握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船

番外編 ヴァルプルギスの夜 1

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 私が、5歳の誕生日を迎えた時、異変が起きた。
 その日は、屋敷で両親と兄たちと、誕生日を祝ってもらっていた。

 その日の晩のこと、ロウソクの火を眺めていたら、誰かの記憶がフラッシュバックしてきた。
 それは、見たことのない景色のはずなのに、よく知っているという不思議な景色だった。

 私は、生まれ故郷のラインラントから出たことは無い。
 はずなのに、フラッシュバックしている光景は、ボーデ峡谷にある川だった。

 そこには、森に少女が歌を歌いながら薬草を取りに来ていたようだ。
 その歌の名前はわからないが、私の良く知っている歌だったので、つい私もつられて歌ってしまった。
「だれ? 誰かいるの?」と、少女の不安そうな声が聞えた。

 私は、少女に「申し訳ない」と思い、立ち去ろうとした時、森に隠れていた魔女たちが少女を囲んでしまった。
 少女は驚き、そして、叫んだ!
「神よ!」と。

 さらに、十字を切ると、落雷が落ち魔女たちは退散した。

 そう、これは、いわゆる「ハルツの魔女伝説」の一つだ。
 しかし、逃げたのは森の魔女だが、この少女は何者だろうか?
 単に、キリスト教の信者ということで良いのだろうか?

 また、別人の記憶では、「魔女の踊り場」にたどり着いてしまった少女の記憶があった。
 その少女は、旅の途中、ターレの街に寄った際、道が分からず、ある女性に道を尋ねたところ、その女性の言うとおりに進むと、「魔女の踊り場」にたどり着いてしまった。
 そして、彼女は、魔女に囲まれ、魔女にされてしまった。
 その後の彼女は、魔女となり、森に住み、薬草を採取して高値で人々に売りつけ、「ひどい魔女だ」と罵られるようになった。

 そうやって、何人も何人もの魔女の記憶が目の前を過ぎ去って行く。

 最後に見た女は、薬草を高値で売りつけたなど、そんな軽い話ではない。
 王国を我が物にしようとした女の話だ。

 この女の力は、相手の眼を見て話せば、自分の思い通りに相手を動かせるというものだ。
 最初は、実家の使用人に使っていたのが、徐々に、家の外でも使うようになり、商人、貴族を思うように扱い、貴族の養女となった。
 その女の野望はとどまることを知らず、王族との婚姻を望むようになり、王太子と婚約に至ったようだ。
 しかし、その後の記憶がない。
 おそらく、死亡したのだろう。

 この様な、何人もの人生の記憶が私の頭の中にあり、しばしば、反芻していることがあったが、私にとっては、本を読む程度の楽しみでしかなかったので、学園に入るまでさほど重要ではなかった。
 しかし、私はこの魔女たちの記憶が、素晴らしいことに気が付いてしまったの。

 眼を見て相手を動かせる。あるいは、相手の記憶を知る。こちらの情報を与える。最も強い力を行使した場合は、人格も入れ替えることが出来る。
 そんな力の使い方が記憶されている。

 つまり、私は、少ない努力で多くのものを得ることが出来た。
 だから、学園の成績が上位なのは言うまでもない。

 また、私には新たな能力が目覚めたのだ。
 私と同じ能力を持つ者が分かるという能力が。

 魔女の周りには、うすぼんやりと色が着く。オーラとでも言おうか?
 それは、うすいピンクであったり、淡い黄色だったりする。
 そして、大概の者は、自分に魔女の才能があるとは知らずに生活をしている。何ら問題は無い。

 だが、我が屋敷の中に、とてつもない、禍々しい濃い紫から黒色のオーラを発する女使用人がいることに気が付いた。

 しばらくすると、屋敷の中の使用人の中に、彼女ほどではないが、黒いオーラを発する者が出始めた。
「これは一体、なにが?」

 しばらくして、屋敷の中の使用人たちの仲が悪くなったように感じる。ギスギスしている。
「ちょっと、貴方、最近、何かあったの?」と、使用人を捕まえた。
「いえ、お嬢さま、大したことではありません」と、回答したので、私は、誰もいないことを確認し、彼の眼を覗き込んだ。

 すると、
「実は、部下が突如、反抗的になり、また、おかしなことを口走ったりするのです。気持ち悪くて」
「そうだったの。その部下さんにお会いしたいわ。案内して頂戴な」と言うと、私の力のせいだろう、部下のところに案内してくれた。

 私が、突如、使用人室に入って来たのだから、皆、パニックだ。
「どなたなの?」
「彼です」と、使用人が指さした。
 すると、黒い煙の様なオーラが出ているが、私の顔を見ても慌てる様子もなく、「お嬢さま」と言っている。

 さすがに、これには、イラっと来た。真っ黒いすすの様なオーラを吐き出しながら「お嬢さま」は無いだろう。
 私は、彼の髪の毛をムンズと掴み、引きづり倒した。

 そして、彼は私の眼を見てしまったのだ。
「お前は誰なの?」
「私は、屋敷の使用人のアルミンです」
「そう、アルミン。貴方の使用者は誰なの? ここ数日のことを話しなさい」
「……」
「これは、力を使って話せないようにしているわ」
――ならば、こちらも力を使うしかない。

「アルミン、アルミン、私に話しなさい。さすれば、貴方は楽になるわ」
 しばらくして、アルミンと言う男は、吐くように話し出した。

「クレマンティーヌという女に呼ばれたかと思うと……気を失い……」と言ったところで、「はッ」とアルミンは気を取り戻した。
「目が覚めたようね」
「お嬢さま、申し訳ございません」

 その後、聞き取りをしようとしても、ここ数日の記憶がないようだ。
 しかし、アルミンが殺人未遂などを犯したわけでなく、上司と不仲だっただけだ。大問題には至っていないし、これを領主の父に報告するのは、如何なものだろうか?
「まずいな。私には協力者がいないわ」

 だが、クレマンティーヌを放置も出来ない。
「アルミン。クレマンティーヌという使用人は、どこ?」
 私は本人の確認をする必要があると思った。

 そして、驚いたことに、最近、屋敷の使用人になったばかりと言うのに、領主の父の部屋に出入りが出来るようになっていた。
「なぜ?」

 それは、一目瞭然だった。
 クレマンティーヌの周りの使用人は、皆、黒いオーラを発していたのだから。
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