おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……

松ノ木るな

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番外編  side: アンジェリカ 前章

⑥ 私を誘い出そうなんて10年早いですわよ?(…そわそわ。

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 結局、その場にいた男性らが総出で取り押さえてくださいました……。

 以前から社交の場において、彼女が私を敵視していたことは分かっておりましたわ。

 溜まった鬱憤が今回で噴き出した……ということでしょうが、私は別に彼女のお相手を故意に奪ったことなどないですし。ジークムント様だって彼女に気を持たせるようなことはしていないはず。

 すべて彼女よっぱらいの妄想です。今後はもっと距離を置いてやりますわ。ストラウド領にも進入禁止にしてやります。お兄様が無理ならお父様に掛け合ってでも。……ま、そのお父様が本当お優しいんですよね……。

「ごめんね、君を守ってあげられなくて」
 まだヨレヨレのジークムント様は気を遣ってそう言ってくださいますが、彼も被害者です。

「いえ、私なんかより、彼女の方をフォローすべきではないですか?」
「彼女?」

「パトリス嬢。あの御家は近年、興す事業を外しませんの。あなたにとってチャンスなのでは」

「俺は家と結婚する気なくてさ。人と結婚したいんだ」

「……嫡男でない方は気楽でいいですわね」

「その分、社会に精一杯貢献するよ」

 ……まぁ、同感です。“人と結婚したい”──。

 なんだか安心感がこの胸にあるのは、共感したから、ですわよね?




 また彼が隣国にお戻りになる日がやってきました。ノエラ邸、玄関先で再度この風景です。

「やぁ、アンジェリカ、見送りに来てくれたのか」
「お姉様の調子伺いのついでですわ」

「君はもう姉離れした方がいいよ。エレーゼもすぐ君には構っていられなくなるのだから」
「別にわたくしはっ……!」

 せっかくお見送りに来て差し上げたのに、なんですその子ども扱い!

 もう、ほら、またお姉様とエイリーク様が苦笑いしています。

「ええっと、お餞別を……」
 ここで私付きのメイドが慌てて耳打ちをして来ます。

「まぁ。……ジークムント様、申し訳ないですが、あなたに渡そうと思っていたお餞別を自宅に忘れてきてしまいましたの」

「いいよ、気持ちだけで。ところで俺さ、君に贈りたい物があるんだ」
「私に? ……あなたは見送られる方ですのに」

「君に似合いそうだなぁって思ったら、いつの間にか買ってしまってたんだ」

「え?」
「ちょっと待ってて。使用人に、君に渡すよう預けてあって……」

 今持ってきてくれるようです。

「あ、ジークムント」
 声をかけたのはエイリーク様。うつむいたお姉様が表情なく寄りかかっています。

「エレーゼ気分が悪いようで、僕たちはここで失礼するよ」
「ああ。お大事にね、エレーゼ」

 お姉様も小さく礼をして、おふたり屋敷へと入っていきました。

 それと入れ替わりに、バトラーが持ってきたのは大きなプレゼント箱。

「何が入っているのかしら?」

 少しワクワクしながらフタを開けたら、何かがぼわーんと膨らんで出てきました。

「ベルベットの布地……?」
「ドレスだよ」
「ドレス……」
 ブルーベルベットのそれを手にしたら。

「心地よい肌触り……」
 スカートの裾にちりばめられたクリスタルが上品な模様を描いています。
 デコルテ部分はジョーゼット生地が透けていて、かなり大人びたデザイン。
 ふんだんにあしらわれているオーストリッチフェザーのおかげで膨らんだのね。

 非常に美しいドレスですが……試着もなしにドレスをプレゼントってどういうことなの!?

 ブティックに連れて行かれるでもなく、もう購入済みのものを……って、こんなの初めてです。この方がいちばん前のめりでした!

「そ、そんなに……」
 私に衣裳を贈りたかったのです?
「ん?」
 
 私たちそんな、このような大層なもの贈り贈られる仲ではないというか、衣裳って……それって……。ええ、もしかして!

「どうした? 顔が真っ赤だが」
「わたくし、結婚前にそんなっ……」

「あれ、今度は青くなった?」
「だ、だって、晩餐会でご夫人方がお話しておりましたっ。殿方が婦人に衣裳を贈るのは脱がすためだって!」

 あら! ご本人を前に、私、なにを口走って……。

「はぁ??」
 ここいちばんの呆れた顔を見せられました。

 ええ……、違うのです??

「ちょっと君……無駄に耳年増じゃないか?」
「まぁ! 年増とは何です年増とは!!」

「これはさ」
 彼がドレスを手に取って、私のフォルムに当てて確かめます。

「ダンスパーティー用にあつらえられたドレスなんだ。サイズの手直しは君の方でやっておいて」
「ダンス??」
「専用だから、普段のドレスより軽くて踊りやすいよ。また俺と踊ってくれるようにと、願いを込めて」

 そういって彼は私の手を取りキスをしました。

「私を専属パートナーにしようというのです? 引っ切りなしに男性に誘われる私を、事前予約すると!?」

 ああ、もう。自分で引っ切りなしって……口にしてしまいました! もう、この方の前だと……。

「専属とは言ってないけど……」

 あなたから贈られたドレスを着て他の人と踊れるわけないでしょう!

 でも、早く着たいわ。これ、ターンをしたらふわぁっと裾が舞い上がるように作られていますわね。

「べ、別に、これを着て踊って差し上げないことはないですが、いつになりますの? ……大体、画展に行こうと以前お話していたのはどうなりました?」

 胸に溜まっていた気持ちが、ぽろっと出てきてしまいました。別に急かしているわけではないのですけど。……いやだわ、彼の顔を直視できません。

「ああ、帰ってきたらすぐにでも行こう。他にもどこか、行きたいところがあったら言ってくれ」

「え……」
「ほら、俺たち、……家族だし?」

 ……家族ですね、家族。姻族全員家族なんて言っていられませんけど。

「俺、いろんなところに出かけるの好きだから」
「私もお出かけは好きですわ」
「じゃあまた来年」
「無事のご帰国をお待ちしております」

 こうして私は、いつ果たされるかも分からない約束を胸に、馬車が見えなくなるまでお見送りしました。


 なんだか私、まだしばらく結婚できそうにありません、そんな予感がいたします。

 まぁ、構いませんわ。なんだかこのごろ楽しいのです。私、今、あんがい自由で──

もしかしたら私にも何らかの可能性があって、それを見つけられたなら、

これからだって、自分の足で立って歩いてゆける気がしますの。


 だからもうしばらく……“おひとりさま”の日々を満喫いたしましょう!



 

       ~to be continued


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