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③ イケボの威力
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「濡れ衣を晴らしたいけど、明かしたくない事実もある。殿下だけに、内密に話せないかしら。……無理ね、もう婚約者でない私は……。殿下に近付こうにもガンニバル家が総出で阻んでくるでしょう」
「それどころか、お忘れですか? 殿下にあなたの護送を言いつけられているのは私ですよ」
そうだった、私は追放宣告を受けた身で。ラグナル、あなたは私の敵なの?
「そんな不安げな顔をしないで。私はあなたを信じています。あれはあなたの日記ではない」
「ラグナル……」
「あなたの出版している恋物語なのだから」
────え? 今、なんて……。
「私には隠さなくてもいい。あなたの才能を私は評価していて、そして深く愛している」
私が書いていることを突き止めたの!? ……この方にごまかしは通じないわね。
「今をときめくあなたの恋物語は切なくも官能的だ。世の乙女のみではない、我ら軍人も、一時現実を忘れられる癒しの魔法にかけられた」
そう言いながら彼は、私の腰掛ける椅子の背にその右手を、テーブルに左手を突いて抑え込み、私をその場に閉じ込め──。
「私も夢中で読みふけった。そして知ってしまった。あなたは私の恋物語を紡いでいると」
ん??
「……ど、どういう意味?」
「あなたが紡ぐ物語の主人公は、私だ」
端正な顔がぐっと迫ってくる。
「だ、だめよ……。私は、まだ次期王妃の座を諦めていない、カンテミール家の娘で……」
“黒騎士ラグナル”、黒を基調とした甲冑装う彼を、宮廷の乙女たちはそう呼ぶ。
彼の瞳を見つめてはならない。彼の真摯な眼差しはいつだって、女性を優しく包み込む。身動きできないほど熱く抱きしめられ力を失った乙女は、その背のマントにくるまれ、二度と帰っては来られぬ暗黒の世界へと連れてゆかれる──ともっぱらの評判だ。
まぁそれを期待し乙女たちは逆狩人へと変貌するのだが。
「べ、別に私の創作した主人公はあなたではないわ! 誰がモデルなんてこと考えたこともなくて、ただ私の……想像上の、最高に愛すべき男、というものよ」
「なんてことだ。無自覚だなんて」
「あなたは確かに素敵な男性だわ、でも自惚れないで。私の生み出した男主人公は、それを好んで読むすべての女性の心に存在する、理想の男の化身。そんな理想像が現実に存在するなんて、そんなこと……」
ないのかしら?
「いや、違う。あなたの中のあなたの理想だ。そして私だ」
こうも言い切る彼に、私は言葉を失った。その隙に彼は、目と鼻の先に顔を寄せてくる。
これ以上彼と言葉を交わせば、心の身ぐるみすべて剥がされてしまいそうで怖い。彼の声にはそれだけの力がある。
私は感じていたことがあった。多くの女性は彼のこの奇跡の割合で整った顔立ちや、鍛え抜かれた肉体に魅力を感じて夢を抱いていると自覚するのだろうが、実のところ彼のオブラートに包まれた真の武器は、ややテノールなかすれ声。
その声の持つ色気は魔術を唱えるのと等しい才能だ。彼に投げかけられた他愛もない挨拶で、女性たちはその場で腰砕けにされる。彼の通った道は彼女らの屍で埋まり、以降シロツメクサも生えない……これは比喩表現だが、そのくらい私は彼の声の威力を信じている。
「お願いです。あなたの中の私を認めて。私の思いを受け止めてください」
彼の目がうっすら涙で輝いている。真剣な眼差し……彼の愛は真実かもしれない。
「でも私には、私の立場が……」
思いきれない私に彼は、深くため息をついた。
「それなら、力づくであなたの心を奪ってみせよう」
「え……?」
「それどころか、お忘れですか? 殿下にあなたの護送を言いつけられているのは私ですよ」
そうだった、私は追放宣告を受けた身で。ラグナル、あなたは私の敵なの?
「そんな不安げな顔をしないで。私はあなたを信じています。あれはあなたの日記ではない」
「ラグナル……」
「あなたの出版している恋物語なのだから」
────え? 今、なんて……。
「私には隠さなくてもいい。あなたの才能を私は評価していて、そして深く愛している」
私が書いていることを突き止めたの!? ……この方にごまかしは通じないわね。
「今をときめくあなたの恋物語は切なくも官能的だ。世の乙女のみではない、我ら軍人も、一時現実を忘れられる癒しの魔法にかけられた」
そう言いながら彼は、私の腰掛ける椅子の背にその右手を、テーブルに左手を突いて抑え込み、私をその場に閉じ込め──。
「私も夢中で読みふけった。そして知ってしまった。あなたは私の恋物語を紡いでいると」
ん??
「……ど、どういう意味?」
「あなたが紡ぐ物語の主人公は、私だ」
端正な顔がぐっと迫ってくる。
「だ、だめよ……。私は、まだ次期王妃の座を諦めていない、カンテミール家の娘で……」
“黒騎士ラグナル”、黒を基調とした甲冑装う彼を、宮廷の乙女たちはそう呼ぶ。
彼の瞳を見つめてはならない。彼の真摯な眼差しはいつだって、女性を優しく包み込む。身動きできないほど熱く抱きしめられ力を失った乙女は、その背のマントにくるまれ、二度と帰っては来られぬ暗黒の世界へと連れてゆかれる──ともっぱらの評判だ。
まぁそれを期待し乙女たちは逆狩人へと変貌するのだが。
「べ、別に私の創作した主人公はあなたではないわ! 誰がモデルなんてこと考えたこともなくて、ただ私の……想像上の、最高に愛すべき男、というものよ」
「なんてことだ。無自覚だなんて」
「あなたは確かに素敵な男性だわ、でも自惚れないで。私の生み出した男主人公は、それを好んで読むすべての女性の心に存在する、理想の男の化身。そんな理想像が現実に存在するなんて、そんなこと……」
ないのかしら?
「いや、違う。あなたの中のあなたの理想だ。そして私だ」
こうも言い切る彼に、私は言葉を失った。その隙に彼は、目と鼻の先に顔を寄せてくる。
これ以上彼と言葉を交わせば、心の身ぐるみすべて剥がされてしまいそうで怖い。彼の声にはそれだけの力がある。
私は感じていたことがあった。多くの女性は彼のこの奇跡の割合で整った顔立ちや、鍛え抜かれた肉体に魅力を感じて夢を抱いていると自覚するのだろうが、実のところ彼のオブラートに包まれた真の武器は、ややテノールなかすれ声。
その声の持つ色気は魔術を唱えるのと等しい才能だ。彼に投げかけられた他愛もない挨拶で、女性たちはその場で腰砕けにされる。彼の通った道は彼女らの屍で埋まり、以降シロツメクサも生えない……これは比喩表現だが、そのくらい私は彼の声の威力を信じている。
「お願いです。あなたの中の私を認めて。私の思いを受け止めてください」
彼の目がうっすら涙で輝いている。真剣な眼差し……彼の愛は真実かもしれない。
「でも私には、私の立場が……」
思いきれない私に彼は、深くため息をついた。
「それなら、力づくであなたの心を奪ってみせよう」
「え……?」
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