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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船
6-2.子役のペティ
しおりを挟むライン川は下流のロッテルダムから中流のボンまでは標高差がなく、船で上るのには困難はしない。
しかし、上流はスイスまで伸びており、徐々に流れが速くなる。
私たちは、中流までキャラベルで上ってきたが、ここからは、キャラベルを停め、馬車で移動することにした。
要は、必要なのはヤスミンだけなのだ。
ヤスミンが、早くボーデン湖まで着けばよいのだ。
屋敷に帰ったら、父に海賊のことを話しても大丈夫なのだろうか?
エマリー、イリーゼは父に挨拶をするそうだ。
そして、帰宅して驚いた。
屋敷の使用人たちが、暴れるアンを抑えている。
「アンゲーリカさん、落ち着いてください。落ち着いて」
私たち三人は、呆然と見つめていた。
「アン? アンなの?」
そのアンは、「フォルカー、魔女が来ると言っているのが分からないのか」と言っている。
――なんのことだ?
「アンゲーリカを部屋に閉じ込めろ」と言ったのは、父のフォルカーだ。
「フォルカー!」とアンは手を伸ばして言った。
その時、私には、何故か、アンの声が母のマリアンヌの声に聞こえた。
気のせいだ。
母は既に他界している。
「おぉ、ヴィル。すまない。変なところを見せて」
「お父さま、アンは一体、どうしたの?」
父の話では、バート・メルゲントハイムから帰ってからのアンは、しばしば、奇行を行っていたようだ。
「ヴィル、バート・メルゲントハイムでは、何かアンにおかしなことは無かったか」
私は、『賢い女たち』の魔女たちにさらわれたことを思い出した。
「実は、お父さま……」
「そうか、そんなことがあったのか。それで気がふれてしまったのだろう。今まで尽くしてくれただけに」と言うと、父は俯いてしまった。
父には、私掠船登録をしたということを話した。
将来、領主になるのに必要な経験だと話したところ、反対されるかと思ったが、意外にも、「オマリーの言う通りだ」と言われたのには驚いた。
また、「私掠船の範疇に収めておけ」とも言われた。
そして、私は、アンのいる部屋に行くことにした。
1年ぶりだし、あの奇行も気になる。
ノックをし、「アン、入るわよ」と使用人が鍵を開け、部屋に入った。
アンは、私の顔を見ると、「あら、ヴィル! お元気そうですね」と言った。
これは、アンの挨拶ではない!
この「お元気そうですね」というのは、母の口癖だ。どういうことだ。
***
「ペティさま」と、幼女は声をかけられた。
「クレマンティーヌたちは、元気にやっておるのか」
「はい、ジョルジュの話では、アンゲーリカに催眠術を掛けて、屋敷に送ったとのことです」
「ブルゴーニュのアホどもも、そろそろ決着を付けないと、ダメね」
「はい、これ以上、魔女の無駄遣いは出来ません」
「それより、新しいクレマンティーヌを用意した方が良いのではないか」
「はい、候補者が見つかりました」
「まあ、私はブルゴーニュなど、どうでも良いわ。帝国が乱れてくれたら」
新しいクレマンティーヌを用意するとは、一体、この連中は、何を言っているのだろうか?
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