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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-20.オマリー海賊団 3
しおりを挟むグラーニャは抜剣した!
それは、傘程度の長さだった。
「そこの娘、剣を取れ!」
そういわれて、黙っておける性格ではないのだけれど、何故か、今は「マズイ」と感じている。
闘うのは、良くないと本能が警告している。
「行くぞ!」と、グラーニャがこちらに歩を進める。
「仕方がないッ!」と言うと、私の後方から、ヤスミンが駆けてきた。
このやり取りを見ていたヤスミンが、私の愛剣を取りに行ってくれていたのだ。
――有難い!
「お嬢さま、これを!」と、愛剣の“不折曲欠”のロングソードを持ってきてくれた。
赤い鍔の宝石が光り輝く!
傘程度の短い剣なら、このロングソードの射程には入ることが出来ないはず。
「必殺、vom Tagの構え」と、私は最強にして最大射程距離の攻撃、“秘密の攻撃”の一つ、”怒りの攻撃”を仕掛けることにした。
「あっ!」と、私は声を出した。
すべてが合わないのだ。
間合いも騎士の間合いではない。
さらに、揺れる船の上。
左右が狭く、下がるにも後ろがない。
そして、何よりも、剣が長すぎるのだ。
攻撃にも、防御にも長すぎる。
一方、グラーニャは、この短い剣をブンブンと振り回し、まるで踊るかのように滑らかだ。
「このままでは、やられてしまう。お母さん、どうすれば良いの?」
そう、この時、何故か、私は、命の危機の際、母のことを念じた。
「剣を捨てなさい」というメッセージが聞えたような気がした。
――武器を捨てる? そんなことをしたら。
「いや、捨てる勇気を試されているのかもしれない」と言うと、私は愛用の“不折曲欠”のロングソードを床に置いた。
「ほう、お嬢さん、随分と思い切ったことをする」
しかし、私は籠手もしていない素手だ。
どうなる!?
すると、グラーニャが攻撃してきた。
「なに?」と、グラーニャこと、グレイス・オマリーが呟いたのは、何が起こったのだろうか。
***
ここはラインラントの実家の伯爵邸。
いつものように、父のフォルカーは忙しかった。
書類の整理をしていた。
「ご領主様に裁いて欲しい」という領民が多く、この程度のことなら、領主自ら裁判長にならなくても良いのだが、「隣の家が臭い」だのと言った、裁判を自ら裁いていた。
そうこうしていると、夜も更けてきた……
「ご領主様」と言って、フォルカーの執務室に入って来たのは、アンことアンゲーリカだ。
「水を取り替えましょう」
「おぉ、アンゲーリカ。すまない」
「ご領主様!」
「アンゲーリカ! 何をしている」
「ご領主様、私はご存じの通り、男でも女でもありません。ですが、何も感じないわけではございません」
「それは仕方がないというものだ。あきらめろ」
「しかし……」
「服を着ろ! アンゲーリカッ」と、父のフォルカーは、厳しくアンを叱ったのでした。
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