4 / 6
④ 分からせられた。
しおりを挟む
彼は私をこの状況から救い出すと約束してくれた。それからの私は彼の計らいで、使用人部屋に潜んで過ごすことに。
「準備にそう時間はかからない。耐えてください」
「構わないわ。なんとか王城に留まり策を練ろうと思っていたのだから」
でもあなたはどうするつもり?
「あなたが手を下す必要はない。私にすべてお任せください。ああ、そうだ。あなたのお書きになった原稿をお貸しいただけるか」
「原稿? 私が書いたものと世間に知らされない限りは構わないけど……」
「悪いようには致しません。あなたは宮廷の掃除婦になりきり、殿下の動向を注視しておくように」
「? ……分かったわ」
その三日後の夜のこと。私はほっかむりで顔をできるだけ隠し、殿下の部屋の扉が見える周辺をホウキで掃いていた。のちほど自室に戻る殿下を発見し、廊下の角に隠れ様子を見守る。
「おや、扉の隙間に紙が……」
殿下はそう呟き、一枚の紙を手にした。何が書かれているのだろう。彼はそれを真剣に読み込んでいる。
そして次に、周囲の床をきょろきょろと見回す。そして彼から数歩先のところに落ちている、一筆箋のサイズの紙を拾い上げた。
不審な挙動だ。それを読んだ彼はまたその先に落ちている紙を見つけ、こちら側に向かってくる。
しかし殿下は私の存在に勘づくことなく、床の紙を拾い上げては読み、それを繰り返し、どんどん先へ進みゆく。
「気になる……! 続きが気になるぞ!!」
────いったい何を読んでいるのだろう。
私は忍び足で彼の後を追った。
そこは王宮の中でも高位の者しか立ち入らない、憩いの庭へ出る屋上テラス。拾った紙面を読み、また先へ進みを繰り返した殿下が、辿り着いた先に見るのは。
月明かりによって浮かび上がるラグナルと令嬢アデラ!
私は彼らと殿下両方の様子を覗き見るため、柱の後ろに身を隠した。殿下も彼らに声をかけようとして、だがいったん身を潜めたようだ。なぜなら彼らがすでに会話を交わしている。私も耳をすました。
「黒騎士ラグナル。どうしてあなたがここにいるの。私、ひとりになりたいのに」
「あなたがここにいるからだ。あなたの愛らしいハミングに誘われてきたよ」
あら? 既視感あるわ。そうだ、これは、私の書いた物語のワンシーン!? 主人公とヒロインの出会い……。
「いけないわ。私は次期王妃となる身。一夜の戯れで失うには、背負うものが大き過ぎるの」
「このようにか細く、可憐な肩に熾烈な運命を背負せるのは忍びない。私があなたをこの凍てつく檻から、放つことができたなら」
ええっと、運命を……から、それって私の書いた主人公の台詞!
「弁えなさい。いくら冥王ハデスの再来と呼び声高いあなたであっても、私は容易く連れ出せる女ではないのよ」
「ああ、なんて妖艶な眼差しだ。あなたの気高さの前で、私はもはや無力だ」
そう、私の理想の主人公はつれない貴婦人に愛を乞うの。まるで愛に飢えた少年のように。
「あら。まぁこの私の魅力の前では仕方ないわよねぇ」
「あなたに虚勢の仮面を剥がされてしまった。あなたになら私のすべてを打ち明けられる」
ああ……、ラグナル。あなたはまさに物語の中の主人公……。そうね、きっと私、あなたを書いていた。私の理想の男。認めざるを得ないわ。
「準備にそう時間はかからない。耐えてください」
「構わないわ。なんとか王城に留まり策を練ろうと思っていたのだから」
でもあなたはどうするつもり?
