おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……

松ノ木るな

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番外編  side: アンジェリカ 後章

① 婚活ってこんなに疲れるものでしたっけ?

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 丘の草木が紅に黄にと色変えて、清らな風が木の葉をさらさら揺するこの季節。

 ただいまノエラ本邸で行われる双子兄弟の誕生日パーティーに、毎年のことながら出席しております。このたび彼ら、32歳のお祝いです。

 ……彼らが32歳……ということは……。

 私は……年が明け、誕生月の2月が訪れると、ええっと。

 忘れましたわ!!

 こちらでは大勢のゲストが、おしゃべりに花を咲かせながら海鮮料理のフルコースを堪能し、また、あちらのホールでダンスに興じる方々もおられます。

 本日の主役のひとり、エイリーク様は、もはや三人のお子たちが真の主役といったふうで、みなさまへ紹介して回るのにお忙しそう。お姉様もゲストの方々への挨拶に余念なく、お家の敏腕マダムが板についている、と認めざるを得ません。

 マダム、ね……。三十路ともなれば、それもそうでしょう。

 …………。私には縁のない話ですが!

 ええ結局、これといったご縁のないまま月日がいくらか流れてしまったのですわ。3年、5年、7年……そんなの、一瞬でしたわ! 一瞬!!

 お姉様が初めて出産した10年前……私もあの頃はまだどこへも嫁ぐ意欲がなく、社交場への出席も控えておりました。
 その代わりに自己実現といったものを目指し、何らかの職に従事しようかと考えて。

 たとえば王宮に出仕する、というような話もありました。しかし、やはり地元を離れるのは心細く……。
 この地方で、貴族の子女に勉学を教える家庭教師は? ……ううん、勉学を教えることより反抗期の子どもが苦手です!

 案外自分のできることってないのですね……子どもの頃から手習いもそれなりにしてまいりましたのに。

 ただその頃、絵画について更に学んでおりましたら、なにやらイメージが湧いてきたりなどして。私も絵描きの真似事を始めました。鑑賞するだけでなく、自ら表現するのもまた抜群に気持ちの洗われる、心地よい趣味になりましたわ。

 そんな折に、エイリーク様の伝手でご紹介いただきましたのは、絵画モデルのお仕事。

 これが一時なかなか好評を博し、あちらこちらから声を掛けられるようになったのです。
 さすが私の美貌です? それもありますけれど、モデルの仕事は重労働。長時間でも姿勢を崩さず、クライアントの要求に応え続けなければなりません。
 「見た目によらず素晴らしい体力・持久力だ」とお褒めの言葉をいただくたびに、単純な私は言いようのない充実感を得ておりました。

 しかし。残念ながらこのお仕事には「賞味期限」というものが付き物。23になる頃には呼び声も掛からなくなりました……。

 するとついに、お父様がそれとなく縁談をほのめかしてくるようになったのです。最初は社交場へ積極的に顔を出すことを勧められるぐらいでしたが。

 私もまぁたまにはいいかと気分転換にお出かけいたしました。このコミュニティーで同程度の家格のご令嬢方はだいたいが既婚になっていらしたので、「いい人がいるのだけど」と取り持ってくださいましたの。

 ……いい人???

 ううーんと、え──っと……なんと申しましょうか。どの辺りがいい人なのかよく分からない方々を紹介されました!

 私、お仕事に趣味にとしばらく忙しく、社交界から少々縁遠くしておりましたので……。

 そういえばそうでした。社交界ここにはさまざまな不文律が存在していて、この件で言いますと、

「紹介人の方のご主人より“いい人”が紹介されるわけない」

という話でしたわ。

 しかしほとんどの同年代の男性はもう結婚されています。いえ、私にお誘いの声がないわけではないのです。20半ばでも多分に声が掛かります……30歳以上の、いいお歳の男性らから!!

 あなた既婚ではないの!!と、幾度声に出そうになったことか。中にはその5・6年前に、熱心に私を誘ってこられた方もおりましたわ。その頃とは誘い文句やら態度やらがずいぶん違うのですね。根拠のない余裕を漂わせ、上から目線で「今夜なんか、どうだい?」なんておっしゃるの! 何が「どうだい」なの!?

 そんな方々のおっしゃることはみな同じ。「もう妻とは何もないから」

 そんなこと聞いてません! 私の知ったことではありません!!

 24歳、少々心の疲れた私は仕方なく、年の近い、信用のある御家の男性と積極的にお知り合いになるよう動き出しました……。

 これがどうにも気分が乗らなくて。難航してましたところ、お父様が遠縁の方からいただいていらしたお話が。


 ご紹介いただいた男性、ハドック様は、王都寄りの地方からいらした由緒ある伯爵家のご令息でした。嫡男ではないので婿入りしても構わないとのこと。ふくよかで人の好さそうな、同年齢のお方。

 初めての会食時、緊張していらっしゃるのか汗をこまめに拭きながら、笑顔でお父様や紹介人の方に頭を下げておられました。

「いやぁ~~、このような美しい方を紹介いただけるなんて! 夢みたいだ! 僕は本当にツイてるなあ!!」

 なんだか大げさであるような気もしました。いえ私も、十代の頃でしたらそんな男性の物言いに、大げさだなんて露ほども思いませんでしたわ。でも当時の私はやはり疲れていて、「そんなふうに言われるほどでも……」なんて冷ややかな気持ちで自身を俯瞰ふかん的に見ていましたの。

 “いい人かもしれない”、ほのかな期待を抱いて、ハドック様のお誘いを受けることにしました。観劇をしてレストランへ。広い庭園をお散歩してカフェへ。

 彼はなんというか、見た目通りであまりスマートさはないのですが、いつも私に気を遣って、優しい言葉をかけてくださいます。出先では何をするにも一生懸命、真面目な人となりが窺えました。当初少し気になった汗っかきなところも、何度かお会いした後ではそれもご愛嬌と感じましたし、私は前向きに彼とのお付き合いを考え始めたところでした。


 それがちょうど5年前のこと……。その頃、恒例のノエラ兄弟誕生会のため、ジークムント様が帰省されまして。
 この折に、彼はまた私を揺さぶってきたのです。

 ああ、その前に。ジークムント様の経緯についてですが。

 彼は9年ほど前、おっしゃっていたとおり隣国から帰っていらして、そのまま王都へ移住してしまわれました。やはりキャリアの基盤は人口が段違いの大都会で、とのこと。

────「君は職に就くことを考えないのかい?」

 移住前に連れ出され、お食事中、こう聞かれました。

「最近、モデルのお仕事を始めましたわ」
「それは不定期の職だし、いつまでもできることではないだろう?」

「エレノーラが3つになるまではノエラ邸に通いたいですもの。今のままで充分です」
「君が通ったからってどれだけエレーゼの役に立てるっていうんだ……」
「何ですかその言い草は」

「あのさ、君も王都へ出てみないか?」
「えっ?」
 それって、一緒に来いということです??

「王家の女性の侍女として宮廷に入れば衣食住完備だし、いい精神修行になると思うよ、君にとって」
「は?」

 まるで呆れたように言葉を吐いたら彼は、輝くフォークの先をソーセージに刺し口に運びます。

 ん、なに? 私に精神修行をしろと?

「……なんですその言い草!」

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