握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第四章 ヴィルヘルミーナ、海へ!

4-12.さらわれたステラ その6

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 ステラが、家から出て行ったのが見えた。
 早くしないとイケないのだが、キルヒナー団長の尻が蹴れない。

 そして、この家の使用人たちはどこへ行ったのだ。


 その頃、街では。

「何故、急に?」と、騎士も一般兵たちも困惑している。
 街中の住人が白魔術師と思うぐらいに、白魔術師が行進している。
「ケーニヒスベルク城へ! ヴィルヘルミーナに鉄槌を!」
「魔女ヴィルヘルミーナに鉄槌を!」
「ケーニヒスベルク城へ!」
と、うつろな目をした住人がケーニヒスベルク城へ進行している。

「ご領主様、大変です」
「どうしたのですか」と、伯父上さまの側にいたアンナが、駆けてきた執事に問うた。

「はい、申し上げます。街では多くの住人たちが、こちらに向かっております。『魔女のヴィルヘルミーナ嬢に鉄槌を!』と」
「なんだと」
「ですが、多くの騎士たちが、街に調査や巡回に出ており、城の警備が手薄です。また、あの行列の中、戻るのも困難かと思います」
「今は、どのあたりを住人たちはいるのです?」
「はい、プレゴール川に沿って、まっすぐにこちらに向かっております。15分程度で到着すると思います」※1

「城門を絞めて、今いる兵士と騎士を集めろ」
「はい、ご領主様」

***


 私たちは、いくら蹴ろうが、キルヒナー団長に当たらなかった。
 四人で取り囲んで、蹴るのが良いだろうと思うが、この家を熟知している相手には、決定打にならない。

「おじょ……ダーメ・ヴィルマさん。刺激を与えれば良いのですよね。なら、方法があります」
「ヤスミン、方法って?」
「はい、私の黒色火薬を使います」と言うと、ヤスミンは革袋を取り出して、黒色火薬の入った小さな紙の包みを団長に目がけて投げつけた。
 すると、それを払った団長の手元で、“パーン”と爆発した。
 現代で言う、クラッカーボールだ! ※2

 黒色火薬なので、モクモクモクモクっと、煙が発生し、うつろな団長は煙に覆われてしまい、咳き込んでいる。

 これが、相当な衝撃だったのだろうか?
 ようやく、正気を取り戻した。

 クラッカーボールを払った手も、真っ赤にはれ上がっていた。しばらくは、冷やしておかないといけないだろう。

「ゲホゲホ、ビアンカか?」
「はい」
「ヴィルマも?」と、話せるようになったが相当な呼吸困難なので、後のことはビアンカに任せることにした。

「エマリー、ヤスミン。出て行ったステラを追いかけるわ」
「分かったわ」
「もちろんですよ」
「ヤスミン、さっきの火薬は、まだあるの?」
「ええ、この袋分あります」と、ヤスミンは革袋を取り出した。
 見たところ、20個から30個程度入っているだろうか?
 それで、カタを付けることが出来れば良いのだけれど。

 そんな私の気持ちを察したヤスミンは、「アインス商会にまだ、作っておいた分が2袋あります」と答えてくれた。
 となると、20個が3袋で60個は使える。
 あとは、蹴り飛ばすしかないか?



※1 プレゴール川 ロシア語でプレゴリャ川 ケーニヒスベルク城のすぐそばを流れる川

※2 クラッカーボール 昭和初期には「かんしゃく玉」と言われていた。
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