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第四章 ヴィルヘルミーナ、海へ!
4-9.さらわれたステラ その3
しおりを挟む「エマリー、それはどこなの?」と言う私は、動揺していた。
まさか、自分がこの騒ぎに引き込まれるとは思っていなかったので、ノーガードのところを強打された感じだ。
エマリーの案内で、ステラらしき白魔術師がいたところに駆け付けるも、すでに誰もいなかった。
「遅かったか!」
「ゴメン、店に戻らず後を付ければよかったわ」とエマリーが詫びてくれたが、それも危険なことかもしれないので、やはり、ここは店舗に戻ってきてくれてよかったと思う。
しかし、このことを騎士団に報告するとなると、団長に直接は言いづらいよな。
なら、副団長か?
さっぱりわからないので、まず、伯父上さまに報告しようか?
すると、架空の女騎士:ヴィルマとしては、一介の騎士が領主様に直接報告をするなどありえない。
となると、ヴィルヘルミーナにならないといけないので、着替えが面倒だ。
「なら、お嬢さま、手紙は如何でしょうか?」とヤスミン。
「ほう!」
「アインス商会で手紙を書いて、使用人に届けてもらうというのは、如何でしょうか?」
「なるほど」ということで、また、C子を銀貨で買収することにした。
C子が館に来た際、「これを伯父上さまに渡して欲しいのだけれど、出来る?」というと、「ええ、この後、ご領主様の使用人のクラーラさんにお会いしますので、彼女経由でなら、大丈夫かと思います」と言うので、二人分の銀貨を渡しておいた。
「この二枚の銀貨は、貴女が二枚とも懐に入れても、私は何も言わないわ。でも、主は見ていると思うの。天にまします我らの父が見ていると思うの。どうするかは、貴女が決めてね」と、付け加えることも忘れない。
そう、最近、彼女は、私の使用人となってから、少々、裕福になって来た。無論、私のせいだ。
また、この城にいる際は、彼女は贅沢とは無縁のように振る舞っている。
しかし、私服の際、ちょっといつもより良いものを着ていたりと、上手く楽しんでいるようだ。
だから、この使用人は使えると信用できる。
私が思っていたより、口も堅かったし。
すると、今度は、伯父から手紙が着いた。
「お嬢さま、ご領主様からです」とC子からだ。
内容は、「今の手紙の件について、キルヒナーとヴァッテンバッハとヴィルヘルミーナとアンナで、明日の朝食の後、話したい。ヴィルマではなくヴィルヘルミーナとして来るように」と書いてあった。
まあ、午前中はヴィルヘルミーナとして屋敷にいるから、着替えなくて良いのだけれど……
伯父上としては、早く話したいということなのか、または、午前中なら私が令嬢スタイルなので、ヴィルヘルミーナを呼んだのだろうか?
いや、ヴィルヘルミーナが黒魔術師という話があったからか?
さて、翌日の伯父上さまの執務室では。
そう、伯父上さまへの手紙には、騎士団のヴィルマが騎士団に報告をしなかったと思われてはいけないので、ヴィルヘルミーナの知人の商人が出くわしたという白魔術師ということにした。
「さて、皆、揃ったな。今日、話す内容はヴィルの知人からの話だ。『ヴィルが黒魔術師だという、白魔術師が出た』という情報だが、こころあたりはないか」
「ま、まさか」
「どうした、キルヒナー?」
ヴァッテンバッハ副団長も目を閉じている。アンナも私もだ。
「白魔術師が、『私はステラ・キルヒナーだ』と言っていますが、団長様はご存じですか?」とアンナが問うた。
「その件ですが、私も気になり、本人に聞いてみたのです」
「で、なんと」
「はい、『わたしではない。ちがうひとよ』と、まるで別人の様な片言の話し方でした」
「キルヒナーよ。落ち着いて話してくれ。ステラは家ではどうしているのだ?」
「はい、妻の話によると、いつの間にか出かけて、いつの間にか帰っているとのことです」
伯父上さまは、頷き、「なら、現場を抑えるしかない。赤の他人がステラを名乗っているかもしれないしな。
それと、『ヴィルが黒魔術師だ』という件は、貴族を侮辱したことになる。それが誰であれ、処罰せねばなるまい。皆、良いな」と、厳しく言った。
皆、当然、了承するのだが、その時、キルヒナー団長の顔からは、大いに汗が流れ落ちていた。
同情してしまいそうだわ。
「さて、キルヒナー団長。作戦をお聞きしてもよろしくて?」とアンナが尋ねる。
それにハッとした団長は、深呼吸をして、こう述べた。
「現行犯でしか逮捕できないなら、私服で張り込みをいたします。配置は副団長に一任!」
「はい、午後から配置につけるようにします」
「分かりました。父上、これでよろしくて」
「分かった。任せよう」
私は、ヴィルマとして街に行くつもりだが、念のため、確認をした方がよさそうなので、「ダーメ・ヴィルマも調査に出ます」というと、「ヴィル、貴女が狙われているのよ」と返されてしまった。
ということで、女騎士:ヴィルマは調査隊から外されてしまったので、勝手に巡回に出かけてやったわ。
ふふふ。
で、どこに行くかというと、エマリーのところだ。
何といっても、“ライン宮中伯の馬車の馬が寝たこと”が分かるぐらいの情報網があるのだから。
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