握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成

5-16.来て頂いても困ります 4

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 その日の夕方。
 例の市議会の議長が帰宅したようだ。

 昼にあったことを夫人が伝えると、議長は頷き聞いていた。
 素晴らしい花を育てることのできる花屋が、このエディンバラにあること。
 その花屋の花畑を荒らしている者がいること。

「貴方、こんな素晴らしいローズマリーの花を見たことはありません。きっと、ペストの感染予防にもなると思うの」
「う~ん、家族を守るためにもか……」

 実は、16世紀から18世紀後半まで、ロンドンでペストの流行は収まる気配すらなかった。
 特に1665年の大流行は、死者10万人を超え、ロンドンの人口の4分の1を死に至らしめた。
 しかし、16世紀では、単に死者の統計を取っていないだけで、決して少ない数値ではなかったのだ。
 ペストは原因不明の「恐怖の死の病気」だったのだ。

 しかし、人々はどことなく気が付いていた。

 抗菌作用のあるハーブを全身に塗りたくると、感染率が低いことを。
 その代表として、ラベンダーやローズマリー、ガーリック、シナモンなどがあったが、医師は「ペストは悪臭が原因」で香りを重視していたため、悪臭防止マスクの中のローズマリーの量が少なかった。
 そして、やはり彼らも死んだ。


「明日、自警団と話してみるよ。調査してくれるかもしれない」
「ありがとう。貴方」

 自警団!

 今のように、国家も領地も警察組織がない中世では、自警団が警察の役目を果たしていた。
 日本では、“岡っ引き”なる自警団があったが、ヨーロッパでもやはり自警団が警察の役目を果たしていた。

 自警団が個人騎士や傭兵を雇用している場合もある。

 さて、市議会の議長から依頼を受けたとなると、自警団も断る訳にもいかず、調査することになった。
 だが、被害を受けたのが城壁外の旧教徒の花屋だ。

「団長、適当な理由を付けて、調査を打ち切りましょうぜ」と、若い団員が、もう放置したいと言っている。
「それなりの調査をしておかないと、議員様だ。今後、何かとご贔屓にしてもらえなくなる。こちらばかり、リクエストするわけにもイカンだろう」
「そ、そうですね……」

 とはいうものの、団長の頭の中には、犯人像は浮かんでいたのだが。


 その日の夜。

 ローズマリーは、こっそり教会へ出かけて行った。
 夜遅い時間は、人の出かける時間ではない。特に、街に街頭のある時代ではない、16世紀だ。
 そして、暗闇に隠れていた。

 そこに猪が現れた。

 墓荒らしの犯人の多くは、猪だったりする。
 死肉を食らうのだ。

 しばらくして、猪は墓を掘り返し、人肉を食らおうとした時、別の動物が現れた。
 狼だ!

 狼は、ニホンオオカミを除き、人間を襲わない。
 何故か、ニホンオオカミは小型にも拘らず、人を尾行して襲ったり、また、墓を荒らして人肉を食らう。

 しかし、ニホンオオカミ以外の狼も、死肉は食べることがある。
 また、狂犬病にかかっていると、人を襲うこともあるらしい。

 さて、狼が猪を襲ったようだ。
 狼の目的は、墓の人肉でなく、猪の様だった。

 猪が絶命し、狼が肉を食しているときに、ローズマリーは動き出した。
 ローズマリーは狼の後ろに立ち、“バシッ”と鞭を振るったため、狼の首は折れ、頭は胴体から垂れ下がっていた。

「いっぱい、肥料が取れたわ」というローズマリーは、なんとも幸せそうだった。



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