握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

文字の大きさ
67 / 126
第四章 ヴィルヘルミーナ、海へ!

4-13.さらわれたステラ その7

しおりを挟む

 私たちは、アインス商会でヤスミンの作ったクラッカーボールを手に入れた。
 その際、ヤスミンから、簡単に説明を受ける。

「よく聞いてください。このクラッカーボールですが、絶対に空気に触れないようにしてください。革袋の中の空気は、しっかり抜いてください。そうしないと、黒色火薬が爆発します。
 一つ爆発すると、次々に爆発することもありますので、くれぐれも注意してください」

 そんなこと出来るのか?
 やるしかないということか……

「兎に角、急ぎましょう!」
「そうね」
「分かった」
と、クラッカーボールを調達し、催眠術にかかった住民の元へと、アインス商会で借りた馬車で、私たちは向かった。

 その頃、ケーニヒスベルク城では、千人はいようかという白魔術師と化した住人に包囲されていた。
 無論、城が千人程度の非武装の民間人に落とされることは無いのだが、警備するものが少ない上、自国の領民に手を出したくないという伯父上さまの配慮もあった。

 すると、城門や城壁を登ろうとしている者が出始めた。
「後に続け!」と。

 しかし、さらに警備兵を困らせたのは、先日まで、城仕えをしていた、そして自分立ちの団長の娘が先陣を切っているということだ。

「おい、あれステラさんだよな。どうしてしまったんだ」
「やはり、ヴィルヘルミーナ嬢への恨みが爆発したんだよ」
「しかし、そんなことをしたら、打ち首だぞ」

 すると、城門を超えて城の中に、一人侵入してきた。
「取り押さえろ」

 ヴァッテンバッハ副団長は城に残って、指揮をしていたのだが、「馬に乗っていても、ランスが使えない。殺すわけにはいかない。木刀であっても頭を強打するわけには……人数が少ない上、制約が多すぎる」

***

 私たちが、城門の到着すると千人以上の住民が叫んでいた。
「魔女のヴィルヘルミーナに鉄槌を!」
「異端裁判だ」
と言う具合にだ。

「多すぎる。クラッカーボールが60個から100個程度あっても……」と愚痴ってしまったが、60個?
 そうだ!

「ヤスミン、小銃か大筒があったはず」
「はい、馬車にどちらもあります」
「では、大筒を出して」

「どーするのミーナちゃん」
「このクラッカーボールの入った袋を大筒で撃って、空中で爆発させるの」
「煙で何も見えないわね」
「咳き込んで、元に戻れば良し、止まったところを蹴れば良し」
「やってみましょう」

 なので、私が高く、クラッカーボールの入った袋を天高く投げ、ヤスミンが射撃する。

 クラッカーボールの数もここまでになると、“バーーン”でなく、“ドカーーーン”だった。

 爆風が皆を覆った!

 そして、催眠状態の者は、煙に覆われて、酸欠状態に陥ってしまった。
 私は、口をハンカチなどで覆い、住人の尻を蹴っていた頃、エマリーは、「あ、あ、危ないわぁ。誰も、頭が吹っ飛ばなくて良かったけど。頭がもげたら冗談では済まされないわ」と呟いていた。

「ヤスミン! もう一袋、お願い!」
 そろそろ、煙の効果が無くなってきたのだ。

"ドカーーーン"と言う音と共に、爆風と煙が広がった。
 うつろな住人たちは、これを吸い込み咳き込んでいる。

 しかし、城の中に入り込んだ者もいる。

 城内に追撃しようと思うが、エマリーとヤスミンが躊躇している。
「私たちは城の部外者なので、逆に逮捕されるのでは?」と。
 私と共にいると良いのだけれど、離れてしまうと、誤解を招くことになりかねない。
 それに、まだ、催眠術が解けたかどうか不明の者もいるので、城門前を二人に任せることにして、私は、城の中に入った者を追うことにした。

 おそらくステラも城に入ったのだろう。ここにいないということは。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...