【完結】異世界で婚約者生活!冷徹王子の婚約者に入れ替わり人生をお願いされました

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
5 / 136
本編 リディア編

第五話 王妃教育!? その一

しおりを挟む
 ディベルゼはリディアが立ち去るのを唖然として見詰めていた。

「はっ! 私としたことが、呆然と見送るなんて…失態だな」

 ディベルゼは深い溜め息を吐き、リディアと反対方向へ歩き出した。

「とりあえず殿下に報告するか」

 王宮内にあるシェスレイトの執務室の扉を叩いた。

「失礼致します、ディベルゼです」
「入れ」

 部屋の中には多くの書類に囲まれたシェスレイトが机に向かっている。そこへさらに追加の書類を持って来たディベルゼは躊躇もなく机の上に置いた。

「今日の分の書類です、お願いしますね」

 シェスレイトは溜め息を吐きながら、ディベルゼを睨んだ。

「私を睨んでも仕方ないですよ? 貴方の仕事なんですから」

 にっこりと笑いながらディベルゼは言った。

「あぁ、そういえば先程リディア様にお会いしましたよ。もう王宮に入られているのですね」
「ん? リディア?」
「えぇ、貴方の婚約者のリディア様」
「あぁ」

 自分の婚約者を忘れていたのかという反応にディベルゼは苦笑した。

「貴方は本当に女性に興味がないのですね」

 シェスレイトは再びディベルゼを睨んだが、すぐに書類へ目を落とした。

「役に立たない人間は必要ないだけだ」
「役に立たないって王妃様となられる方ですよ? 必要ない訳ないじゃないですか」
「それは分かっている。私には必要ないだけだ」

 やれやれ、とばかりに苦笑したディベルゼは思い出したように話を続けた。

「そういえばリディア様は変わった格好をされていましたよ」
「変わった格好?」

 興味が湧いたのかシェスレイトはディベルゼを見た。

「えぇ、庭園を歩く姿をお見かけしたので声を掛けたのですが、下町娘のような服を着てらっしゃいました。髪色でリディア様と分かりましたが、それがなければリディア様だと分からなかったでしょうね」

 そう言ってディベルゼは笑った。

「下町娘?」
「えぇ」
「あの娘がそのような格好をしているのは、一度も見たことはないがな」

 ふむ、と考えたような素振りのシェスレイトは、やはり興味がないのかすぐに書類仕事へと戻った。

「良いのですか?」
「何がだ?」
「リディア様がそのような服装でおられても。王妃教育で来られたのですよね? 王妃らしからぬ、と申しますか……」
「教師が何とかするだろう」

 あまりの興味のなさにリディアに少しばかり同情をしたディベルゼだった。




 さて、リディアの王妃教育はというと、王宮へ入った翌日にはすでに始まり、リディアはうんざりしていた。


「王国の歴史、歴代の王について、政治に関する事柄、世論について、他国との歴史、他国語、王妃としての立ち居振る舞い……他にも何か細かく色々あるねぇ」

 朝、勉強が始まる前、部屋でマニカ相手に愚痴る。
 半分程はすでにリディアが幼い頃から叩き込まれてきたことなので、ほとんど復習といった感じだ。
 しかし政治的なことや他国とのやり取り、王国の後ろ暗い事柄など……新たに覚えなければならないことはまだまだあった。

「あぁ、嫌だ……」
「お嬢様……終わる頃に美味しいお茶とお菓子を用意しておりますので!」

 マニカは精一杯励ましてくれるが、カナデが拒否反応を示す。
 リディア本人なら文句も言わず頑張るんだろうなぁ、と考えながら溜め息を吐いた。

 ある日の授業のとき、国の医療体制の話になり、教師と話し合った。
 疑問があるとそれを口に出さずにはいられないカナデの悪いところだ。我慢出来ないんだよねぇ。

「この国は自由に医療を受けられないのですよね?」
「そうですね。医療費がとても高いため、国民の大半は医療費が払えず治療を断念するのです」
「そのせいで病にかかったとき、怪我を負ったときの致死率が高いのですよね?」
「そうですね」