「あなたが手を下す必要はない。私にすべてお任せください。ああ、そうだ。あなたのお書きになった原稿をお貸しいただけるか」
「原稿? 私が書いたものと世間に知らされない限りは構わないけど……」
「悪いようには致しません。あなたは宮廷の掃除婦になりきり、殿下の動向を注視しておくように」
「? ……分かったわ」
その三日後の夜のこと。私はほっかむりで顔をできるだけ隠し、殿下の部屋の扉が見える周辺をホウキで掃いていた。のちほど自室に戻る殿下を発見し、廊下の角に隠れ様子を見守る。
「おや、扉の隙間に紙が……」
殿下はそう呟き、一枚の紙を手にした。何が書かれているのだろう。彼はそれを真剣に読み込んでいる。
そして次に、周囲の床をきょろきょろと見回す。そして彼から数歩先のところに落ちている、一筆箋のサイズの紙を拾い上げた。
不審な挙動だ。それを読んだ彼はまたその先に落ちている紙を見つけ、こちら側に向かってくる。
しかし殿下は私の存在に勘づくことなく、床の紙を拾い上げては読み、それを繰り返し、どんどん先へ進みゆく。
「気になる……! 続きが気になるぞ!!」
────いったい何を読んでいるのだろう。
私は忍び足で彼の後を追った。
そこは王宮の中でも高位の者しか立ち入らない、憩いの庭へ出る屋上テラス。拾った紙面を読み、また先へ進みを繰り返した殿下が、辿り着いた先に見るのは。
月明かりによって浮かび上がるラグナルと令嬢アデラ!
私は彼らと殿下両方の様子を覗き見るため、柱の後ろに身を隠した。殿下も彼らに声をかけようとして、だがいったん身を潜めたようだ。なぜなら彼らがすでに会話を交わしている。私も耳をすました。
「黒騎士ラグナル。どうしてあなたがここにいるの。私、ひとりになりたいのに」
「あなたがここにいるからだ。あなたの愛らしいハミングに誘われてきたよ」
あら? 既視感あるわ。そうだ、これは、私の書いた物語のワンシーン!? 主人公とヒロインの出会い……。
「いけないわ。私は次期王妃となる身。一夜の戯れで失うには、背負うものが大き過ぎるの」
「このようにか細く、可憐な肩に熾烈な運命を背負せるのは忍びない。私があなたをこの凍てつく檻から、放つことができたなら」
ええっと、運命を……から、それって私の書いた主人公の台詞!
「弁えなさい。いくら冥王ハデスの再来と呼び声高いあなたであっても、私は容易く連れ出せる女ではないのよ」
「ああ、なんて妖艶な眼差しだ。あなたの気高さの前で、私はもはや無力だ」
そう、私の理想の主人公はつれない貴婦人に愛を乞うの。まるで愛に飢えた少年のように。
「あら。まぁこの私の魅力の前では仕方ないわよねぇ」
「あなたに虚勢の仮面を剥がされてしまった。あなたになら私のすべてを打ち明けられる」
ああ……、ラグナル。あなたはまさに物語の中の主人公……。そうね、きっと私、あなたを書いていた。私の理想の男。認めざるを得ないわ。
93
あなたにおすすめの小説
断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした
カレイ
恋愛
子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き……
「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」
ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?
婚約者を追いかけるのはやめました
カレイ
恋愛
公爵令嬢クレアは婚約者に振り向いて欲しかった。だから頑張って可愛くなれるように努力した。
しかし、きつい縦巻きロール、ゴリゴリに巻いた髪、匂いの強い香水、婚約者に愛されたいがためにやったことは、全て侍女たちが嘘をついてクロアにやらせていることだった。
でも前世の記憶を取り戻した今は違う。髪もメイクもそのままで十分。今さら手のひら返しをしてきた婚約者にももう興味ありません。
元平民の義妹は私の婚約者を狙っている
カレイ
恋愛
伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。
最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。
「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。
そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。
そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。
今さら救いの手とかいらないのですが……
カレイ
恋愛
侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。
それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。
オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが……
「そろそろ許してあげても良いですっ」
「あ、結構です」
伸ばされた手をオデットは払い除ける。
許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。
※全19話の短編です。
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
【完結】あなたが妹を選んだのです…後悔しても遅いですよ?
なか
恋愛
「ローザ!!お前との結婚は取り消しさせてもらう!!」
結婚式の前日に彼は大きな声でそう言った
「なぜでしょうか?ライアン様」
尋ねる私に彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべ
私の妹マリアの名前を呼んだ
「ごめんなさいお姉様~」
「俺は真実の愛を見つけたのだ!」
真実の愛?
妹の大きな胸を見ながら言うあなたに説得力の欠片も
理性も感じられません
怒りで拳を握る
明日に控える結婚式がキャンセルとなればどれだけの方々に迷惑がかかるか
けど息を吐いて冷静さを取り戻す
落ち着いて
これでいい……ようやく終わるのだ
「本当によろしいのですね?」
私の問いかけに彼は頷く
では離縁いたしまししょう
後悔しても遅いですよ?
これは全てあなたが選んだ選択なのですから
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる