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本編 リディア編

第十三話 魔獣を!?

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 反省しながら歩いていると、ギル兄が迎えに来てくれた。

「もう帰るのか?」
「うん、見学も終わったから、今日はもう帰るよ」
「なら送って行こう」
「ありがとう」

 ギル兄と歩いている間、厨房であったことを話した。

「アッハッハ! ラニール殿をそんな困らせるとはなぁ」
「やっぱり困らせてたのかな……、申し訳ないな……」

 少し反省気味に話しているのを心配してくれたのか、ギル兄が慌てて気にするな、と言ってくれた。

「まあラニール殿にしたら今まで周りにいなかったタイプの人間で驚いただけだろう」

 ギル兄は笑いながら言った。フォローになっているようないないような……。

「それって、私が変わっているってことじゃ……」

 恨めしい顔でギル兄を見た。

「いや! いやいや、そういう訳じゃなく!」

 焦ったギル兄はあたふたしている。それを見てクスッと笑った。
 ギル兄もほっとしたのか、二人で笑った。

「でもラニール殿のそんな姿、俺も見たかったな」

 笑いながらギル兄はそう言ったが、きっとラニールさんが聞いたら怒るだろうなぁ、とラニールさんの顔を思い出す。

「ラニールさんに凄い形相で睨まれるよ?」

 それを聞いたギル兄は盛大に笑った。

 そうやって笑い合っている間に、部屋へ着いた。

「ギル兄、ありがとう。明後日また控えの間に行く予定だから、もし時間があれば顔見せてね」
「ん? また来るのか?」
「うん、厨房を借りるの」
「厨房を?」
「うん、来たら何をするのか分かるよ!」

 少しいたずらっぽく内緒にしてみた。まあ騎士たちに聞いたら分かるんだけどね。

「そうか、なら時間があれば控えの間に行くよ。殿下の執務室から少し遠いのが難点だけどな」

 そう言いながらギル兄は苦笑した。
 執務室がどこなのかは知らないが、騎士団の演習場は広さがあるので、他の研究所と同じく王宮の主要部よりは離れた所にある。

 シェスレイト殿下の執務室の場所は知らなくとも、主要部にあるのは間違いない。
 シェスレイト殿下専属の近衛騎士のギル兄には遠いだろう。

「王宮は広いからなぁ、飛べたら楽なのにな」

 ギル兄は笑った。
 そうだね、飛べたら行きたい場所に一直線で行けるのにね。

「あ!」

 また思い切り叫んでしまった。ギル兄はビクッとする。

「どうした?」
「あ、ううん、ごめんなさい。一つ思い付いたことがあるだけ! ありがとう! ギル兄!」
「?」

 ギル兄は意味が分からずキョトンとしているが、そのままお礼を言って別れた。ごめんね、ギル兄、実現するか分からないし。


「お嬢様、また何か変なことを思い付いた訳ではないですよね?」

 ギル兄と別れ、部屋で落ち着きお茶を用意してくれながらマニカが言った。
 ギクッとしたが……、いや、変なことではないはず!

「大丈夫! な、はず……」

 えへっ、と笑ってみた。マニカは溜め息を吐く。

「明日は朝から魔獣研究所に行くでしょ? お昼から何だっけ?」
「お昼からはお茶会でございます」
「あ、そういえばお茶会って言ってたね。誰と?」
「シェスレイト殿下とです」
「えっ!!」

 思ってもみなかった名前が出て驚きの声が出た。

「えぇ……、シェスレイト殿下とお茶会なの!? 何も話すことがない冷たい空気のお茶会になりそうなんだけど……」

 上目遣いにマニカを見たが、マニカは冷静に言う。

「仕方ありません。婚約者様とのご交流ですから」
「今まで一度も会いにすら来ない婚約者様との交流?」
「そうです」

 王宮に入ってから、すでに三ヶ月程経っているが、今まで一度も会いに来られたことはない。
 何をしているのかも全く知らない。まあこちらも興味がなく聞かなかったことが原因だろうが。

 気が重いお茶会になりそうだな、と深い溜め息を吐いた。
 とりあえずお茶会のことは置いといて、魔獣研究所だ!

 夕食とお風呂を済ませ、午前中だけを楽しみに豪華なベッドでゆったり気持ち良く眠りに就いた。


 翌朝、朝食を済ませ、再び動きやすいワンピースをマニカに見立ててもらい、いざ! 魔獣研究所へ!

