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【 第三章 】 復讐を果たしたら
② その姉弟との出会いは
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アリアンロッドがこの甘い蜜をどう捜索に使うのかを尋ねると、薬師マクリールは、これを飲んだ人間は鼻の利く犬に感知されると説明した。
「一族で移住の旅に出る、などの際に、行方不明者が出ることもあるだろう? あとは災害時とかな。その緊急事態に、特別に訓練された犬ではなくても、捜索を可能にする! 便利だろう?」
「便利ね! ……ん、待って?」
アリアンロッドは早々と気付いてしまった。この蜜の落とし穴に。
「それって、行方不明者があらかじめこれを食べてなきゃいけないってことよね?」
「うっ……」
マクリールはくりくりした目を大きく開けて、後ずさりした。
「ちょうど行方不明になる前に、これを食べてなきゃいけないのでしょう?」
追及圧を背負ってアリアンロッドは、そんな彼に迫った。
「猫に鈴を付けて逃げることにした鼠みたいだな」
アンヴァルは話半分で、まだサラダをもしゃもしゃ食べている。
取りも直さず、その不備のせいで商用にはまだ不満足な製品であった。
マクリールは一度たじたじになったが、こう追い込まれると薬師魂に火が付いて、改良する気負いも新たにした。
「ま、現状、捜索用としての確実性はないが、通常の蜂蜜より3倍は腹持ちがいい。おやつとして摂取しても損はない。犬には囲まれるがな」
「小さい子にはいいのかもね、いつどこで迷子になるか分からないし。じゃあせっかくだし、2瓶いただくわ」
ササッと取り出した金貨を1枚、差し出したアリアンロッド。受け取った金貨を摘まみ上げて、物珍しそうに眺めるマクリール。これにて、ご縁が成り立った。
「さてと」
アリアンロッドはアンヴァルに、“今回はこれで目的達成!”と目配せする。日没までにふもとの宿屋に着くように、ふたりは山頂の屋敷を後にした。
◇
アリアンロッドが入手した蜜の瓶を、アンヴァルが両脇に抱え、ふたり、スタスタと山道を下っている。
「山道の散歩は気持ちいいわね。あ、リスだわ。可愛い!」
まだ解放感冷めやらぬアリアンロッドは、木を伝っていく小リスの姿を追いかける。
「道から外れていくなよ」
「あ、ちょうちょ!」
「5歳児か。って、言ったそばから外れていくな!」
「あっ……?」
蝶の舞った道を行きかけたアリアンロッドに、この今の瞬間、異変が生じる。
例の、冷たい風に煽られて、今にも宙に弾き飛ばされるような感覚に襲われた。しかしこれも3度目だ、多少は心に余裕がある。
取り急ぎアンヴァルが抱えている2本の瓶を取り上げ、その場にしゃがみこんだ。
「ん、どうした!?」
「ヴァル、瓶を抱きしめてる私を抱きしめて!」
「は??」
「早く! せっかく買ったんだから守らなきゃ! 移動で瓶が割れませんように」
アリアンロッドの早口に急かされ、しゃがんだアンヴァルがぎこちなく彼女を抱きしめた瞬間、ふたりは山から飛び立ってゆくのだった。
緑々しい草木生い茂る山の奥に到着したアリアンロッドは、完全に気を失っている。
「おーい、どうかしたか?」
「ここで女が藪にハマってるんだ!」
農具を担いだひとりの少年が、藪に埋もれたアリアンロッドを目に留め、仲間たちの呼びかけにそう返した。
「この体勢、空から落ちてきたのか? 妙だな」
アリアンロッドは藪の中にすっぽりとハマり、2本の瓶を身体に挟んで守るようにして抱いていた。
少年は連れの男たちに向かって叫ぶ。
「この女を藪から出すの手伝ってくれ!」
◇
「うーん。生きてはいるんだけどな」
まずは彼女を藪から出して寝かせたが、頬を叩いてみても返事がない。
そこにまた他の男たちがやってきて、近くに見慣れぬ男が同じく失神して伏せていると少年に伝えた。
