105 / 126
第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船
6-1.食べてしまいましたでガス
しおりを挟むクレア島を後にした私たちは、ドーバー港を経由して、ロッテルダムに来ていた。
その間、新しいメンバーであるイライザを見て驚いた。
なんと、エマリーよりも大きいわ。
軽く170センチを超える身長に加え、分厚い身体はパワーあふれる剣闘士かと思うほどだ。
グラーニャは、ドイツ人と言っていたので、何故、クレア島にいたのだろうか?
「いやぁ、実は……」とはにかむイライザは従順と言う感じで、可愛いオバはんだった。
オバはん!
この時代の庶民は、15歳から20歳で嫁に行くので、25歳ぐらいと言うと、厳しい年齢だ。
「実は?」
「故郷で、よその旦那を……つい」
「つい?」と、私もエマリーたちも、イライザの顔を覗き込んでしまった。
「やってしまったんでがす」
「やってしまった」と聞いて、ローズマリーが悲鳴のような声を上げ騒いでいる。
「なんと、汚らわしいわ。汚らわしいわ」
いや、本人の前だから、止めてね。ローズ。
「それで、村を追い出されて、港町について力仕事でもしようと働いていたら、また、良い男がいたので、また……つい」
「また、つい?」
「港町もいられないと思い、船に乗り込んで力仕事をしようと思い、船に乗り込んだんでがす」
――あぁ、もう聞かなくてもわかるわ。狭い船内だから、狙われたらもうダメでしょう。
「それで、つい」
「……」
「すべての水夫を、ついしてしまったところ、オマリー海賊団に襲われて、連れて行かれてしまったのでがす」
「そ、そうなのね」
「んだ。つい、クレア島までさらわれてしまったで」
これは、アインス商会の男達は、次の港で、降りてもらおう。
トラウマにでもなり、無能力者にされてしまいかねない。
かくして、我が海賊団が女ばかりになったのは、このイライザを引き取ったからだ。
「いやぁ、エマリー、見事に女だらけになったわ」
「なったわねぇ」
「「とほほ」」
航海士を眺めて目の保養を楽しみにしていたとは、今さら言えないわ。
そして、身体がデカいとなると、飲食の量も桁違いになる。
こいつを養うために仕事しないとイケないような気がするわ!
「ラム酒ぅ」と言って、かなり濃いめのラムを飲んでいる。
ラム酒も医療用消毒に使うものは、アルコール度数70%のものを。
飲料用は40%のものを保管している。
40%にしているのは、腐りにくいからだ。
これを、1:4の割合に薄めてから飲むのだけれど、身体がデカいと薄める必要がないようだ。
こんな面白いメンバーを加えて、ロッテルダムに着いた。
ドーバー港で私掠船登録をし、ここ北ネーデルランド、つまり、オランダでも私掠船登録をした。
「これでスペインを、バンバン襲えるぞ。ガハハ!」
ところが、ロッテルダムのアインス商会の支店から、連絡があった。
「ガレオン船が完成したので、ヤスミンに確認して欲しい」とのことだ。
「エマリー、何故、ヤスミンなのだ?」
「ああ、実は、彼女がね。新兵器を搭載しているの。それが予定通りの性能かどうか、試験をすると思うわ」
「ほう、どんな兵器なの?」
「68ポンド砲という、世界最大級の大砲を作ったのよ」
「ほう、数に劣るので威力で勝るということね」
「でも、今は、クライネスたちの移動孤児院になっているそうよ」
「ははは、それは楽しそうだ」
そこで、折角なので休暇にしよう。
そして、私たちは、ヤスミンに付いて行くことにした。
途中、私は、実家に戻り、父に会うつもりだ。
「アンもバート・メルゲントハイムで別れた切りだし、元気にしているかな」
そのアンだが、屋敷で不審なことをしていた。
なんと、使用人のアンが領主の父:フォルカーのことを呼び捨てにしているのだ。
「フォルカー、フォルカー。魔女が来る。魔女が来るぞ」
「アンゲーリカ、落ち着くのだ」
謹慎処分に続き、あのアンが一体、どうしたのでしょうか。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる