107 / 126
第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船
番外編 ヴァルプルギスの夜 1
しおりを挟む私が、5歳の誕生日を迎えた時、異変が起きた。
その日は、屋敷で両親と兄たちと、誕生日を祝ってもらっていた。
その日の晩のこと、ロウソクの火を眺めていたら、誰かの記憶がフラッシュバックしてきた。
それは、見たことのない景色のはずなのに、よく知っているという不思議な景色だった。
私は、生まれ故郷のラインラントから出たことは無い。
はずなのに、フラッシュバックしている光景は、ボーデ峡谷にある川だった。
そこには、森に少女が歌を歌いながら薬草を取りに来ていたようだ。
その歌の名前はわからないが、私の良く知っている歌だったので、つい私もつられて歌ってしまった。
「だれ? 誰かいるの?」と、少女の不安そうな声が聞えた。
私は、少女に「申し訳ない」と思い、立ち去ろうとした時、森に隠れていた魔女たちが少女を囲んでしまった。
少女は驚き、そして、叫んだ!
「神よ!」と。
さらに、十字を切ると、落雷が落ち魔女たちは退散した。
そう、これは、いわゆる「ハルツの魔女伝説」の一つだ。
しかし、逃げたのは森の魔女だが、この少女は何者だろうか?
単に、キリスト教の信者ということで良いのだろうか?
また、別人の記憶では、「魔女の踊り場」にたどり着いてしまった少女の記憶があった。
その少女は、旅の途中、ターレの街に寄った際、道が分からず、ある女性に道を尋ねたところ、その女性の言うとおりに進むと、「魔女の踊り場」にたどり着いてしまった。
そして、彼女は、魔女に囲まれ、魔女にされてしまった。
その後の彼女は、魔女となり、森に住み、薬草を採取して高値で人々に売りつけ、「ひどい魔女だ」と罵られるようになった。
そうやって、何人も何人もの魔女の記憶が目の前を過ぎ去って行く。
最後に見た女は、薬草を高値で売りつけたなど、そんな軽い話ではない。
王国を我が物にしようとした女の話だ。
この女の力は、相手の眼を見て話せば、自分の思い通りに相手を動かせるというものだ。
最初は、実家の使用人に使っていたのが、徐々に、家の外でも使うようになり、商人、貴族を思うように扱い、貴族の養女となった。
その女の野望はとどまることを知らず、王族との婚姻を望むようになり、王太子と婚約に至ったようだ。
しかし、その後の記憶がない。
おそらく、死亡したのだろう。
この様な、何人もの人生の記憶が私の頭の中にあり、しばしば、反芻していることがあったが、私にとっては、本を読む程度の楽しみでしかなかったので、学園に入るまでさほど重要ではなかった。
しかし、私はこの魔女たちの記憶が、素晴らしいことに気が付いてしまったの。
眼を見て相手を動かせる。あるいは、相手の記憶を知る。こちらの情報を与える。最も強い力を行使した場合は、人格も入れ替えることが出来る。
そんな力の使い方が記憶されている。
つまり、私は、少ない努力で多くのものを得ることが出来た。
だから、学園の成績が上位なのは言うまでもない。
また、私には新たな能力が目覚めたのだ。
私と同じ能力を持つ者が分かるという能力が。
魔女の周りには、うすぼんやりと色が着く。オーラとでも言おうか?
それは、うすいピンクであったり、淡い黄色だったりする。
そして、大概の者は、自分に魔女の才能があるとは知らずに生活をしている。何ら問題は無い。
だが、我が屋敷の中に、とてつもない、禍々しい濃い紫から黒色のオーラを発する女使用人がいることに気が付いた。
しばらくすると、屋敷の中の使用人の中に、彼女ほどではないが、黒いオーラを発する者が出始めた。
「これは一体、なにが?」
しばらくして、屋敷の中の使用人たちの仲が悪くなったように感じる。ギスギスしている。
「ちょっと、貴方、最近、何かあったの?」と、使用人を捕まえた。
「いえ、お嬢さま、大したことではありません」と、回答したので、私は、誰もいないことを確認し、彼の眼を覗き込んだ。
すると、
「実は、部下が突如、反抗的になり、また、おかしなことを口走ったりするのです。気持ち悪くて」
「そうだったの。その部下さんにお会いしたいわ。案内して頂戴な」と言うと、私の力のせいだろう、部下のところに案内してくれた。
私が、突如、使用人室に入って来たのだから、皆、パニックだ。
「どなたなの?」
「彼です」と、使用人が指さした。
すると、黒い煙の様なオーラが出ているが、私の顔を見ても慌てる様子もなく、「お嬢さま」と言っている。
さすがに、これには、イラっと来た。真っ黒いすすの様なオーラを吐き出しながら「お嬢さま」は無いだろう。
私は、彼の髪の毛をムンズと掴み、引きづり倒した。
そして、彼は私の眼を見てしまったのだ。
「お前は誰なの?」
「私は、屋敷の使用人のアルミンです」
「そう、アルミン。貴方の使用者は誰なの? ここ数日のことを話しなさい」
「……」
「これは、力を使って話せないようにしているわ」
――ならば、こちらも力を使うしかない。
「アルミン、アルミン、私に話しなさい。さすれば、貴方は楽になるわ」
しばらくして、アルミンと言う男は、吐くように話し出した。
「クレマンティーヌという女に呼ばれたかと思うと……気を失い……」と言ったところで、「はッ」とアルミンは気を取り戻した。
「目が覚めたようね」
「お嬢さま、申し訳ございません」
その後、聞き取りをしようとしても、ここ数日の記憶がないようだ。
しかし、アルミンが殺人未遂などを犯したわけでなく、上司と不仲だっただけだ。大問題には至っていないし、これを領主の父に報告するのは、如何なものだろうか?
「まずいな。私には協力者がいないわ」
だが、クレマンティーヌを放置も出来ない。
「アルミン。クレマンティーヌという使用人は、どこ?」
私は本人の確認をする必要があると思った。
そして、驚いたことに、最近、屋敷の使用人になったばかりと言うのに、領主の父の部屋に出入りが出来るようになっていた。
「なぜ?」
それは、一目瞭然だった。
クレマンティーヌの周りの使用人は、皆、黒いオーラを発していたのだから。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる