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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船
番外編 ヴァルプルギスの夜 2
しおりを挟む「やられたわ」
もうすでに、クレマンティーヌの周りの人たちは、黒いオーラを発していた。
この中年女は、かなり行動力があるようだ。
しかし、弱点も見つけた。
あのアルミンが教えてくれたのだ。
「お嬢さま、実は、昨日、クレマンティーヌが私に接触してきました。『そろそろ、催眠術が切れるころね。新たな催眠術を貴方にかけておくわね』と、言って私の眼を見てきたのです」
「そ、それで、どうしたの」
「はい、ちょうど、その時、別の使用人が私のところに来て、『人手が足らない』ということで、事なきを得ました」
これでわかったことがある。
クレマンティーヌは、私のようにオーラを、視覚で判断できないのだ。
何故なら、アルミンからは、もう黒いオーラは出ていない。
クレマンティーヌは、オーラを見ることが出来ないということが分かった。
それと、「催眠術」なのか、この力は。
その「催眠術」の力は、上書きしないとイケない。
私は、学園時代、一度かけた力は、学園時代通じて有効だった。
つまり、私の力なら、クレマンティーヌのかけた催眠術の上書きも出来るのではないか?
「アルミン、ちょっと、ゴニョニョ……」
「お嬢さま、暴力的な……」
「でも、放置していたら、この屋敷がおかしくなるわ」
数日後
使用人たちが発する、黒いオーラの数が減っていた。
「アルミン、成功ね」
「はい、お嬢さま。ですが、元凶を絶たないと危ないのでは」
――そうなのだ。あの女を始末しないと屋敷が危ない。
「で、彼女は何者なの?」
「わかりません。フランス出身のようですが、どの領地出身か、誰も聞いたことが無いようです」
そんなある日、宮廷から父が帰ってきた。
「実は、お前に見合い話があるのだが、どうだろうか?」
正直、屋敷どころか、父上自身も危ないというのに、見合いの話で浮かれているわけにはいかない。
断るつもりだった。
だが、父の部下であり、誠実な男らしい。
それは、兄たちも良く知っている男で、「悪い男ではない。良い奴だよ。ただ、次男ということで、どこか人生を諦めている感がある」と言っていた。
父の頼みなので、断りづらい。しかも、兄たちと顔見知りだ。
どうしたものか?
次男か……
ならば!
「お父さま、次男ということでしたら、我が領地の一部を与えてはいかがでしょうか? ワタクシも、いつでもお父さまのところに帰って来れますわ」
「そうか。でも、それは話がまとまった時の話ではないのか」
「そ、そ、そうでしたわ」
かくして、私は、大して良いとも思わない男と婚約をすることにした。
しかし、結婚までに、このクレマンティーヌを始末しないと、嫁にも行けないわ。
***
一方、クレマンティーヌは、異変に気付いていた。
「私の催眠術が効いていない。これは、どこかの魔女がテコ入れしているに違いない。一体だれが?」
しかし、上書きをする必要のない私の力の前に、クレマンティーヌの催眠術は勝てなかった。
「ならば、直接、領主の命を狙うしかない。来週は、プラハから帰って来る」
そして、クレマンティーヌは決行した。
***
その日の夜は、騒がしかった。
「なに? 騒がしいわ。夜中なのに」
馬が走っている音が聞えた。
「馬ですって! それって!」
この屋敷は山城なのだ。
街の中の屋敷なら、いざ知らず。
要塞のような山城を攻めること等、ありえない。
だが、屋敷の中に敵兵が入っているのが分かった。
「着替えないと」
廊下に出ると兄たちは、軽装備をして走っていた。
「部屋から出てはいけない」と、兄が言った時、閃いた。
狙いは、父か私だと。
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