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第1章 導き
第26話~逃げ出したい現実~
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逃げるように彼女の元を去ると車に乗り込み、震える手を見ながら下唇を強く噛んだ。
「僕は……なんて事を……」
ハンドルに拳を打ち付け、抑えていた感情を露にする。
真夜中の道路は昼間と違い車も少なく、自然とスピードが出てしまう。次第に視界が悪くなったと思うと、それは彼の目から涙が零れ落ちたせいであった。
短い期間ではあったが、彼は確実に彼女に夢中だった。
彼女の笑顔に触れると自然と顔がほころび、彼女の照れる顔を見ると抱きしめたい衝動に駆られた。
しかしもうそれらをもう見ることは出来ない。その思いが彼の目から涙を溢れさせるのだった。
◇その日の朝◇
眩しい朝日が目に差込み、それによって朝の訪れを知らされる。
柔らかなシーツの中でゆっくりと上体を起こした彼は、自分が何も身に着けていないことに気付き、そばにあるガウンに手を伸ばす。朝日の差し込む窓の方に人の気配を感じ、目を細めながらそこに目を向けた。
「あら、起こしちゃったわね」
そこには朝日に包まれた中。彼のシャツを素肌に纏い、湯気立つコーヒーカップを持つカレンが居た。
カレンはベッドに近づくと、腰を下ろし彼の頬に軽くキスをする。
「ジャック……あなたは最高よ。最高の男だわ」
意味深な目つきで、彼の耳元で囁いた。
「……」
彼は何も言わずガウンを羽織ると、立ち上がり部屋を出ようとする。
「何処へ行くの?」
「……シャワー、浴びてくる」
ポツリと言い残すと、カレンを部屋に残して出て行った。
勢いよく出る熱めのシャワーを頭から浴びる。昨日起こった出来事が頭をよぎり、その事実が彼を追い詰めた。
昨夜、自分の事をずっと思っていたと言うカレンの告白に、ジャックは戸惑いを隠せ無かった。だが、自分の気持ちに嘘をつくことは出来ないと、泣きじゃくるカレンをそっと抱きしめ、カレンに自分の本当の気持ちを打ち明けた。
「カレン、僕は君の気持ちに答える事が出来ないんだ。正直に言うよ……僕はカナに夢中なんだ」
カレンの背中をそっと撫でつけていた手を止め、カレンから距離をとり背を向けた。
「――。……?」
ふと、デスクの上に置いていた携帯電話が、着信があった事を知らせるライトが点滅している事に気付く。とっさに手を伸ばすと、「やめて!」とカレンが叫んだ。
伸ばした手をピタリと止め、彼女の方を振り返る。カレンは嫉妬に狂った形相で彼を睨みつけていた。
「その電話に出ないで!」
彼は一度視線を落として間を開けた。そして意を決したように、もう一度携帯電話に手を伸ばす。
「――。……っ!?」
彼のそんな態度に激高したカレンは、デスクの上に置いてあったペーパーナイフを手に取り、それを自らの喉に突きつけた。
「カレン、何を!?」
動揺したジャックは、無理に行動に移す事をやめた。
「私は本気よ! その電話に出ないで!」
驚く彼を尻目に彼女は凄んで見せた。その表情から、カレンは本気で自分の喉を掻っ切るつもりなのだと感じた。
「わかった、わかったから落ち着いて……ね?」
伸ばした手を引き上げ両手を上に上げる。更にデスクから少し距離を取り、電話を手にする気は無い事をカレンに示した。だが、尚もカレンの手にはペーパーナイフが握られていて、白い喉に向かって刃を向けている。この時ほど、ペーパーナイフをデスクの上に出しっぱなしにしていた事を後悔した事は無かった。
「カレン、馬鹿な事はやめてよ」
頭を左右に振りながら、眉をひそめ悲しげな目でカレンに問いかけた。
