娘をお前の使用人に付けている意味が分かっているのか」
 なんと、あの娘の名前は、ステラだったのか!
 今更ながらに、驚いた。
 
「そのステラが、毎日、ヴィルにいじめられて帰って来るので、父親から苦情が来ている。城仕えも辞めたいとな!」

 何ですって……
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