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③ この結婚が既定路線でした。

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 あの日から、社交界はこの話題で持ちきりのようだ。

「あなたの遠隔通信魔法はすごいわね……」

 現在、研究所のカフェでアンドレとランチタイム。

 彼が私に預けたカーテンは、あの部屋で起きたすべてを捉え、王都中の透き通る鏡、池などの水面に、リアルタイムで映し出した。

 つまりあそこで起きていたことは、王都中の人間が知ることになったのだ。どんな言い逃れもできやしない。

「まだ試作段階です。この魔具をもっとブラッシュアップして、いつか離れたところにいる人間同士が顔を見ながら会話できるようになるといいな」

「どんな天才よ……」
 あと10年ほどで成し遂げてしまいそうだわ。

 結局あの後、ふたりは口論の末、手が出そうになっていたので家来たちが取り押さえた。

 そこから先が私にとっては重要で、まず私の家から正式に婚約破棄を通達した。あの映像が動かぬ証拠。めいっぱいの慰謝料を支払っていただく結果に。

 ここまで大事おおごとになり、当然ニクラスは跡取りの座を追われ、弟君が領主の座に就くのだとか。私にはもはや関係のないことだが。

「さて。合格、いただけますか?」

 ん? ああ、そうだった。課題テストの一環だったわね。

「そんなの当たり前じゃない。今となってはゴタゴタが片付いたことより、これから大躍進する魔具のスタートに立ち会わせてもらえたことが喜びよ!」

「とぼけてるんですか?」
「へ? ……えっ?」

 身体がふわっと浮いた。転移魔法!?と思ったそばには、彼の両腕で抱き上げられていた。

「な、なに!?」
「午後はふたりで早退すると所長に話をつけてあります」
「ええっ!?」
 でも午後の業務が! どこへ連れていかれるの!?



**

 早急に馬車で連れてこられたのは。
「まさかの王宮……」
 私は宮殿の入口でその荘厳な建築美をぽかんと眺めた。

「今から王陛下のところへ」
「!? ちょ、ちょっと待って!」
 さすがに何の準備もなしに、王陛下??に謁見なんて大それたこと……。


 まず王宮の応接間で話を聞くことに。
 私の実家も侯爵の名に恥じない立派な応接間を持っているが、王宮のそれはやはり格が違う。

「アンドレ……あなたはいったい……」

 彼は少しためらいがちに、身分を明かし始めた。

「僕は現王の甥にあたります。王位継承権は5位。まぁお鉢は回ってこないけれど」

 なんと王家の方でした──! 高位貴族の私から見ても尋常でない高貴な容姿と立ち振る舞いは、国家最高権力者の血が成せる風貌でしたのね。ずっと研究室に籠っていて王家の方の顔を知らず、すみませんでした──!

 そこで彼はさっと私の隣に来て。
「もうあなたは僕のものということで、対等な言葉で話をするね」
「ひゃ、ひゃぁい!」
 変な声出た。

 だって王家の人が、こんな顔近づけて、そんな陶酔した目で見つめてくるから……。
 あら? 今、僕のものっておっしゃいました? ……待って!

「どうしてこうなったの!? ……なったんですか」
「だって、僕は合格しただろう?」
「ん?」

「あの魔法が成功したら、あなたの生涯のパートナーとして合格だって」

「そんなこと言ってません、その大事なところ言ってません!」
「あれ、おかしいな。映像見る?」

 証拠品用意してる──! その上きっと改ざんしてる! この人絶対それくらいの魔力ある!

 彼は小さなため息をついて、また目を細めて私を見た。そして手を取り、今度ははっきりと言葉にしたのだ。

「ずっとあなたを目標に走ってきた」
「?」
 以前、会ったことあったかしら。

「幼い時、魔法に目覚めて夢中になっていた頃にね。屋敷で学習していたいのにパーティーに連れ出され、令嬢方とやれ会話だダンスだと延々せがまれ、よく抜け出して庭の池で水遊びしていた」

 そこで私に出会ったと。私も同じような状況で、よく抜け出していたかな。

「あなたの見せてくれた水魔法に魅了されたんだ。清らかで、華やかで涼しくて。違う世界に連れていかれたような期待感、爽快感。夢のような一時だった。それから調べてあなたが王立学院の特待生だと知った。僕はずっとあなたを目指して自身の魔力を研磨して……」

 私に刺激を受けて……。彼はそう熱く語った。

「ずっとあなたの背中を追いかけていた。やっと追いついたんだ。これからは並んで、手を繋いで、遠い未来へと共に歩いていきたい」

「そ、そんな……」
 ……熱のこもった目で言われて、断れる女性がいると思うの!?

「と、言いたいけれど」
「?」
 彼はぐいっと顔を寄せてきた。

「しばらくは前でも未来でもなく、僕だけをまっすぐ見ていて」

 お、押し倒っ……顔が近いです──! 笑顔が眩しいです──!!
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