握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

文字の大きさ
92 / 126
第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成

5-20.オマリー海賊団 3

しおりを挟む

 グラーニャは抜剣した!
 それは、傘程度の長さだった。

「そこの娘、剣を取れ!」
 そういわれて、黙っておける性格ではないのだけれど、何故か、今は「マズイ」と感じている。
 闘うのは、良くないと本能が警告している。

「行くぞ!」と、グラーニャがこちらに歩を進める。

「仕方がないッ!」と言うと、私の後方から、ヤスミンが駆けてきた。
 このやり取りを見ていたヤスミンが、私の愛剣を取りに行ってくれていたのだ。
――有難い!

「お嬢さま、これを!」と、愛剣の“不折曲欠”のロングソードを持ってきてくれた。

 赤い鍔の宝石が光り輝く!

 傘程度の短い剣なら、このロングソードの射程には入ることが出来ないはず。
「必殺、vom Tagの構え」と、私は最強にして最大射程距離の攻撃、“秘密の攻撃”の一つ、”怒りの攻撃”を仕掛けることにした。

「あっ!」と、私は声を出した。
 すべてが合わないのだ。

 間合いも騎士の間合いではない。
 さらに、揺れる船の上。
 左右が狭く、下がるにも後ろがない。
 そして、何よりも、剣が長すぎるのだ。

 攻撃にも、防御にも長すぎる。

 一方、グラーニャは、この短い剣をブンブンと振り回し、まるで踊るかのように滑らかだ。
「このままでは、やられてしまう。お母さん、どうすれば良いの?」

 そう、この時、何故か、私は、命の危機の際、母のことを念じた。

「剣を捨てなさい」というメッセージが聞えたような気がした。

――武器を捨てる? そんなことをしたら。

「いや、捨てる勇気を試されているのかもしれない」と言うと、私は愛用の“不折曲欠”のロングソードを床に置いた。

「ほう、お嬢さん、随分と思い切ったことをする」

 しかし、私は籠手もしていない素手だ。

 どうなる!?

 すると、グラーニャが攻撃してきた。
「なに?」と、グラーニャこと、グレイス・オマリーが呟いたのは、何が起こったのだろうか。


***


 ここはラインラントの実家の伯爵邸。

 いつものように、父のフォルカーは忙しかった。
 書類の整理をしていた。
「ご領主様に裁いて欲しい」という領民が多く、この程度のことなら、領主自ら裁判長にならなくても良いのだが、「隣の家が臭い」だのと言った、裁判を自ら裁いていた。
 そうこうしていると、夜も更けてきた……

「ご領主様」と言って、フォルカーの執務室に入って来たのは、アンことアンゲーリカだ。
「水を取り替えましょう」
「おぉ、アンゲーリカ。すまない」

「ご領主様!」
「アンゲーリカ! 何をしている」
「ご領主様、私はご存じの通り、男でも女でもありません。ですが、何も感じないわけではございません」
「それは仕方がないというものだ。あきらめろ」
「しかし……」
「服を着ろ! アンゲーリカッ」と、父のフォルカーは、厳しくアンを叱ったのでした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...