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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船
番外編 ヴァルプルギスの夜 3
しおりを挟む敵は、いとも簡単に屋敷の中に入ってきていた。
なぜ?
それは、門番が開けたからだ。
「何故、門番が門を開けたのだ」と、上の兄の怒鳴り声が聞こえている。
それは、当然のことだ。門番が仕事をしていないということだから。
しかし、私は理解した。
これはクレマンティーヌの仕業だ。
私は、屋敷の中の主な使用人に催眠術を解除していたが、屋敷の外回りまでは至らなかった。
「やられたわ」
そして、結構な数の傭兵が、屋敷の中に入ってきている。
私も狙われているのなら、部屋にいては危ないのではないか。
部屋の明かりを消し身を隠すことにした。
しかし、いつまで経っても、屋敷が騒がしく戦闘が続いているようだ。
――上手く行くかどうかわからないけれど、ひとつ、護身のため考えが閃いたわ。
私は、こっそりと廊下に出た。
屋敷の騎士を捕まえ、力を使うことにした。
「ちょっと、貴方、私の眼を見て頂戴な」
「お嬢さま?」
しばらくして、私の中に、あらゆる知識が入り込んできた。
馬術、剣術、小銃の使い方。
この騎士は、馬術が得意なのか。
私は、馬に乗りたいとも思わなかったけれど、落ち着いたら、やってみようか?
また別の騎士を捕まえては、「この騎士は、剣術に槍、体術も素晴らしいものを持っているわ」と、騎士の知識を力によって吸収していった。
「これで、部屋にある剣を使えるようになったのではない?」と言うと剣を抜剣した。
私は、何の稽古もなしで、一度で剣を抜くことが出来た。
「よし、クレマンティーヌのところへ行くわ」
「お嬢さま、私も一般兵の訓練を受けています。お供いたします」と、アルミンが申し出てくれた。
***
「領主の部屋は、この先よ」
「へい、クレマンティーヌ様」
一般兵も騎士も他の傭兵の相手をしているうちに、クレマンティーヌと数名の傭兵が父のところへ向かっていた。
「おい、お前、私の眼を見ろ」
「えっ、なんだ?」と言うと、その傭兵は気を失っていた。
すかさず、アルミンがとどめを刺すと、傭兵たちが怒り出した。
「はぁぁぁ、『怒りの攻撃』」と、私は傭兵を一刀両断した。
もう一人は、アルミンが相手をしている間に、クレマンティーヌを捕まえた。
「催眠術が……」と言っているところから、私に催眠術を掛けようとしているのだろう。
痛くも痒くもない。
逆に私の力が発動していたのだろう、クレマンティーヌは自白し始めた。
「私は、ブルゴーニュ公国の生き残り、ブルゴーニュ公国が嘗て支配したラインラントから旧ネーデルラントを取り戻しに来た。
そして、マリー様を殺したライン宮中伯を殺す。そして、滅ぼす。お前ら一族を殺す」
「どうやって、滅ぼすのだ。言ってみろ」
「傭兵と『賢い女たち』の魔女たちを使い、領主も一族も操り滅ぼすのだ」
私は絶句した。
あの黒いオーラは、『賢い女たち』の魔女たちの力だったのか?
「魔女たちが、ここの使用人や一般兵を魔女にして操るのだ」
「残念だが、クレマンティーヌ。私が、すべて解除しておいた」
すべてとは、嘘だ。
実際、門番が催眠術にかかるとは予想外だった。
「クレマンティーヌ、格が違ったようだ」
「なに、マリアンヌ! お前は魔女だったのか?」
「ああ、すまないな。私は生まれ持っての魔女なのだ」
そして、私はクレマンティーヌにとどめを刺した。
クレマンティーヌは、私たちと傭兵との争いの中、死亡したことにしておいた。
「アルミン、今、私の言ったことは嘘だ。忘れろ」
「はい、お嬢さま」
かくして、私は、結婚前にクレマンティーヌを始末することに成功した。
そして、父や兄たちに、『賢い女たち』の魔女たちが近づいても、催眠術がかからないように、私の力でプロテクトしておいた。
さすがに、身内としては、気持ちの良いものではなかったが、ブルゴーニュ公国の生き残りなどが、闊歩されては、我が故郷も安泰とは言えないからね。
そして、私は、フォルカーなる男と結婚するが、彼にはラインラントの中の一部を領地として与え、私は、このラインラントの地にブルゴーニュ公国の生き残りや『賢い女たち』の魔女たちが入って来ないか、この地から離れず見張ることにした。
フォルカーは、真面目な男だった。
誰の話もよく聞く、優しさもあった。
私も夫としては、良いのではないかと思えるようになっていた。
二人の間には、男の子が生まれたが、ある冬、体調がすぐれない日が続き、肺炎をこじらせた。
薬草の知識があるので、薬を用意させたが、なんと不幸なことに品切れだという。
自分に薬草の知識があるから、油断をしていた。
手遅れとなってしまい、息子を失うことになろうとは。
しばらくは、失意の中、生活をしていたが、フォルカーが乗馬に誘ってくれた。
私の知識の中に、乗馬の知識があったので、乗ってみた。
乗っているときは心地よいのだけれども、尻が痛い。
すると、アンゲーリカと言う訳アリの使用人が、尻に軟膏を塗ってくれた。
「アン! 今、貴女の股間はどうなっています?」と、からかってやったわ。
しばらくは、妊娠などすることもなかったのだけれども、35歳の時に女の子を出産した。
なんと、大きい女の子なの……
その娘が学園に入ろうかと言う頃、屋敷に異変が起きた。
なんと、あのクレマンティーヌと同じ、黒いオーラを持った使用人が、この屋敷にいるではないか!
また、私の静かな幸せを、魔女たちが壊しに来たということだわ。
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