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第六章 ヴィルヘルミーナの白い海賊船
6-3.さらわれたアン
しおりを挟むエマリーたちは、先にガレオン船のあるボーデン湖へと出発した。
私は、アンと話すことにした。
なぜ、アンが母の口真似をしたのか、気になったからだ。
「アン、教えて。何故、母の口真似をしたの?」
「……」
意外にも、アンは無言だった。
「どうしたの? アン、何かあったの」
その日のアンは、一言も発することが無かったので、私は諦めることにして部屋を出た。
私は、アンとの思い出は、すべて楽しいものであったので、この日のアンの態度を見てショックを受けた。
――アン……
次の日の朝
使用人たちが、ざわついている。
「どうしたのかしら」
「お嬢さま、アンゲーリカさんがいないのです」
「いないって」
父にも報告をしたところ、父は渋い顔をしていた。
「ヴィル、これを」と手紙を渡された。
この便せんの紋章は、ブルゴーニュ公のものでは?
その手紙の中には、
「アンゲーリカは、我々、ブルゴーニュ公国が預かった。明後日、朝日の上る時間にローレライの岩上に来るように。来ない場合はアンゲーリカを岩から落とす」と書かれていた。
「お父さま」
「ブルゴーニュとなると、我が領地だけの問題ではない。ライン宮中伯にも関係してくる問題だ。ライン宮中伯にも連絡を出す。『ブルゴーニュの生き残りが暗躍している』と。場合によっては、軍事協力を求めるかもしれない」
確かに、敵は傭兵を集めているかもしれない。その場合、どの程度の規模かわからないので、あらかじめ、ライン宮中伯にも協力を求めておくと!
すると、ドアがノックされた。
「入れ!」
「失礼いたします。ライン宮中伯領が何者かに襲われております」
「なんだと」
「あちこちで、武装蜂起しているようです。我が領地内に侵攻すると思われる勢力もあります」
――やられたわ。これは。
「戦闘準備をしろ!」と、父が命じたが、父の戦闘指揮は、あまりよくないのを思い出したのでした。
――危ないわ。
となると、アンのことを構っておられないのではないか?
それも計算済み。
「領主は見殺しにした」とでも、言いふらすのだろうか?
しかし、使用人一人のため領地を捨てるわけにもいかんでしょう。
「お父さま、アンのことどころではないということですわね」
「いや、ローレライはすぐそば、そこから落とされたら、他の使用人たちが目撃する。別の問題が生じるかもしれない」
父は、アンを助けに行くつもりなのだろうか?
「ヴィル、私が行かなければ、お前が一人で助けに行くつもりなのだろう」と、父は苦笑している。
――なんと、バレていたのか。
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