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第四章 ヴィルヘルミーナ、海へ!
4-6.さらわれたステラ その1
しおりを挟む私は、ケーニヒスベルク城に戻ると、バスティアーン様のことを伯父上さまに話すことにした。
伯父上さまは、眼を閉じて考えているようだ。
そして、一つ二つ、頷くと口を開いた。
「そうか。確かに、海賊をしている領主もいることはいる。水軍でなく海賊をしている領主もいることはいる」
また、ひとつ頷いて、伯父上さまは、「ヴィル。ありがとう」と言ったので、私は、「はい」と返答し、一礼をして退出をすることにした。
「彼は、それが領地領民のためになるといったのだな。スペインと戦うためにも」
「私には、その様に聞こえましたわ」
「そうか……主に対し、俯くような領主にはなりたくないものだな」
「伯父上さま……」
私は、伯父上さまの部屋から出ると、エマリーの言葉を思い出した。
「今、スペインやフランスと事を構える時期ではないわ。貴女には次期領主になってもらい、統治してもらわないと、皆が困るの。新しい領主が着て、好き放題されては領民が困るの。今の領主さまのやり方が良いの」と彼女は言った。
この時は、父の統治を誉めてくれて、心地よい程度にしか感じなかったが、今、思うと、そんな生易しい言葉ではないのではないのか?
新しい別の領主。
つまり、別の統治のやり方だ。
私は、統治とは単に税金を集めれば良いと思っていたが、そうではない。
スペインやフランスなど、諸外国と事を構える。
皆が困る。
好き放題……
「皆が困る」の反対は?
「好き放題」の反対は?
今、スペインと戦っているオランダは、皆が望んでいることなの?
エマリー、やはり君は私の親友だ。
彼女と出会えて、良かったと思うわ。
***
さて、翌日、館の方の食堂に行くと、リッターたちがいた。
「ヴィルマ姉さん。ここよ」と、手を振っているのは、ダーメ・ビアンカだ。
私より若い女騎士だ。
「ヴィルマ姉さん、この間はクッキー、ありがとうございました。家族で食べました」
「ほう、ヴィルマさんはお菓子も作れるのですね」という他の騎士も頷いている。
「欲しいですか?」と、ニッコリしてやると、
「うん、あまり食べることが無いので」
そうか、砂糖の交易は、中米から西ヨーロッパへが中心だ。この辺りでは、高値なのだろうか?
「あっ、知っていますか? ステラさんのこと?」
「いえ、何かあったのでしょうか?」
「実は、行方不明だそうです」
「まさか、人さらいにでも……」
「かもしれないですよね。あるいは……」
「あるいは?」と、ビアンカに尋ねると、
「ヴィルヘルミーナ嬢が、悪さでもしているのかもしれないですねぇ」
「そうかもしれないですよ」と、他の騎士たちも同意している。
――私は何もしてないって!
「そ、そうなの? 例えばどんなことを?」と詳しく聞いてみると、
「よくヴィルヘルミーナ嬢からチップをもらった人がいるみたいなのですが、その資金源に売ったとか」
――馬鹿かこいつ。私は、ちゃんと銀行に預金があるわ。
「実は、ヴィルヘルミーナ嬢は同性愛者かもしれませんよ」
な、な、なんと、これは看過できませんよ。
同性愛は処罰されますからね。教会に密告すると異端裁判の後、死刑ですよ。死刑。
そう、旧教では同性愛は死刑なのだ。だから、旧教国から逃げ出す者もいる。
「な、なんでヴィルヘルミーナ嬢が同性愛なの」と、声が震えてしまった。
「いや、ヴィルマさん、なんでもヴィルヘルミーナ嬢はスカートを捲って、尻をつねるらしいですよ。ステラさんも何度かやられたと聞いています」
確かに、それはやったわ!
ステラのスカート捲って、つねったわ。
でも、それは同性愛ではなく、悪戯の範疇なのよ。
皆、私を信じて!
「あぁ、それは無いよな。ダメだ」
「そうね、ダメね」
「ダメだぜ」
話題を変えることにした。
「で、どこにいるわけ?」
「それが分からないのですねぇ」
私の推測からして、街から海賊へ、そして、他の貴族の愛玩になったのではないかと思う。
他の貴族を調査するには、よほどのことが無い限り無理なので、彼女は帰って来ないだろうと思う。
まあ、団長には悪いが、私も先日、危機一髪だったし。
さて、ヴィルヘルミーナとひと悶着があった頃のステラは、城から帰宅する際、軽く足を引きづっていたようだ。
尻に穴が開くぐらいにヴィルヘルミーナに尻をつねられたのだから。
そして、街の人から「あの娘、尻から血を流しているわ」と指を刺されて帰宅。
その次の日から、外出をしていないという……
さらに心無い住人から、乾燥苔がプレゼントされたとも……※1
その話を聞いて、城仕えを辞めてしまうのも、やむなしかと思った。まあ、それでも普通は辞められんわな。
「ヴィルマ姉さんも、ヴィルヘルミーナ嬢が悪いと思うわよね」と若いビアンカに言われ、「ええ、そうかもね」と答えてしまった。
で、当のステラはと言うと、やはりさらわれていた。
『賢い女たち』に。
※1 乾燥苔 中世ヨーロッパの生理用品
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