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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-14.来て頂いても困ります 2
しおりを挟むでは、私とエマリーは先日の議員宅へ行くことにした。
ローズマリーの店の花を持って。
一方、ローズマリーの店からは、イリーゼとヤスミンと三人で、残りの花を売りに行くことにした。
ローズマリーの店の荷車を押して、通りに売りに行く。
やはり、海の男達の方がよく買ってくれるようだ。
しかし、ここは奥様相手に鍋の修理を行っていたヤスミンは、男相手でなく、奥様をターゲットにしたようだ。
理由は、今は、お昼の時間。
外出していても男は仕事中だったりするが、女は買い物中だろう。
つまり、女は財布を預かっている状態で、その後、帰宅するわけなのだ。
「そこの奥さん。食卓に花を飾りませんか」などと言っているようだ。
一方、イリーゼは、レストランの花瓶の花をチェックしているようだ。
しおれていないか?
しおれている花があれば、飛び込み営業だ。
「あのぉ、花瓶の花を取り替えませんか。この花など如何でしょう」と。
特に、店舗となるとまとまって売れるのだから、効率が良い。
「すごいわ。あの二人。危険な海に出る必要なんてなかったのかも」
かくして、その日の花は売り切ってしまった。
「二人ともありがとう。売り切れよ」と、ローズマリーは笑った。
そして、売上を確認し、記載している。
「あの、売上は良いとして、原価はいくらになるのでしょう?」とイリーゼが尋ねた。経理担当者としては気になるのだろう。
「原価?」
「そう、原価」
「なんのこと?」と、答えたローズマリーは、この時代の店主としては、やむを得ないのだろう。
現代日本でも、この様な店主は山ほどいるのだから。
なので、大商人の経理担当をして、大陸式簿記と英国式簿記をマスターしているイリーゼが何を言っているのか、ローズマリーにはわからなかった。
「原価計算の基礎は、こんな感じです」と、かの有名な四角を書いて説明した。
「うちは自分の畑で栽培しているので、『仕入れ』はないわ」
「その場合は、工業簿記を使います」
「なんなの、もうちんぷんかんぷんよ」と言うローズマリーの横にいるヤスミンが、「あちゃ」という顔をしている。
「イリーゼ、私にもよくわからないよ」
「四角がいっぱいになったわ」
「そう、そうですね……」
どうやら、花屋の原価計算は諦めることにしたようだ。
***
さて、私は、ローズマリーの花を馬車に積み込み、エマリーと先日の議員の屋敷に着いた。
門番には、「良い花が見つかりましたので、是非、ご夫人にプレゼントしたいのですけれど。お時間はございまして」と尋ねると、「しばらくお待ちください」と、駆けて行った。
――さて、どうなることか?
突然の訪問なので、出かけているなど、会えないこともあろうかと思い、手紙を用意していた。
しばらくして、門番が駆けてきた。
「奥様はお会いになられるようです」
「エマリー!」
「うん、ミーナちゃん」
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