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第三章 プロイセン公国へ(失われた栄光のために)
3-12.パワハラ令嬢
しおりを挟む何ですって、B子が、いや、ステラが毎日泣いて帰って来るですって!
「しかもだ、ヴィル。ペンチで尻をひねったそうじゃないか。尻から血を何度も流していると聞いたぞ」
「ペンチ、ペンチですって!」と、私が言うと、マリーが泣き出した。
「ヴィル姉さまって……」
「いや、マリー!」
それを見た伯父上さまが、「ヴィル! 言い訳をするのか?」と、ただでさえ、恐竜の様な顔をしている伯父上さまが怒っている。
マリーが泣き出すのも仕方がないというものだ。
しかし、この経緯を上手く伝えることが出来ない。
こんな時は、泣きたくなるものだが、泣いて誤魔化すものか!
「いいえ、あの子は無礼者ですわ。名乗りもしませんでしたもの」
「はあ?」と言った声が聞えそうだった。
気を落ち着かせ、これまでのことを、ゆっくりと言葉を選んで説明した。
平たく言うと、私は、あまりステラのことを快く思っていないことの説明になるが、仕方がない。事実だ。
そして、お忍びで変装をして、街に出かけていたことも、白状することになる。
尻をつねったのは、「ペンチではなく素手だ」と言うが、「素手で血が流れるのか?」と言われ、「そう言うこともあると思います」と言うと、皆があきれていた。
――アンナには申し訳ないけれど、これでは、ここにいられないな。
「ヴィル。しばらくは、外出禁止だ」
「ひぃぃ」
それで済んだのか。
伯父上さまも、怖い顔をしているが優しいのだ。
そして、外出禁止になったということは、城にいないといけない。
次の日、ステラとは違う使用人が部屋に来た。
「失礼いたします」
「はい、どうぞ」と、答えると見知らぬ使用人が入って来た。
ステラとやらは、城仕えを辞めたのだろうか?
「あの、ステラは」と、彼女のことを聞こうとすると、新しい使用人が「ひぃぃ」と、飛びのくように私を警戒している。
あちゃ、これは、もう、私は、ここでは問題児じゃないの。
トホホ。
こんな感じだから、C子(つぇーこ)とは、まともな会話にすらならなかったのは、言うまでもない。
さて、お茶の時間まで、暇だ!
素振りでもしておこう!
いつも、この時間は街に外出しているから、分からなかったが、騎士団の訓練の時間のようだ。
懐かしい。バート・メルゲントハイムを思い出す。
そして、一人の中年男性と窓越しに眼があった。
鋭い目つきだ。
あの武装からして、団長クラスの一等級騎士だな。
そして、私は直感した。
この男がステラの父親だ。
「なんか、あの騎士を、斬り倒したくなってきたわ」と、血がカッと熱くなってきた。
お茶の時間となり、C子が呼びに来たので、素振りは中断した。
ちなみに、私の素振りは籠手を着けての素振りではないのだな。
素手での素振りだ。
シッカリ握らないと、滑るので手の力が必要で鍛えられるからだ。
あの騎士は、どのような素振りをするのだろうか?
翌日、来賓があるので夕方は、ドレスアップするように連絡があった。
C子に、出来るのかしらと心配だ。
軟禁? 状態なので、素振りか読書か、アンナたちがいる時はお茶をする程度なので、やはり、素振りをする。
汗臭い令嬢とか言われてはいかんので、こっそり、行水セットを持ち込み、汗を流す。
香水だけでは、不安ですからね。
そして、来客の対応をすべく、広間に行くと、なんと先日の貴公子が来ていた。
「おぉ、ヴィル。紹介しよう。彼は、ファン・ヴェルクホーヴェン家のバスティアーン様だ」と、伯父上さまが先日の貴公子を紹介してくれたのだけれども、なんと言えば良いのか?
「えっ、あ、あの、その、ワタクシは……」
「やはり、貴女がヴィルヘルミーナさまだったのですね」
「いえ、その……お恥ずかしい」
「うん。どうしたのかな。二人とも。顔見知りだったのかな?」
そして、バスティアーン様が、あの時のことを説明をし、また、伯父上さまから、「ヴィル。お前は!」と一括された。
トホホ!
さて、伯父上さまが司会で、参加者の紹介を行っている。
私は、アンナたちと一緒に紹介を受けた。
そして、その後に、護衛騎士団の紹介ということで、騎士団長のキルヒナー団長が紹介を受けている。私の横で!
――このオヤジは、先日、窓から目が合った騎士では!
そして、たまたま、横を向いた際、キルヒナー団長と眼があった。
バチバチと火花が出る勢いだ。
「何か?」と、つい反射的に声をかけてしまった。
「いえ、娘がお世話になり……私は、ステラ・キルヒナーの父親です」と言うと、いかにも「フン、小娘め」と言う感じであった。
これは、決闘か?
相手は、一等級騎士。三等級騎士の私にかなうか?
そんなことを考えていたら、翌日、ヤスミンからプレートアーマーが届いた。
「お嬢さま、特殊合金が手に入りましたので、試しに使ってください」とある。
特殊合金って、なんだよ。
これって、主が「あのオヤジも成敗せよ」との思し召しなのでは?
まずは、テストだ!
ということで、アーマーを装着して、城の庭に出てみた。
「馬がいない……」
これでは、重装歩兵ではないの。
「おい、そこのプレートアーマー。こっちだ!」と、騎士二人組が声をかけてきた。
「一人足らない。我が班に入ってくれ」
「おう!」と、アーマーの中から返事をしておいた。
これで、ヤスミン特性のアーマーと鉛も切れる剣の威力を試せるわ。
ふふふ。
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