 医療を受けることが出来れば助かる命がたくさんあるのに、未だ医療体制が整わないこの国では、死に至る病気が山程ある。せっかく良い国王で平和な国なのにもったいない。

「国の医療保険か国営の病院があれば良いのに……」

 ぼそっと呟いた言葉を教師が聞き直した。

「医療保険とは?」
「えっと……」

 カナデがいた世界のことだ。この世界で通用はするのか……。

「国民がある程度の保険料金を納める代わりに、それを元に国が医療費を七割程負担するんです。それなら国民の払う医療費も安く済みます」

 教師はなるほど、と感心した様子だ。

「でも保険料金を納めるのが大変だからと反発があるでしょうし、現実的ではないでしょうけど」

 この世界では恐らく無理だろう。誰だって今より多く税を納めたくないものだ。

「貴族が多く負担してくれたらな……」

 またぼそっと口から出た。

「それはどうでしょうね。貴族の方々が税金をさらに多くというのは……」
「無理でしょうね」

 教師と二人で苦笑した。お互い貴族だ。それこそお互いがよく分かっている。

「国営の病院ならば可能性はあるかもしれませんね」

 所詮理想の話だ。結局現実的ではない雑談を終え、本来の授業に戻り、みっちりと二時間程の授業を終えた。
 その後ダンスの授業として広間に向かう。

「あぁ、疲れる……」
「お嬢様、口から漏れてます」

 マニカに小声で指摘された。

「誰が聞いているか分からないんですから、気を付けて下さい」
「うん……そうなんだけど……はぁあ」

 うっかり愚痴も出しちゃいけないなんて疲れる……。

「おい」

 後ろから突然声をかけられ、ギクッとして立ち止まる。
 まさかさっきのつぷやきを聞かれた!?
 恐る恐る振り向くとそこにはルシエス殿下がいた。
 あぁ、もしかしてまたやってしまった?

 仕方ないので何事もなかったかのように、笑顔を貼り付け、ドレスを持ち上げ膝を折る。

「これはルシエス殿下、ごきげんよう」

 ルシエス殿下はスタスタと歩きすぐ目の前まで近付いた。

「お前、リディアだな?」
「え、あ、はい」

 一応婚約発表のときに顔を合わせていると思うのですが…。

 ルシエス殿下はじろじろと不躾に上から下まで眺めて来た。
 何なんだ、こいつは! 失礼な! と、口から出そうになって、慌てて口をつぐんだ。
 マニカがハラハラしている。ごめんね。

「あの、何か?」

 若干イラッとした顔で言ってしまった。目が合う前に慌てて笑顔に戻す。

「お前、本当にリディアなんだよな?」

 ギクッとした。何で!? バレた!? 冷や汗が出る。
 鉄壁よ! 鉄壁! 鉄壁の笑顔! マニカも後ろでオロオロしているのが分かる。マニカ落ち着いて!

「リディアですよ、何ですか? じろじろと失礼です、紳士としてあるまじき行為ですよ」
「お前、子供の頃はもっとおどおどしてなかったか?」

 じろりと睨まれる。

「子供の頃と今を比べられても困ります。子供の頃より成長するのは当たり前でしょう」

 睨み返した。

「ふん、そういうもんかねぇ」
「殿下は全くお変わりになりませんね」

 やんちゃ殿下のままっぽい。周りの人たちからは慕われているのかもしれないが、兄殿下と仲が悪いと噂されたり、女性を睨み付けたり、は明らかに子供のすることだろう。

「何だと?」

 やはり睨むし。だからそれが……、と溜め息を吐いたら、腕を捕まれた。

「何をなさるんですか!?」
「お前、今からダンスの練習なんだろ?俺が付き合ってやる」
「は?」

 何を言っているんだ、この王子は!? どこをどうしたらそんな話になるのよ! 意味分からない!

「お嬢様!」

 マニカが後ろから慌てて追いかける。

「引っ張らないで下さい! 痛い!」

 歩調も合わせず殿下の歩調で引っ張られ引き摺られそうだし、捕まれた腕は痛いし!

「あ、すまん」

 慌ててルシエス殿下は手を離した。
 そういうところは素直なんだ。少し可笑しかった。
 クスッと笑いルシエス殿下を見た。
 しまった、と思ったのか、顔を背け隠した。少しだけ見えた耳は赤く染まっていた。

「ダンスに付き合ってくださるんでしょう? 行きましょう?」

 ダンス練習のための広間の扉を開いた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~

猪本夜
恋愛
前世で兄のストーカーに殺されてしまったアリス。 現世でも兄のいいように扱われ、兄の指示で愛人がいるという公爵に嫁ぐことに。 現世で死にかけたことで、前世の記憶を思い出したアリスは、 嫁ぎ先の公爵家で、美味しいものを食し、モフモフを愛で、 足技を磨きながら、意外と幸せな日々を楽しむ。 愛人のいる公爵とは、いずれは愛人管理、もしくは離縁が待っている。 できれば離縁は免れたいために、公爵とは友達夫婦を目指していたのだが、 ある日から愛人がいるはずの公爵がなぜか甘くなっていき――。 この公爵の溺愛は止まりません。 最初から勘違いばかりだった、こじれた夫婦が、本当の夫婦になるまで。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...