 今日はルーが送ってくれる訳ではないから、ずっと歩き。遠いなぁ。
 なかなか着かない魔獣研究所へ向かいながら、ルーに送ってもらったことを感謝した。

 やっとの思いで魔獣研究所に到着し、研究所の扉を叩く。

「おはようございます!」

 研究所の中では何人かの研究員がすでに忙しくしていた。

「あ、リディア様! おはようございます!」

 レニードさんが出迎えてくれた。

「レニードさん、おはようございます。お仕事の邪魔をしては申し訳ありませんので、私のことは放置していただいて大丈夫です!」
「え、いや、そんな訳には……」

 それはそうよね……、いくらなんでも放置は無理よねぇ。でも本当にお仕事の邪魔するつもりは全くないのよね……。

「昨日会わせていただいた子のところにいますから! 一人で大丈夫です!」

「いや、しかし……」
「俺たちもいるし、大丈夫ですよ!」

 オルガが得意気に言った。マニカはやれやれと言った顔だ。

 レニードさんは少し考えた後、

「分かりました、後から行きますね」

 そう言って、我々を見送った。

 私とマニカとオルガの三人は昨日会った魔獣の元に行った。

「お嬢、魔獣に何の用なの? 危ないからあまり近付かないでね」

 オルガはピタリと私の横に張り付き見張る。

「うーん、用というか、どんな子かじっくり観察したくて」

 魔獣は私たちの存在を確認すると、レニードさんがいないからか、少し警戒した様子だ。
 昨日と同じくらいの距離を保ち、その場に座り込む。

「お嬢様! そのような所に座り込まないでくださいませ!」
「え、良いじゃない、しばらくここにいるのに、立っていても仕方ないし」

 マニカは溜め息を吐く。オルガは一緒になって横に腰を下ろした。マニカは後ろに立ったままだけどね。

 魔獣を見詰めると、警戒しながらもこちらの目をじっと見詰めて来た。
 どのくらいの時間が経ったのかは分からないが、しばらく見詰め合っていると徐々に警戒がなくなってきたような気がした。

 マニカもオルガも何も言わず、よく付き合ってくれてるな、と感心した。

 しばらくするとレニードさんがやって来た。

「リディア様、大丈夫ですか?」
「レニードさん、えぇ、大丈夫ですよ」

 レニードさんが現れると魔獣は一声唸り声を上げた。

「レニードさんが来たから喜んでいるのかしら」

 明らかな反応の違いに、魔獣にとってどれ程レニードさんが信頼している存在なのかが分かる。

「リディア様、凄いですね。この子の警戒を解いている」
「?」
「普通魔獣は警戒心がとても強いです。なので、ここにいる研究員ですら、警戒心がなくなるまでは一週間程かかりました。それも毎日世話をして、顔を合わせ、話しかけて……、それでようやくです」

 だから凄いんだ、と熱烈に語られた。

「俺のお嬢は最高だから!」

 何故かオルガが自慢気な顔をする。うん、誉めてくれてありがとう、でも何だか恥ずかしいから!

「この子はとても大人しいですけど、人間には懐かないですか?」
「え? 人間にですか?」
「えぇ、やはり無理ですか?」
「うーん、どうでしょう。試したことはないので何とも……」
「試してみることは出来ませんか?」
「え!?」

 レニードさんだけでなく、オルガとマニカも驚愕な顔をしているし……。
 そんなに可笑しい事言ってるかしら。

「お嬢……、さすがにそれは……」
「そうですよ、お嬢様、レニードさんを困らせないでください」
「うぅ……、そんなに変なことかな?」
「変です」

 マニカとオルガが声を揃えて言った。
 むぅ。ダメかぁ。

「何故そんなことを思ったんですか?」
「えっと……、人間に懐く魔獣なら、騎獣に出来ないかな、と」
「騎獣!?」

 三人が声を揃えて驚いた。

「えぇ、翼のある子なら人間を乗せて飛べるだろうし、騎士団が騎獣として使えたら役に立つだろうし、そうしたら、殺処分されることもないかな、と……」
「!!」

 レニードさんは目を見開き考え込んだ。
 後ろではマニカとオルガが心配している。

「あ、あの、すいません、余計なこと言って。魔獣を懐かせるなんて危険なこと無理ですよね、忘れてください」
「いえ!! それ!! 凄いです!! そんなこと考えたことなかったです!! 試してみたいです!!」

 レニードさんはこれまで見たことないくらいに興奮している。

「所長に相談してみます!!」

 レニードさんは研究所に走り出した。

「あ、大丈夫かな……」

 魔獣のほうに向き直すと、その魔獣は不思議そうな目を向けていた。
 いつかこの子を撫でられるときが来るかな。

「と、とりあえずお茶会もありますし、一度戻りますよ」

 マニカが呆れながら促した。

「う、うん」

 研究所まで戻ってレニードさんに挨拶をしようとしたが、レニードさんの姿はどこにも見えなかった。
 近くの研究員に挨拶をして、部屋へと戻った。


「さて、昼食を召し上がったら、お茶会の準備がありますからね、忙しいですよ!」

 マニカに厳しく言われた。うん、魔獣のところで地べたに座るし日差しに当たりまくってるしね……、ごめんなさい。

 あぁ、シェスレイト殿下とのお茶会か……、気が重い……。
 昼食の味がしないよ……。
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