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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-15.来て頂いても困ります 3
しおりを挟む私たちは、エディンバラ市議長の夫人と面会出来るようだ。
私には、この花が何かはよくわかっていなかったが、ご夫人は喜んでくれるだろうか?
さて、応接間に通された私とエマリーだったが、お互い落ち着かない気持ちを表に出すことは無かった。
そして、夫人が部屋に入って来た。
「遅くなり申し訳ございません。今日は、どうされましたの」
まずは、突然の訪問を詫びるところから始めることにした。
エマリーが立ち上がり、続いて私も立ち上がった。
「奥様、突然の訪問。お許しください」と。
「実は、大変、優れた花屋を見つけましたので、その花を見て頂きたくて、『奥様だけに』お持ちしました」
さすが、エマリーだ。
『奥様だけ』と言われると、自分が特別なのだということになり、優越感を味わうことが出来る。
これぞ、商売なのだろう。
この花は、ご夫人だけのプレゼントなのだ。
ご夫人は、しばらく花を眺めていた。
「育ちが良いのは分かりますわ。花も茎もしっかりしています」と言うと、「ちょっと、グロリアを呼んできて」と、使用人に命じた。
しばらくして、ドアがノックされた。
入って来た使用人がグロリアなのだろう。
「グロリア、この花をどう思う?」
「紫ッ! これはローズマリー。こんなしっかりと成長したローズマリーが、なぜ、ここに?」
このグロリアという使用人は何を言っているのだ?
「いえ、このローズマリーは地中海の植物なのです。
日当たりがよく、水はけがよい土地には簡単に育ちますが、このブリテン島は残念ながら、日当たりが良いとは言えません」と補足してくれた。
「それだけではないわ。ローズマリーは悪魔から守る魔力があると言われているわ。そう、あのマリア様の言い伝えの通りですわ」
言い伝え!
そう、キリスト教には、ローズマリー伝説がある。
それは、この様な話だ。
ある時、聖母マリアがイエス様を抱きかかえてたまま、追われ逃げていた。
追手の眼をごまかすために、幼いイエス様を青いマントで隠したところ、なんと、周りの花が白から青に変わったという。
人々は、「これは、聖母マリアの“不変の愛”の力に違いない」と思ったようだ。
そのため、この花を"聖母マリアの薔薇"、つまり、“ローズマリー”と呼ぶようになった。
なので、花言葉は「不変の愛」で、結婚式に使われる愛の花だ。※1
「奥様、実はこの花は、近くの花屋が栽培しているのです」
「「!?」」
夫人とグロリアが、驚いたのが伝わった。
そして、二人は顔を合わせると、頷いた。
「ぜひ、その花屋を紹介してくださいまし」
「はい」
これで、ようやく本題に入ることが出来る。
犯人からローズマリーの花畑を護るという。
***
「なんですって! この花を荒らした者がいると」
「奥様、これは貴重な花を手に入れる機会を失ってしまいます。旦那様にもご相談を」
「分かりましたわ。主人にも相談してみます」
これで、私たちの出来ることはやり終えたようだ。
あとは、どのようになるのかは、神のみぞ知る。
※1 不変の愛の他、貞操を意味する。
また、ローズマリーは、化粧品の材料でもあり、薬剤の材料でもあるすぐれもののハーブ。
また、ペストにも効くと思われて、ネックレスにしたり、小枝を手にしたりしていたようだが、効果は如何に?
日当たりの悪いブリテン島だが、ウェールズでは埋葬にはローズマリーを使用していたようだ。
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