どうすれば今のこの現状を止めさせる事が出来るのか。頭の中でその思いがぐるぐると駆け巡る。しかし、彼が考えつくよりも先に、カレンの方から解決策を提示してきた。
「私を抱いてよ」
「カレン……?」
「昔のように抱いて頂戴。お願いだから」
突きつけたペーパーナイフは微動だにせず、今でも彼女の喉を捕らえている。カレンはきっと自分と彼女に対してのあてつけでそんな事を言い出したのだろう。そうだとわかっていても、目の前で泣きながら懇願している彼女の事を思うと、放っておく事が出来なかった。
◇◆◇
彼の屋敷の敷地内に隣接するスタッフハウスに、カレンは住んでいる。その彼女の部屋に行き、乱暴に掴んでいた腕をベッドに向かって突き離した。
カレンに見向きもしない彼は部屋の隅にあるキッチンへと向かい、冷凍庫に入っているスミノフのボトルを取り出した。そのまま口に含むと勢い良く喉に流し込む。味わうと言うよりかはアルコールの力を借りてでもしないと、今からなされる行為に耐える事が出来ないのか、ゴクッゴクッっと勢い良く音を立てながらアルコールが彼の喉に滑り落ちていった。
荒っぽく音を立て、テーブルの上にボトルを置く。ジャックは漸く振り返ると、カレンを睨み付けながら手の甲を使って口をぬぐった。
カレンはその仕草にゴクリと喉を鳴らす。普段は温厚で中性的な彼の中の男の部分を感じ、全身に鳥肌を立たせた。
「──」
獲物を捕らえるような目で無言で近づいて来ると、横たわるカレンに馬乗りになった。ベッドが深く沈み、軋む音がする。
たったそれだけで、カレンの口から甘い吐息が零れ落ちた。
シャツのボタンは面倒だと言わんばかりに、一気に引き千切られる。小ぶりのボタンがピンピンッとあちらこちらにはじけ飛んだ。
「っ、ジャック」
恍惚とした彼女の顎を捕らえる。
「わかったよカレン。君の望み通りにしてやるさ」
挑戦的な目つきでそう言い放つ。彼女との賭けに敗れた彼は何もかもを忘れ、カレンの胸に顔を埋めた。
「僕は……なんて事を……」
ハンドルに拳を打ち付け、抑えていた感情を露にする。
真夜中の道路は昼間と違い車も少なく、自然とスピードが出てしまう。次第に視界が悪くなったと思うと、それは彼の目から涙が零れ落ちたせいであった。
短い期間ではあったが、彼は確実に彼女に夢中だった。
彼女の笑顔に触れると自然と顔がほころび、彼女の照れる顔を見ると抱きしめたい衝動に駆られた。
しかしもうそれらをもう見ることは出来ない。その思いが彼の目から涙を溢れさせるのだった。
◇その日の朝◇
眩しい朝日が目に差込み、それによって朝の訪れを知らされる。
柔らかなシーツの中でゆっくりと上体を起こした彼は、自分が何も身に着けていないことに気付き、そばにあるガウンに手を伸ばす。朝日の差し込む窓の方に人の気配を感じ、目を細めながらそこに目を向けた。
「あら、起こしちゃったわね」
そこには朝日に包まれた中。彼のシャツを素肌に纏い、湯気立つコーヒーカップを持つカレンが居た。
カレンはベッドに近づくと、腰を下ろし彼の頬に軽くキスをする。
「ジャック……あなたは最高よ。最高の男だわ」
意味深な目つきで、彼の耳元で囁いた。
「……」
彼は何も言わずガウンを羽織ると、立ち上がり部屋を出ようとする。
「何処へ行くの?」
「……シャワー、浴びてくる」
ポツリと言い残すと、カレンを部屋に残して出て行った。
勢いよく出る熱めのシャワーを頭から浴びる。昨日起こった出来事が頭をよぎり、その事実が彼を追い詰めた。
昨夜、自分の事をずっと思っていたと言うカレンの告白に、ジャックは戸惑いを隠せ無かった。だが、自分の気持ちに嘘をつくことは出来ないと、泣きじゃくるカレンをそっと抱きしめ、カレンに自分の本当の気持ちを打ち明けた。
