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第四章 ヴィルヘルミーナ、海へ!
4-8.さらわれたステラ その2
しおりを挟むしばらくして、行方不明になっていたステラが帰ってきた。
「ステラ!」と、帰宅したステラを母親が出迎えた。
使用人も集まっている。
「お嬢さま、大丈夫でしたか?」
「ステラ、今までどこへ?」
「お、おかあさま。わたし、わからないわ」
「???」
母親と使用人がお互い顔を見合わせている。
ステラの異常に気が付いたからだ。
「おかあさま、わたし、ねるわ」と、部屋に戻って行ったのだ。
それでも、父のキルヒナー団長が帰宅した際は、父親は大いに喜んだ。
突如、行方不明になった娘が帰ってきたのだから。
私は、そのことについて、C子から聞いた。
「それは、良かったじゃないの」と言ったもんだから、また、冷たいといわれるのだろう。マズかったな、C子相手に。
しかし、ステラは城仕えをするわけでもなく、引きこもりでもしているのかと思いきや、突如、外出をしているようだ。
しばらくして、川に魚が浮いていると、騎士団に連絡があった。
魚も死ぬだろうさ!
いや、集団で死んでいたら、考えることは、毒でもまいた奴がいるって考えるってものでしょう。
しかも、それを予告した女がいるというから、一般兵が聞き込み調査をするようだ。
まあ、こんなものは見つからないから、犯人をでっちあげて裁判をして犯人に仕立て上げるんだけれど。
だが、今回は違っていた。
その女は、自らの名前を名乗ったそうだ。
ステラ・キルヒナーと!
そして、今度は、「屋根から猫の死体が落ちてきた」とか通報があったようだ。
***
「魚に猫、次は犬でも死ぬのかしらね? ヤスミンはどう思う?」
「いや、エマリーさん。勘弁してくださいよ。気持ち悪いですよ」とヤスミンが答えると、カラスが「カァー」と鳴いて飛んで行った。
「帰りましょうか?」
「そ、そうしましょう」
***
さて、私は、この日のヴィルヘルミーナの夕食は不要とC子に告げていた。
それは、伯父上さまとアンナにも連絡をしておく。
そして、今、午後からの軟禁も溶けており、騎士団のヴィルマとして活動していた。
「私も聞き取りに行きます」と、そのステラの話を聞いた男に調査をしに行くことにした。
現場では、
「その時の様子を教えてください」とある騎士が尋ねている。
「ええ、何でも『私は白魔術が使える。しかし、黒魔術を使えるものがいて、この街に禍を持たらすだろう。
私が街を護ってやる。さあ、その代償に新しい命を差し出せ。
さもなくば、川の魚がお前たちの代わりに死ぬ。それは始まりだ』と、そんな感じでした」
「白魔術?」
そう、魔術は魔術でも、白と黒がある。
まあ、人の役に立つのが白で、危険で災いを呼ぶものが黒ということだ。
例えば、薬は白で、毒は黒みたいな。
しかし、薬も毒も、根本は同じ成分だったりする。適材適所なのだろうが、その配分などを知るのは、医師や薬師などの専門家となる。
だから、魔術も薬と毒のように表裏一体の関係があるのだろう。
白魔術は、一般に病気を治すための薬や助産の手伝いをしていることが多いが、黒魔術はやはり毒を使い、暗殺などしているような感じかな。
そして、自分自身を魔術使いなど言わない。
「薬師だ」と言っておけば、事なきを得るが、魔術師と分かれば異端裁判行きだからだ。
それは白魔術でも同じこと、人の役に立つといっても魔術は、人々の脅威なのだから。
で、ステラが自分で魔術師と言ったって、それは、この大聖堂のあるケーニヒスベルクの街では大問題ですね。
自分から異端裁判に行きたいと言っているようなもの。
しかも、名前まで名乗るのって、おかしいですね。
そして、街に出たついでに、アインス商会に寄った。
「エマリー。ご無沙汰」
「ミーナちゃん、大変よ」
「うん、まあね」
「そんなのんきな」
「そうですよ、お嬢さま」とヤスミンも咎めている。
「どうしたの?」
「先ほどね。女の人が『街に黒魔術が入り込んでいる。それはケーニヒスベルク城にいるヴィルヘルミーナが連れてきた』って、言っているのよ」
「はあ?」
なんとも、まあ……
やはり、ステラか?
そして、私は、生粋のトラブル体質なのだろうな。
トホホ!
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