おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……

松ノ木るな

文字の大きさ
61 / 66
番外編  side: アンジェリカ 後章

② 婚活の邪魔しないで!

しおりを挟む
 その帰り道、馬車の中で大見得を切りました。

「今は不定期のお仕事をしたりノエラ邸に通ったりの日々ですが、私にもいつ縁談が舞い込んでくるか分かりませんので」

 そうです、私だっていつ結婚するかも知れませんからね。

「王都に出ればここにいるよりもっと多くの釣書がまわってくるはずだけど?」

「私はよほどでなければここを離れる気にはなりません。確かに王都なら高貴で耽美な男性も多くいらっしゃるのでしょうが、私がそちらで探すのではなくてまず、男性側からこちらにいらしてほしいのです」

「ああ、そうかい」

 この話はここで打ち切りになりました。

 私はまだ20歳でしたので……自分の、女性としての価値を信じていましたの。

 それからジークムント様は年に2回ほど帰省され、そのたびにお食事や芸術鑑賞、乗馬等にお出かけし近況を報告し合う仲でありました。



 しかし5年前の秋。

 私はいつもの近況報告として、結婚を前向きに考えている方がいると打ち明けたのです。

「ふぅん。良いんじゃないか」
「良い……ですか?」
 心にぽっかり穴が開いたような気分です。

「人が良さそう、って君が感じるならそれがいちばんだろ。それに、婿入りしてもいいって男は腰が高すぎなくて安全だ」

「……それ、ご自分のことをおっしゃっていますの?」
「ん?」

「あなたもそれで我がストラウド邸に滞在されていたではないですか」
「ああ。まぁ相手がエレーゼだからっていうのもあるけど、やっぱりまだ若かったからね」

「若かったって、今だってまだ27になったところでは」
「エイリークなんかもう2児の父だよ。家を継ぐ男子ならそれが当たり前だけど、誰だって27ともなると今やるべきことで精一杯で、大きな変化は望まなかったりするんだ」

「そういうものですか」
「だからわざわざ20代半ばで田舎の子爵家に入ったりして、生活ガラッと変えてもいいなんて資産家の息子、よほど家庭持ちに夢を持ってる男なんじゃ」

「…………」
 彼の話が右耳から左耳へ抜けていく感覚があります。

「あなたは変えられないのです?」

「俺? それはもちろん。医院の運営もやっと軌道に乗ったところなんだ。ここから数年現場業務に専念して、以降は経営しながら研究にも力を注ぐか……いろいろと考えることだらけだ」

「…………」
 なんだか置いてきぼりにされている気分です。

 男女の差よ、仕方ないの。でも……。

「あなたのことですから、パトロンになりたいという最上流階級の女性はいくらでもいらっしゃるのでしょ。そこで下手に結婚なんてしたら、手を引かれてしまいますものね」

 嫌味のひとつくらい言いたくなりました。

「王都でのパトロン事情、気になる?」

「別にあなたのそういった事情なんて!」

 間髪入れず早口で否定してしまいました。

「一般的な話聞いてみたいかってつもりだったんだけど。別に俺のことではなくてさ」
「は?」

「世間ではどんな流れで上流マダムに呼び出され、それでどれほどもらえるかとか」

「~~そんな話聞きたくありませんわ! 本当に意地悪ですのね」

「意地悪は君だろ」

「……?」
 彼はあまり見せることのない、不機嫌な顔で食事を終えました。結局そこで話は流れ……。



 自宅に到着し、彼が玄関まで送ってくださった別れ際。

 “私、ほんとうに結婚するつもりでいるのですよ?”

 今にもこぼれそうになるそんな言葉を、口を固く結んで飲み込みました。だってまた、「良いんじゃないか」って言われたら。「精一杯の祝いの品を送らせてもらおう」「君の幸せを願っているよ」なんて、あっけらかんと言われでもしたら。

「じゃあ、また」

 “半年後には私もう結婚していて、「また」なんて機会はないかもしれないのですよ?”

「……ええ。今日はありがとうございました」
「こちらこそ」

 彼は私の手にキスをして、さっと馬車に乗ってしまわれました。




 それから私はそのハドック様と更なる逢瀬を重ね、とうとう、4度目のその日。

「アンジェリカ! もう僕は君以外考えられない! 君ほど美しく慎ましく、和やかで思慮深い女性は存在しない!! 僕と結婚していただけないだろうか!!」

 レストランでのお食事まっただ中、唐突に片膝をつき、語気強く言い放つ彼。

 使用人に持たせていた大きな赤薔薇の束を、少し震えた両手で抱え、私に捧げます。

 私は持っていたナイフとフォークを置き、それを受け取る形の両手を差し伸べました。

「……アンジェリカ?」

 顔を上げた彼は怪訝な様相です。私の両手が花束に辿りつかず、ぴたりと止まってしまったから。

「ごめんなさい……」

 どうしてかしら。涙がこぼれそうです。

「……ああ」
 彼は人の好い顔立ちに、苦笑いを浮かべ、こう呟きました。

「君ほどの美人が僕となんて、出すぎた夢だったね。困らせてごめんね」

「容姿がどうとか、つり合いがどうとかではなくて、ただ、あなた以外に考えられないという情熱が湧いてこなくて……」

 そんな断り文句あるかしら。貴族の結婚なんて、そんな気持ちお構いなしに成立するもので、しかも私はこの年齢よ。もう夢見るお年頃はとうに過ぎ去っているというのに。

「君ほどの麗しいご令嬢なら、きっといつかそんな情熱が湧いてくる人と結ばれるさ」

 本当に人の良い方です。

 どうか彼が、その人柄が好きだと認めるような、人柄の穏やかなご令嬢と結ばれますように。



 また私は完全に「自由フリー」な立場へ。そのまま、25歳の誕生日を迎えた頃。

「君の描く絵はほんわかとしていて、この童話の雰囲気に合うと思ったのでね」

 以前絵画モデルの仕事で知り合ったアトリエのご主人から、絵描き業務を依頼したいとのお話が。

「童話の挿絵ですか。わたくし、絵は好きに描いていたぐらいですが……」

「仕事にはしたくないかね? 枚数はそれほどでもないから試しにやってみるのもいいと思うよ」

 美術に関してはハングリー精神の塊であるエイリーク様を間近で見ておりましたから。名を売り、高みを目指すことはまったく尊いことであり、反面非常に疲弊するもの。私には向いていない気もします……。が、今後の可能性が増えるというのなら悪くないお話ですね。

 そういったふうに始めた業務はなかなかやり甲斐もあり、引き続き依頼をいただけると私もまた「社会に必要とされている」安心感に包まれたのです。この仕事なら「賞味期限」はないですものね。それなりに腕を磨いていれば、老女になっても続けていけますよね?

 ただ人生なにごとも、「慣れ」「飽き」といったものとの戦いなのかもしれません。

 こんな暮らしがいつまで続いていくのだろう。死ぬまでこんなふうに漫然と、日々が過ぎていくのかしら。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。

長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様! しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが? だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど! 義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて…… もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。 「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。 しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。 ねえ、どうして?  前妻さんに何があったの? そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!? 恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。 私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。 *他サイトにも公開しています

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

処理中です...