おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……

松ノ木るな

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第四話 子連れ×コスプレ×お祭りデート?

② 3人家族も、いいですね?

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 ひとまず彼の捕獲に成功。
 私をないがしろにした理由を吐かせてやると息巻いていたのだが、馬車の中では取り留めのない話に終始した。私もたいがい意気地なしだ。


 馬車を降りるという頃だった。彼がこう言いながら、
「君も仮装しよう」
「え? あなたと違って私は貴族に見られないので、別に……」
私の頭に、どこから取り出したか赤いずきんを。

「僕が可愛いエレーゼの仮装を見たいから」
「!」
 えっ……えっ??

「はい、これに着替えて」
 白い布地……これはエプロン? その下はワンピースかしら。

「手持ちはこのバスケットに入れて運ぼうか。荷物を持ってあげたいけど、これは赤ずきんが持っていないとね」
 ……魔女の次は赤ずきんちゃんですか。


 着替えて馬車から降りた。
「うん、さすが。似合ってるよ」
 褒めてるの?

「ん? ショールなんて羽織っていて暑くないか?」
「そうですね、大勢の人の熱気で暑いです。バスケットの中に入れておこっと」
「銀貨の袋も入れておくよ。念のため」

 ふたりで少し歩き回り、祭りの様子を眺めてみる。立ち並ぶ露店の道は買い物客で賑わっている。ここにいる多くが家族連れだ。道化師の周りに子どもたちが集まり、軽快な楽器の演奏も聴こえる。

「エレーゼ、はぐれてしまったら困るから」
 彼がさっと手を差し伸べた。

「ええっと……」
「ん?」
 貴族の娘としては、紳士の手を取るのはマナーなのだけど、このシチュエーションはなんだか恥ずかしい……。なんてマゴマゴしていたら意識過剰って言われるかしら。

 まぁ今の私は赤ずきんの少女なのだし、その役を満喫しましょう。ええと、赤ずきんってどういう話だったっけ。オオカミに誘拐されるで良かった?

 胸の鼓動よ静まれ。脈でバレてしまうわ。慌てぶりを見抜かれないよう無表情を装い、そっと手を伸ばす私。

「きゃっ」
 意識のすべてが伸ばした手に集中していたその時。後ろからドンっとぶつかってきた何かに、一瞬心臓が飛び出そうになり。その隙に、小さな影が私から手に持つバスケットを奪ったのだった。

「んっ??」
「あっちだ!」
 彼の指す方を見たら、バスケットを持っていったのは小さな子ども。私たちはすぐにも追いかけた。

 大人の追うスピードに子どもが敵うわけもなく、今にも捕まる、というところで、その子どもはバスケットを打ち捨てる。彼はいったんそれを拾い、私にパスしたら。

「なんだよ! バスケットなら返しただろ!」
 その子をあっさり捕まえた。
「返却したら罪に問われないなんて都合のいい話はない」
 じたばたする子どもを抱え、こちらに戻ってくる。

「わたしは子どもだぞ!」
 ハニーブラウンの髪をひとつに束ねた、負けん気の強そうな女児だ。

「子どもでも窃盗罪は窃盗罪。ノエラ領の法令だ」
「エイリーク様……。その子は罰の対象になるんですか?」

「そうだな。こんなイベントの最中だから件数は多いが、どの件も大目に見ることはできない」
「その子、お腹がぽっこりしてますね」
 持ち上げられている状態で、タヌキのようなお腹をしている。

「こいつは盗みを働いたが、金銭目的じゃないんだよな」
「え?」
「バスケットの中身見てみて」
「銀貨の袋があります。ってことは、ここから取ったのって」

 彼が背後から腕を絡めて少女を押さえたので、私は彼女のお腹に隠されているものを、衣服をべりっとめくって取り出した。

「私のショール……」
 まずこの6歳ほどの少女をじっと見てみた。確かにわびしい格好をしている。裕福な家の子ではない。ならどうして銀貨の袋を捨ててショールを? 慌てていたから?