「カレン、僕は君の気持ちに答える事が出来ないんだ。正直に言うよ……僕はカナに夢中なんだ」
カレンの背中をそっと撫でつけていた手を止め、カレンから距離をとり背を向けた。
「――。……?」
ふと、デスクの上に置いていた携帯電話が、着信があった事を知らせるライトが点滅している事に気付く。とっさに手を伸ばすと、「やめて!」とカレンが叫んだ。
伸ばした手をピタリと止め、彼女の方を振り返る。カレンは嫉妬に狂った形相で彼を睨みつけていた。
「その電話に出ないで!」
彼は一度視線を落として間を開けた。そして意を決したように、もう一度携帯電話に手を伸ばす。
「――。……っ!?」
彼のそんな態度に激高したカレンは、デスクの上に置いてあったペーパーナイフを手に取り、それを自らの喉に突きつけた。
「カレン、何を!?」
動揺したジャックは、無理に行動に移す事をやめた。
「私は本気よ! その電話に出ないで!」
驚く彼を尻目に彼女は凄んで見せた。その表情から、カレンは本気で自分の喉を掻っ切るつもりなのだと感じた。
「わかった、わかったから落ち着いて……ね?」
伸ばした手を引き上げ両手を上に上げる。更にデスクから少し距離を取り、電話を手にする気は無い事をカレンに示した。だが、尚もカレンの手にはペーパーナイフが握られていて、白い喉に向かって刃を向けている。この時ほど、ペーパーナイフをデスクの上に出しっぱなしにしていた事を後悔した事は無かった。
「カレン、馬鹿な事はやめてよ」
頭を左右に振りながら、眉をひそめ悲しげな目でカレンに問いかけた。
どうすれば今のこの現状を止めさせる事が出来るのか。頭の中でその思いがぐるぐると駆け巡る。しかし、彼が考えつくよりも先に、カレンの方から解決策を提示してきた。
「私を抱いてよ」
「カレン……?」
「昔のように抱いて頂戴。お願いだから」
突きつけたペーパーナイフは微動だにせず、今でも彼女の喉を捕らえている。カレンはきっと自分と彼女に対してのあてつけでそんな事を言い出したのだろう。そうだとわかっていても、目の前で泣きながら懇願している彼女の事を思うと、放っておく事が出来なかった。
◇◆◇
彼の屋敷の敷地内に隣接するスタッフハウスに、カレンは住んでいる。その彼女の部屋に行き、乱暴に掴んでいた腕をベッドに向かって突き離した。
カレンに見向きもしない彼は部屋の隅にあるキッチンへと向かい、冷凍庫に入っているスミノフのボトルを取り出した。そのまま口に含むと勢い良く喉に流し込む。味わうと言うよりかはアルコールの力を借りてでもしないと、今からなされる行為に耐える事が出来ないのか、ゴクッゴクッっと勢い良く音を立てながらアルコールが彼の喉に滑り落ちていった。
荒っぽく音を立て、テーブルの上にボトルを置く。ジャックは漸く振り返ると、カレンを睨み付けながら手の甲を使って口をぬぐった。
カレンはその仕草にゴクリと喉を鳴らす。普段は温厚で中性的な彼の中の男の部分を感じ、全身に鳥肌を立たせた。
「──」
獲物を捕らえるような目で無言で近づいて来ると、横たわるカレンに馬乗りになった。ベッドが深く沈み、軋む音がする。
たったそれだけで、カレンの口から甘い吐息が零れ落ちた。
シャツのボタンは面倒だと言わんばかりに、一気に引き千切られる。小ぶりのボタンがピンピンッとあちらこちらにはじけ飛んだ。
「っ、ジャック」
恍惚とした彼女の顎を捕らえる。
「わかったよカレン。君の望み通りにしてやるさ」
挑戦的な目つきでそう言い放つ。彼女との賭けに敗れた彼は何もかもを忘れ、カレンの胸に顔を埋めた。
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