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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-19.オマリー海賊団 2
しおりを挟むオマリー海賊団の船が、こちらに近づいてきた。
緊張が走る。
すると、背後から“ポーン”と肩を叩かれた。
エマリーだ。
「落ち着いて、大丈夫よ」
「う、うん」とは言うものの、今、商船三隻がアッと言う間に襲われ、何人かは処分されたのだ。
海には、赤く染まった部分が何か所も出来、血が漂っている。
陸の戦いとは全く異なる。
初めて見る海の戦いの光景に、何か焦りの様なものを感じたからだ。
「ここでは、奴らに勝てない」と。
メインマストの通信使が手旗信号で、何やら通信を行っている。
悪い状況ではないのだろう。慌てている様子もない。
やがて、海賊船が近づいてきた……
さすがに、この時は、息をのんで堪えるように背筋に力が入っり、「ゴクリ」と唾をのんだ。
「おぉ、アインス商会! 久しぶりだな」と、一人の海賊が乗り込んできた。
海賊と言っても、21世紀の諸君がイメージする海賊ではない。
おそらく、諸君がイメージしている海賊は、バッカニアだ!
カリブの遠浅の海を本拠地にし、ピストルを三丁とカットラスとダガーナイフで武装した連中。
実は、この海賊は17世紀後半にいた海賊なのだ。
この16世紀半ばには、そんな奴はいないし、ピストルもまだない。
何故、ピストルが作れないのか?
それは、フリントロック式小銃が開発されていないので、マッチロック式小銃(火縄銃)しかない訳だ。
火縄銃の燃え盛る火縄をピストルサイズに使うには無理があったし、衣服が燃え盛るというもの。
なので、火打石をぶつけて火を起こすという、「撃鉄」を使うフリントロック式小銃が出来てからなのだ。ピストルが出来るのは!
だから、ロングボウとクロスボウは対船戦の飛び道具には欠かせない。
なので、乗り込んできた海賊も、クロスボウを担いでいた。
すると、海賊たちの後ろから声が聞えた。
「おぉ、エマリー・アインホルン。ご無沙汰だね」と、ごつい女の声だ。
歳のころなら、50歳ぐらいだろうか?
そして、燃えるような、しかも、血の色のような赤い赤い髪をしている。
燃える血の様な赤い髪!
「グラーニャ! お久しぶりです」
「随分と羽振りがよさそうじゃないか」と、グラーニャと呼ばれる女は、豪快に笑い飛ばしている。
ブーツにマント、腰には剣を差し、スカートは引きずらない長さにしている。
そして、その体格の良さからも、闘う人間だとわかった。
「グラーニャ! 今回は見て頂きたい武器が多数あります。ぜひ、お買い求めください」
「分かった。見せてもらおう。今、略奪もしてカネもある」と、グラーニャという女が言うと笑い出した。そして、他の海賊たちも笑い出した。
「ただし!」と、グラーニャが言うと、一瞬で、海賊たちが静かになり、緊張が走った。
これから何かが始まるという空気が流れている。
――何が始まるんだろうか?
「そう、ただし。今回は通行料金を払ってもらうよ」
この時、エマリーはオマリー海賊団が、大規模戦闘の準備をしているのだと思った。だから、資金が必要なのだろう。
そして、その資金で、またうちの商会の武器を買ってもらえるのだから、これはwin-winだと思ったのだが……
「ええ、通行料は、いつも通りなら、儲けの1割……」
「いや、すべてだ。全部おいて行きな。船も従業員もだ」と、グラーニャが言うと、海賊たちが「クックク」と小さく含み笑いをしている。
「どういうことなの? グラーニャ!」
「どうもこうもないさ。すべて欲しいのだよ」
「それじゃ、略奪と変わらないのでは」
「そうなのかい。お前らは、どう思うよ?」
「お頭、商売です」と、海賊が大笑いしだした。
「二度と、うちの商会と商売をしないということね」
「それは、その娘が決めることだ」と、グラーニャは私を指さした。
――なんですって! 何故、私が決めることなのさ。
そして、グラーニャは抜剣した。
※ 先日、グレイス・オマリーがピストルを構えているイラストを見かけました。時代的に、ありえません。
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