 すると少女がまたジタバタしだす。成人男性の腕力に敵うわけもないが。
「どうしてこのショールを?」
 彼女は口をつぐんだまま。

「盗みを働いたんだ。自警団のところに連れていこう」
「やっ、やだ!!」

「エイリーク様、とりあえず親と話すのが先では?」
「…………。まぁどうするかはエレーゼに任せるよ」

「あなたのご両親は?」
「……はぐれた」
「迷子なの?」
 泣きそうなこの子はまた口をつぐんでしまった。仕方ない。

「じゃあ探してあげるから」
「ほんと!?」
 顔がぱっと明るくなる。迷子になって心細くて、盗みなんてしてしまったのかな。

「エレーゼはそう簡単に言うけど、この群衆の中どうやって?」
「まず、親の特徴を聞いて」
「…………」
 黙られてしまった。やっぱりエイリーク様、また面倒事を……って思うわよね。

「そういえばあなた名前は?」
「リタ。おとうさんはちょびヒゲが生えていて、おかあさんは巻き髪で、とてもさむがりなんだ。あと小さい弟がいる……」
 寒がり? 残暑なのに?

「じゃあ3人連れの人をよく注意して見てみるわね」
「この人ごみの中?」
 呆れたエイリーク様はひとまず置いておいて、このちびっこの手を握った。



**
「やっぱり人が多すぎて無理ね……。家族連れいっぱいだし。自警団に頼みましょうか」
 今はリタと石垣の上に座って休憩中だ。

「じけいだんはやだっ」
 ずいぶん怯えたような顔をする。盗みを働いたことが引け目になってるのかな。

「じゃあそれは最終手段で……」
「エレーゼ!」
「エイリーク様、どちらへ行ってらしたの?」
 ちょっと行ってくる、と人ごみに入っていった彼が戻ってきた。

「聞き込み調査だよ。今日はどんな催し物があるかとか、露店をやっている市民に聞いて来たんだ」
「催し物?」
「そういうのを仕切っているグループというのも存在するからね。尋ねてみたら、もうすぐ子どものためのパレードが始まるようなんだ。小さい子連れの親も後をついて歩いていいんだって。リタの親もリタを探してパレードの周辺をうろうろしているかもしれない」

「エイリーク様、有能! 行きましょう、リタ」
「うん!」

 とはいっても、パレードが通る道はまさに街の中心で更なる人だかり。

「こんな人だらけのところで人探しなんて……。向こうもリタを慌てて探しているでしょうし、闇雲に動き回っても……。そうだ、両親はこんなところで子どもを見失って、大きな不安の中にいるのではないかしら。早く見つけなきゃ!」

「エレーゼ、落ち着いて。仕方ないな。リタこちらへおいで」
「エイリーク様?」
 彼は彼女をすっと背負い。

「さぁ、エレーゼ」
 そして私の手をぎゅっと握って、
「ええっ?」
唐突に走り出した。

────ま、また手をひっぱって……!!

 こんなふうに何も知らされず連れていかれると、いつかこのオオカミに食べられてしまいそうな……。って、なにそれなにそれ。……でもなんだか……変ね。さっきから彼、いつもより行動が素早い?

「あのっ、どこへ!?」
「いいから!」

 彼は建物の隙間の、ずいぶん入り組んだ狭い路地などを潜り抜け、空いた建物の階段を上り、そこの屋上に私たちを連れてきた。

「はぁ、はぁ。いったいここは?」

 ひとっこひとりいない、町並みが見渡せる高い建物の屋上。下が人の熱気で蒸していたせいか、ここは吹く風がすこぶる心地よい。彼の背から下りたリタは興奮気味に、街道を見下ろせる端へと走っていった。

 ここで私に振り向く彼は、オオカミではなくフランケンシュタインの怪物。ただ私にはもう、そんなマスクをしていても中身の、とても爽やかな笑顔が見えてしまう。そしてなんだか許してしまいそう、あの時、あんなそっけない態度で私を追い返したこと……。

 リタが下を見たがって柵の前でぴょこぴょこ跳ねる。彼女の元にエイリーク様は小走りで寄っていった。
「落ちないように気を付けろよ。手すりにちゃんと捕まって」

「私たち、どうしてここへ?」
「さっきパレードの順路を聞いてね、この建物の周りを一周するらしいんだ。上から四方を眺めていたらリタの親は見つかるんじゃないかな」

 さすがエイリーク様。

 リタは子どもならではの元気と好奇心で、四方を眺め走り回る。年寄りの私は同じく年寄りの彼と、下の様子やリタを交互に見張っていた。

 それにしても、彼とふたりでリタみたいな子どもを連れていると、なんだか妙な気分になってくる。彼が思っていたより子どもに対して面倒見いいところも、なんだか胸がむずむずしてくる。

「エレーゼ」
「は、はい!」
「ん? ぼぉっとしてた?」
「い、いえ。なんですか?」
「あの子」
 彼はマスクの下で、じっとリタを見つめているよう。

「嘘ついているよな」

「……え?」

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