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第四章 ヴィルヘルミーナ、海へ!
4-14.さらわれたステラ その8
しおりを挟む私は、「女騎士の日常」という変装のまま、城壁を登ろうとしている住人を利用して、城内に入った。
その際、警備兵に頭を叩かれそうになったが、まあ、彼らも仕事なので……
催眠術がかっていようがいまいが、不法侵入者なのだ!
殴っても文句あるまい!
「こらぁ、出て行け!」
“ボコーン”と殴り、“ドタッ”と倒れる。
そして、目を覚ませば、正気に戻っているのだから、感謝の一つでも述べてもらいたいものだ。
そして、数発ぐらい殴り、庭から屋敷に向けて進んでいたところ、使用人が出てきた。
「この顔は、マリーのところの使用人では?」
「騎士様、騎士様、お願いです。マリー様が、マリー様が」
――マリーか。あれ以来、あまり話をしていないな。
「どうしたのだ?」と、女騎士風に低音で回答した。
「はい、マリー様が不安だということで、誰か護衛をと……」
――まさか、あのしっかりしたアンナが、マリーたちに護衛を回さないなど……
それとも、人がいないのか?
「誰も護衛についていないのか?」
「いえ、一般兵がおりますが、騎士でないとダメと」
――ふざけるな! こっちは闘っているのだぞ!
「今、人手が足らないのは、マリー様はわかって言っておられるのか?」
「そこまでは……」
「それより、貴殿も危ない。出歩くのはよくない。とりあえず、マリー様のところまで、送って行こう」
そして、マリーの部屋に到着すると、一般兵が五人もいた。
外に二人、中に三人と!
「騎士様、ありがとうございました。しばらく、こちらで護衛をお願いします」
「いえ、住人相手に五人もいれば大丈夫です。催眠術にかかっていますので、それにさえ気を付ければ」と、私が言うと、マリーが怒り出した。
「どういうこと。私の護衛が出来ないというの」と。
私は一呼吸を置いて、一般兵に言った。
「しばらく、退出をしてもらえないか」と。
一般兵が出て行き、マリーと使用人が残った。
そこで、私は、バンダナを取りはずしたため、顔の半分を隠していた顔がさらけ出された。
さらに、後ろで結んでいる髪をアップにした。
「マリーよ。これで私が誰かわかるだろう!」
「ヴィル姉さま……」
「私は、今、棒を持ち、振り回してる住人と闘っているのだ。それを止めて従姉妹の警護など出来るか?」
「いえ、姉さま……」
「なら、マリーよ。することをすべきではないのか? アンナの手伝いとか。それが出来ないのなら、エレオノーラやゾフィー、妹たちを守ってやるとか。ばらばらにいるより固まった方が警備はし易いんだけれども。マリー」
マリーは、考えたのち、「わ、私には、残念ながら、アンナ姉さまのお手伝いは無理ですので、妹たちを守ってやります。エレオノーラのところに行きます」と、答えた。
「わかった。私は首謀者を捕まえに行く。では」と言うと、私はバンダナを結び、顔を隠した。
すると、横にいた使用人が、眼で何かを訴えているのが分かった。
――ああ、そうか、彼女は、ヴィルヘルミーナが使用人に変装してマリーの部屋に来ているのを知っているのか。
まさか、女騎士にまで変装しているとは知らなかったのだな。
「知らなくて良いことを、知ってしまった君は始末だ」なんて、言ったら、卒倒しそうな顔色だったので、どんな悪戯をしようかと必死に考えたが、思いつかなかった。
なので、退出することにした。
***
廊下を走っていると、
「ダーメ・ヴィルマ!」と、他の騎士に廊下で声をかけられた。
「侵入したものは、屋敷に入り、ヴィルヘルミーナ嬢の部屋に進行しているようだ」
「屋敷の中に?」
イカンなぁ。ヴィルヘルミーナの部屋に行ったら、使用人しか知らないことがバレるわ。公然の秘密なので良いのかもしれないが、一般兵や騎士は知らないからな。
いない部屋の護衛も、マリーに言ったことと矛盾するか?
でも、首謀者を引き付けるには良いかもしれない。
「部屋が分かるということは、ステラさんが先導していると?」
「そうだ。彼女が先導している」
――そうか。ステラがいる。おそらく彼女を操っている首謀者も近くで見ているはず。となると、まだ、正体は明かせないな。
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