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第四章 ヴィルヘルミーナ、海へ!
4-10.さらわれたステラ その4
しおりを挟む「片言で話したの?」とエマリーは首を傾げた。
「そうらしいの」
「おかしいわ、私の見た白魔術師は片言ではなく、大きな声ではっきりと話していたわ」
うん、となると別人なのか?
「でも、別人のような話し方って、薬剤か催眠術かもしれないわね」
「薬剤や催眠術……」
それを扱うエクスパートがいたではないか!
自称、賢い連中とやらが。
しかし、このケーニヒスベルクの街にもいるのだろうか?
すると、外から声が聞えてきた。
「私は、白魔術師のステラ・キルヒナーだ」と。
私たちは、店から出て、そのステラを名乗る白魔術師の元へ駆けつけた。
そこにいたのは、如何にも怪しい風貌の女だ。
「逮捕するわ」という私を制したのはヤスミンだった。
「お嬢さま、まだ、彼女は罪を犯していませんよ。大声を出しただけです。現行犯で摑まえるのでは?」
確かに!
ヤスミンは、いつも冷静で助かりますわ。
「ミーナちゃん、あれは薬剤か、催眠術じゃない? 普通には見えないわ」
そう、首を振りながら、どこか遠くと話しているようだ。
そして、話は黒魔術になった。
「城に黒魔術師がいるのだ。その名前はヴィルヘルミーナだ」
私たちは、頷くと、ステラを名乗る白魔術師に近づいた。
三人で、正面と左右を囲まれ、簡単には逃げられない。
「私はリッターのダーメ・ヴィルマだ。今、領主様の姪を侮辱した。現行犯で逮捕する」というと、抵抗をするかと思いきや、眠るかのように活動停止してしまった。
ガックとうなだれる。
すると、集まっていた大衆の中から、大きな声が聞えた。
「私は白魔術師のステラ・キルヒナーだ」と。
「なんだって?」
私が、眠っている女に縄をかけている間に、ヤスミンが大きな声を出した女のところへ駆けだした。
「君、何の真似だ」と、ヤスミンがその女の腕をつかむと、また、眠るように崩れてしまった。
すると、別の女が大きな声を出した。
「私は白魔術師の……」
今度は、エマリーが走り出し、その女を捕まえると、まただ。
別の女が話し出す。
最後は、「私は白魔術師のステラ・キルヒナーだ」と男が言いだしたのだ。
「エマリー!」
「これは催眠術ね。薬剤では、同じセリフを言わせるなんて無理でしょう」
「集団催眠術というものがあると聞いたことがあります」
「でも、いつの間に」
「手に負えないわ。ミーナちゃん」
大声で話す者、眠るように動かなくなる者、徘徊する者、立って聞いている者。
次は、話を聞いているこいつ辺りが、大声を上げるのだろうか?
「ヴィルマ姉さん!」という若い女の声が聞えた。ダーメ・ビアンカだ。
「ビアンカ! 縄が足らないわ。抑えきれない」
「ヴィルマさん」と、他の騎士たちも数人到着した。
「ヴィルマ姉さん」と私の元に縄を私に近づいてきたビアンカに、ある女が手を伸ばしてきた。
「えっ?」と、振り向くビアンカ。
「お前も白魔術師のステラ・キルヒナーだ。ヴィルヘルミーナは黒魔術師だ。ヴィルヘルミーナを追い出せ。吊るし上げろ」と、その女がビアンカに言った。
「こいつ、まだ、動けるのか」と私が言うと、ビアンカが、「私は白魔術師のステラ・キルヒナーだ」と。
背筋が凍った。
まさか、騎士団の騎士にまで伝播するなんて、思いもしなかった。
他の騎士団員も悲鳴を上げている。
「これ、一体、どうするよ」
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