おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……

松ノ木るな

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第一話 彼と私の共通点?

① 見合い相手の事前情報チェキラッ

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 アンジェリカは、自分の知る令息か――なんて聞いているけれど。彼女の知らない同年代の男子なんていないんじゃないか。

 私はそんな社交界がだるくて、もう何年も、できるだけ欠席しているけれど、この子はいつも顔を出し人脈を広げ、たくさんの情報を入手している。

「アンジェリカでもよくは知らないお家の貴公子かな。今回話を頂いたのは、隣地方のノエラ辺境伯のご令息なんだ」

「ルーベル地方の、ノエラ辺境伯といえば、地方境の御大尽ですわね」

 我がストラウド家領地は、ここヴェルシア地方の最北に位置する。北隣のノエラ領は馬車で2時間程度だけど、コミュニティーが違うので社交場で顔を合わせることはあまりない。

 このたびどうしてお父様がその遠方から話を持ってきたかというと、もうこちらのコミュニティー内で、私と縁組をしてくれそうな令息がいないからだ。

 母が存命の3年前までは、嫌でもパーティーに顔を出させられていた。そして将来の縁組のためにと、何度か同じ年頃の令息を紹介されて。

 でも、そんなの前向きな気持ちになれるわけないじゃないか。彼らはみな、「ええー……ストラウド家ご令嬢って、妹の方じゃねえの?」ってしょっぱなから本心ダダ洩れ。がっかり感ダダ洩れ。幾度顔を合わせたところで、会話も盛り上がらず、どの相手も4度目の対面を待たず破談となった。

「あら、でもお姉様も私も何度か、そちらのパーティーにお呼ばれしたことがありましたわよ。ずいぶん前の話ですけど」
「確かに、馬車で時間をかけてお出かけしたわね。もう10年近く前のことじゃないかしら」

「そうよ、私、覚えていますわ。私たちと歳の近いご令息がいらして、確か……。ひときわ目を引く美しいご子息が、音楽もダンスも、すべての芸事に秀でていらっしゃって。学問も先んじて優秀な成績をおさめられ、神童と呼ばれていたとか」
「あなた、まだ10にも満たない頃の、しかも他人のことをよくそんなに覚えているわね」
「それだけ目立たれていた方ということですわ。まさか、その方とのご縁談ですか?」

「そんな神童がいまだ独身で、しかも私のところに縁談がまわってくるなんておかしなこと、あるわけないでしょ? あなたの記憶違いか、そうでなければ、すでにただの人になってるってことね」

「でもね、父はものすごくいい話だと思うんだよ。先方は19歳で歳も近く、物腰柔らかな青年だというし」

 お父様は本当に優しい。私に幸せな結婚をして欲しい、親の切実な思いだろう。でももうひとつ大事なのは、母の遺言。「必ずアンジェリカより先にエレーゼを嫁がせて」という呪いの言葉のせいで彼はほとほと困っているのだ、私は知っている。

 これは母の「そう言っておけば、妹が嫁いで幸せに過ごしているにもかかわらず姉は売れ残って生涯孤独、となることを避けられるだろう」という、私への愛ゆえの策だった。だけれど。

「呪いでしかないっ……!」
「お姉様?」
「ねえ、私、全然気にしないから。先にアンジェリカが結婚すればいいのよ」

 というか早く家を出て、お父様とふたりきりの、心豊かなアフタヌーンティータイムを私に謳歌させて。

「アンジェリカがその貴公子との縁談を受けるのはどうかしら?」
「私は、私自身で選びますわ。お相手も、時期も、その他もろもろの条件も」

 選べる立場にいるって分かってる女は強い、ブレない。

 そりゃ私だって、お父様の希望はすべて叶えたい。重荷になることはもちろん、悩みの種にもなりたくない。もう思春期じゃないのだもの、駄々こねるのも恥ずかしいわ。

「一応、お会いするだけ……なら、構わないわ」
「エレーゼ! それでこそ私の娘だ。勇気を出した君は輝いているよ」

 そんなもの結局、相手の気持ち次第なのだから。何度紹介されても、向こうから断られるのが関の山。



***

 見合いの日がやってきた。私は馬車でお相手がお待ちのノエラ領へ向かっている。父と――なぜか、妹と。

「お姉様、本日はお見合いの主役だというのに、どうしてそんな地味なお色のドレスを着ていらしたの?」
「このラベンダーカラーがいちばん好みなのよ、放っておいて」

 あなたこそ、どうしてただの付き添いが平気で真っ赤なドレスを着られるのか! と言ってやりたい。が、疲れるだけだからやめておく。

「このたびのお相手のこと、私なりに調べてまいりましたわ。やはりお隣の社交界のお方ですので、いつもより情報が少なかったのですが」

 この子の情報網は役に立つこともあるのだけど、今回に限り、どういった話が舞い込んできても破談一択なので適当に聞き流しておこう。どうせいらないと言っても喋りちらすのだろうし。

「お相手のお爺様が、現在は領主でいらっしゃるのですよね」
「ああ、そうなのだよ。エレーゼは全然話を聞いてくれなくてね」

「お父様はすでにお亡くなりになられていて、現領主が孫にそろそろ家督を譲りたいがために婚姻を、ということでしょう。そして、問題はここからですが」

「なに?」
「どうやらお相手も、お見合いのたびに、先方に断られているとかで」
「お相手“も”?」
「あら、失言でしたわ」

 確かに私も断られているので、構わないが。

「それはおかしいわ。ルーベル地方の状況は詳しくないけれど、ノエラ辺境伯の嫡男よ? そんなにいい縁談はそう転がっていないでしょう?」

「私もおかしいと思いますわ。でもそういったわけで、縁談が地方境を越えたのでしょうね。これはつまり……」

「ご本人にとてつもない問題があるとか? でもあなたの記憶では、ずいぶん優秀な美少年でいらしたのでしょう?」

「ええ、私もあの頃、お顔を拝見した覚えがありますし、ヴァイオリンもそれは優雅にお弾きになっておられましたわ」

「美少年がたとえ若くしてツルっぱげになっていたとしても、坊主トンスラの美青年でお断りする理由としては弱いわね」

「エレーゼ……言葉遣いに気を付けなさい」
「お父様がたとえ一本無しになっても私はいつまでもお傍にいますわ!」
「うん、ありがとね……」

 そこで私は考えた。もし相手側に重大な欠陥、主に精神面でそのようなことがあれば、こちらからさくっとお断りする理由になって効率的だ。一応こちらからわざわざ出向いたのだから、体面は保って差し上げたわけだし、穏便に、なかったことにできれば、それがいちばんいいのだ。

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