握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船

6-1.食べてしまいましたでガス

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 クレア島を後にした私たちは、ドーバー港を経由して、ロッテルダムに来ていた。
 その間、新しいメンバーであるイライザを見て驚いた。

 なんと、エマリーよりも大きいわ。
 軽く170センチを超える身長に加え、分厚い身体はパワーあふれる剣闘士かと思うほどだ。

 グラーニャは、ドイツ人と言っていたので、何故、クレア島にいたのだろうか?
「いやぁ、実は……」とはにかむイライザは従順と言う感じで、可愛いオバはんだった。
 オバはん!
 この時代の庶民は、15歳から20歳で嫁に行くので、25歳ぐらいと言うと、厳しい年齢だ。

「実は?」
「故郷で、よその旦那を……つい」
「つい?」と、私もエマリーたちも、イライザの顔を覗き込んでしまった。
「やってしまったんでがす」

「やってしまった」と聞いて、ローズマリーが悲鳴のような声を上げ騒いでいる。
「なんと、汚らわしいわ。汚らわしいわ」
 いや、本人の前だから、止めてね。ローズ。

「それで、村を追い出されて、港町について力仕事でもしようと働いていたら、また、良い男がいたので、また……つい」
「また、つい?」

「港町もいられないと思い、船に乗り込んで力仕事をしようと思い、船に乗り込んだんでがす」
――あぁ、もう聞かなくてもわかるわ。狭い船内だから、狙われたらもうダメでしょう。

「それで、つい」
「……」
「すべての水夫を、ついしてしまったところ、オマリー海賊団に襲われて、連れて行かれてしまったのでがす」
「そ、そうなのね」
「んだ。つい、クレア島までさらわれてしまったで」

 これは、アインス商会の男達は、次の港で、降りてもらおう。
 トラウマにでもなり、無能力者にされてしまいかねない。

 かくして、我が海賊団が女ばかりになったのは、このイライザを引き取ったからだ。

「いやぁ、エマリー、見事に女だらけになったわ」
「なったわねぇ」
「「とほほ」」
 航海士を眺めて目の保養を楽しみにしていたとは、今さら言えないわ。

 そして、身体がデカいとなると、飲食の量も桁違いになる。
 こいつを養うために仕事しないとイケないような気がするわ!

「ラム酒ぅ」と言って、かなり濃いめのラムを飲んでいる。
 ラム酒も医療用消毒に使うものは、アルコール度数70%のものを。
 飲料用は40%のものを保管している。
 40%にしているのは、腐りにくいからだ。
 これを、1:4の割合に薄めてから飲むのだけれど、身体がデカいと薄める必要がないようだ。

 こんな面白いメンバーを加えて、ロッテルダムに着いた。
 ドーバー港で私掠船登録をし、ここ北ネーデルランド、つまり、オランダでも私掠船登録をした。
「これでスペインを、バンバン襲えるぞ。ガハハ!」

 ところが、ロッテルダムのアインス商会の支店から、連絡があった。
「ガレオン船が完成したので、ヤスミンに確認して欲しい」とのことだ。

「エマリー、何故、ヤスミンなのだ?」
「ああ、実は、彼女がね。新兵器を搭載しているの。それが予定通りの性能かどうか、試験をすると思うわ」
「ほう、どんな兵器なの?」
「68ポンド砲という、世界最大級の大砲を作ったのよ」
「ほう、数に劣るので威力で勝るということね」

「でも、今は、クライネスたちの移動孤児院になっているそうよ」
「ははは、それは楽しそうだ」

 そこで、折角なので休暇にしよう。
 そして、私たちは、ヤスミンに付いて行くことにした。
 途中、私は、実家に戻り、父に会うつもりだ。
「アンもバート・メルゲントハイムで別れた切りだし、元気にしているかな」

 そのアンだが、屋敷で不審なことをしていた。
 なんと、使用人のアンが領主の父:フォルカーのことを呼び捨てにしているのだ。
「フォルカー、フォルカー。魔女が来る。魔女が来るぞ」
「アンゲーリカ、落ち着くのだ」

 謹慎処分に続き、あのアンが一体、どうしたのでしょうか。



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