おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……

松ノ木るな

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第四話 子連れ×コスプレ×お祭りデート?

⑤ side:A  承認欲求

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「エレーゼ、ちょっとは妬いてくれるかな……」

 妬くわけないよな。僕に対してそんなこと。

 お父上に関しては湯沸かし釜のように妬くんだよなぁ。いいな、お父上は。あのやきもち焼きは実際かわいいよなぁ。僕も「お父様大好き!」なんてソファに押し倒されたい。

 なんでこんなに可愛く見えるようになったんだろう。自分の婚約者だと思うからか? 仮面夫婦持ちかけることでやっと受け入れてもらった婚約者だぞ。

 人付き合いなんて苦手で、どうやったら女性が喜ぶのかよく分からないんだ。あいつのようにうまく女性を扱えるわけないし、最初から政略結婚に期待なんてしない。相手の令嬢さえ了承してくれれば偽装でいい。

 だから契約結婚を持ちかけた時は、あまり慣れ合わないように歯止めをかけた。

 でもエレーゼは想像以上にお節介で、情に厚くて、向こう見ずで、放っておいたらきっとシャルロッテより危なっかしい……それに……

 そうだ。エレーゼは言ってくれたんだ。僕が僕であるだけで価値があるって。

 何でそんなふうに思ってくれたのか分からないけど、あんなこと言われて嬉しくないわけないだろう。あれ以来、彼女なら弟と比べることなく僕を見てくれるんじゃないかって、期待してしまったんだ。どう責任取ってくれよう。

 ただ「承認」が欲しいんだ。「僕がいていい」って。弟じゃなくて、「僕という人間がそこにいる」って。それだけでいいんだ。これってそんなに贅沢なことなのか……?

 エレーゼがこれであいつと対面し、今までの人たちのように、僕よりあいつに魅力を感じてしまったら。そんな素振りを見せられたら、きっと僕の立っている地面は崩れてしまうんだろう。

「再来月まで来ないように言ったのに……」

 ああもう一刻も早くふたりを見つけ出して、即刻仲を引き裂いてやる。もしもうエレーゼに手出されていたら……あ──、考えたくもない。でも土地勘ないんだよな下街は……。



 中心街近くに到着した。馬車を降りたら当然の人だかりだ。

 迂闊だった。ノープランで来てしまった。こんなところで特定の個人を探せるわけがない。土地勘もないし。

 とりあえず、ノエラ家の者が顔を出してうろうろするのもなんだし、馬屋番から借りたモンスターのマスクを被っておくか。



**

 少しうろうろしただけで人酔いしてしまい、人気ひとけのないところにやってきた。どうすればいいんだ、日が暮れてしまう。

 当てもなく彷徨っていたら、出たところは川沿いだ。

 なかなか大きな川だな。その時、ハンドレールのない橋の隅に立ちつくす人影を見つける。

「え、まさか」
 飛び降りる気ではと、説得しようとまずは掴みかかるつもりで、その人物に向かって走った。

「だめだ! 飛び降りなんてっ……」
「きゃあ!!」
「あっ……」

 思い余ったせいか人物の手前でつまずいた僕は、彼女を突き落とし、一緒に川の水底へ沈んでいった──……。



「はっ!」
 目が覚めると、僕は見慣れぬ部屋の中。

「ここは、いったい?」
 被せられた毛布の中の自分は全裸。

「!??」
「あら、起きた?」
 扉のない部屋の入口から覗く女性は、確か。

「ああ、良かったです、生きていて」
 川に落ちる直前、一瞬だけ目にした顔であった。

「あ、あの、何か着るものを……」
「うちには男がいないので、男性用の服は……。あなたのはまだ乾かないし」

「ドラキュラの衣裳ならあるよ。マスクもついでに」
「母さん。ありがとう」

 そこに顔を出した初老の女性から渡された衣裳を、とりあえず着させてもらった。


 話を聞くと、川に落ちた僕たちを目撃者が協力して引き上げてくれて、彼女、カリンの家に運び込まれたようだ。

「モンスターに襲撃されて本当に死ぬかと思いました……」
「すまなかった。飛び込もうとしていたのではと焦って……」

 しかも落下したショックで気を失ってしまったなんて……情けない。気絶さえしてなければ自力で泳いでなんとかしたのに。

「確かに飛び込めたらなと思っていたけど、やっぱり勇気が出なくて」
「じゃあ結果的に僕が後押ししてしまったのか」

 これは恥ずかしい、穴があったら入りたい。

「結局失敗に終わったので、今度はまた別の方法で……」
「うわああダメだ、早まるな!」

 死相を浮かべた彼女に事情を聞いてみた。見ず知らずの他人だが、吐き出したい思いがあるのかもしれない。

「結婚したんだけど、子どもを死産して……もう二度と身ごもることのない身体になってしまい……」

 ……しまった、僕が聞いていい話ではなかった。

「離縁されて……もう生きていく希望が……」
「また、信頼し合って生きていけるパートナーにいつか出会えるかもしれないし」

「男はもういらない……。でも子どもは欲しい……」
「ああ、泣かないで。なら孤児院で縁組を」

「最低限、夫婦でなければ引き渡しは不可って。審査があるらしく」

 ああ3代前の領主が決めた法令か。子どもの保護に重点を置いた前衛的な政策だ。

「とにかく生きてさえいれば、また新たな希望がっ」
 こういう時、あいつだったらもっと気の利いたこと言ったり、何かできるのだろうな……。


「ところで、あなたはどう見てもそこらの市民ではなさそうだけど、どこか良いお家の方かねぇ?」
 一緒にいた、彼女の母親が聞いてきた。

「あ、ああ。身元は明かせないが、祭りに出た身内を探しに来たら迷ってしまい……」
「じゃあ、この子を案内役に連れていけばええですよ」

「母さん、私、露店の売り子をしないと」
「私が代わりにやっておくよ。お前もちょいと気分転換しないとねぇ」
 それならと、彼女に祭りの中心部までの案内を頼んだ。


 ただいま彼女の家を出たところなのだが。
「ああ、露店を出しているんだっけ」
 彼女の露店には様々な装飾品が並んでいる。

「ええ。うちは代々、宝石の研磨職人をやってるんです。原石を切り分けて、磨いたら業者に回すのだけど、あまり値打ちが出ない石の部分が残るんですよ。いわゆる“くず石”というものね。それで気ままにアクセサリー作って、安値で露店に売りに出そうって」

「残り物なのか? とても綺麗なものばかりだが」

「私も十分きれいだと思うんだけど、購入者の好みとか人気とかいろいろあって、価値の出ない部分がどうしてもね……。でも私の家族みんな腕がいいから、とっても美しいでしょう!」

 宝石を語る彼女は生き生きとしてる。なにも絶望ということはないのではないか。そのとき僕は陳列台に置かれる、深い緑色につやめいた、翡翠のネックレスを見つけたのだった。

「これ」
「それも素敵でしょう。ツヤツヤしてて、食べてしまいたくなるでしょう!?」

「ああ、エレーゼの瞳みたいだ」

「あら、奥様?」
「うん、まぁ……。じゃあこれを買うよ。って、ああ、財布も川に落としてしまったんだ……」

「仕方ないですね、出世払いにしてさしあげます」
「いや出世しなくても払えるから。絶対に踏み倒さないから、これください……」

 ネックレス一本を入手して、祭りの中心地に向かった。そこで自警団に捜索の協力を頼むか。

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