婚約者を奪っていった彼女は私が羨ましいそうです。こちらはあなたのことなど記憶の片隅にもございませんが。

松ノ木るな

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side: アイノ  ≪新妻アイノの憂鬱な日常≫

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 私は今、中流貴族の集まる晩餐会に出ているのだけど、居心地が悪いわ。私は元伯爵家令嬢、私がいちばん貴いのに。

 例の話し合いの結末に、彼と大喧嘩して「もう別れる!」と叫んだはいいものの、翌日にはすべて人々に知られていて……。

 両親に厳しく叱責され、しばらく謹慎処分になったのだけど、結局彼と結婚するしかなかったの。王都中の貴族に知られてしまって、ド田舎にでも行かないともう嫁ぎ先がないからって。

 なのにニクラス様は私の夫になった途端、廃嫡の憂き目にあい追放は免れたものの、今ではレーヴ家のごくつぶし。彼の弟の婚約者から、私も一緒に邪魔者扱いされてて。私が弟の妻になりたいのに、婚約者の女のガードが固いの。私の方が若いのに……。

 そういうわけで晩餐会に出ても、私のドレスがいちばん地味で居たたまれない。

「みなさま、アンドレ様とシルヴィア様のご婚礼、どういったお召し物で出席いたします?」
「聞いて。私はベージュのエンパイアドレスを仕立てましたの」
「あらいいですわねぇ」

 えっ……。

「シルヴィア様って?」
 まさか、あの……。

「それはもちろん、ハルネス侯爵家のシルヴィア様よ」
「あ。ねぇ、こちらの方は……」
「あ、あら、そうでしたわね。でも、あなたはあなたで今お幸せなのでしょう?」
「婚礼でのシルヴィア様、お美しいでしょうねぇ」

 ……なによそれ。王家の方に鞍替えですって? 年増のくせに!

 ああ羨ましいわ!! 私も王家の方と結婚したい!!

 私の夫はもう侯爵でも何でもないのだもの! 家では酒を呑んでいるばかり。だから酒太りしてしまって。それに最近では他の女と遊んでるみたい。


「あんなに仲良しだったのに。あんなにかっこよかったのに。どうしてこんなふうになってしまったのかしら!」
 私の腰巾着、貧乏子爵家のマレーナには本音を見せてもかまわないので、彼女とふたりになってこの行き場のない感情をぶつけてみた。

「他人の婚約者だからよく見えていただけでしょう? これに懲りて、せいぜい旦那様を大事にすることね。あ、フランソン様だわ」
「あら、フランソン伯爵様、素敵な方よね」
「私の婚約者ですから」
「ええ!?」

 いつの間に!? ……私の方が綺麗だし若いし、私の方がお似合いよね。

「あなたに奪われるようなことありはしないけど、私もこの春フランソン家に嫁ぎますし、もう子どもじみたあなたに付き合うのは御免ですから」

 彼女は私に笑顔で手を振った。そして、
「どうせふたつしか違わない私のことを年増のくせにって思っているのでしょうけど、それならあなたもすぐに年増よ。残念でした」
ですって? なによその勝ち誇った顔!

 ああっもう帰りたい!! けど帰りたくもない……。


              ~ FIN ~
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みんなの感想(1件)

御当
2024.10.11 御当


終わり?
タイトル回収は?
続くんですよね?

解除

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