少年は、この男女は連れ合いだろうと思い、仲間たちにふたりを荷車に乗せてほしいと頼んだ。
◇◆◇
アリアンロッドが目を覚ましたら、そこは家屋の中だった。台所と繋がる居間にいる。これは庶民の家の造りだ。
「お目覚めですか?」
物作りの最中の女性がひとり、声を掛けてきた。
「ここは? ……いたっ」
「大丈夫? あなたは少し怪我をしてしまったのよ」
ふんわりした声のその可愛い娘が、起き上がるのを手伝ってくれた。
「あ、そうだ。私、また……」
気を失ったのもこれで2度目。いち早く気付けたアリアンロッドであった。
「あなたが助けてくれたんですか?」
「いえ、私じゃなくて」
「あ、ヴァル」
アンヴァルが隣で寝ていた。
「お連れさんも近くで倒れていたみたいで。あ、お連れさんですよね?」
「そ、そう。そうです」
「彼に怪我はないみたい。あなたは藪の中で倒れていたって。だから衣服が破れて怪我をしてしまったのね」
脚に痛みがあり、見ると手当がされている。
「あ、ありがとう……。私は、ええと、アリーといいます。こちらはヴァルです」
対外用に、ニックネームの“アリー”を名乗った。
「私は、フレイヤ」
金の髪にヘーゼルの瞳、透き通るような肌を持つ儚げな容貌の少女、フレイヤ。
容姿はいかにも淑やかな乙女だが、喋る声はハツラツとした、朗らかな音色だ。
彼女はアリアンロッドに、歳もそう違わないだろうから気安く話そうと提案した。
少しの会話の後、アリアンロッドはアンヴァルをゆすって起こす。
「ん……。ここは?」
「ヴァル、どこも痛くない? ……ん?」
アンヴァルが起きて状況をそれなりに理解した頃、玄関の戸の開く音が。
フレイヤの家族が帰宅した物音だ。
「ああ、目が覚めたんだな」
部屋に入ってきたのは、少し長めのアッシュゴールドの髪をひとつに束ねた目つきの鋭い男子。その緑の瞳には、採光加減で黄金色がちらつく。
少年の目力に圧倒され気味のふたりを見つけて、フレイヤが口を開いた。
「あなたたちを見つけて家に運んだのは、この弟なの。弟のユン」
アリアンロッドは、こんな10歳くらいの子が? と目を見張ったが、即座に礼を言った。アンヴァルも彼に向ってぺこっと頭を下げる。
「気絶したまま夜になったら凍死しかねないぞ。なんでそんなに薄着なんだ?」
自分たちはそれほど薄着ではなく、むしろ姉弟が厚着なのでは、とアリアンロッドは思った。が、言われてみれば、移動先の季節が違ってもおかしくない。
「もう春だけど、夜はまだ寒いからね。あなたたちは南の方からおいでなのね?」
「えっと、私たち旅をしていて。でもちょっと迷子になってしまって……」
「そう、もう日暮れ時だし良ければうちに泊まって。もしお急ぎでないなら、しばらくここらに滞在するのはいかが? 何もないところだけど、春の訪れで辺りはとても美しいの」
気さくに話す彼女に、アリアンロッドは、え? いいの? と期待を全面に表した。
ユン少年はテーブルの皿に乗った物を食べ始め、ふたりもそれをいくらかもらう。
「私、家事ならなんでもするから、もし空き小屋があればしばらく居させてほしいのだけど……」
アリアンロッドはこの家がそう大きくないことを察し、部屋ではなく小屋を望んだ。農家なら小屋があるはずだ。
「小屋でいいなら。うちは冬の食料保管庫が2棟あってね、うち1棟は当分不要だから使ってもらって構わないわ。過ごしやすいように片付けて」
「ありがとう」
スムーズな寝床確保にひと安心。
ただ、そこで、
「でも、1室でいいの?」
とフレイヤに聞かれたのだが、意を得ない。
「ええ、1室で十分」
「あ、夫婦なのね」
「え? ううん、夫婦ではないけど」
以前の旅先でも夜は普通に添い寝していたので、アリアンロッドはもう、どうも思わないようだ。
一方、質問者のフレイヤはいったん黙り込み、そのあと「ああ」と手拍子を打ち、笑顔でこう確認するのだった。
「そういうおともだち?」
「ブハッ! ……兄妹!」
口の中の食べ物を噴き出したアンヴァルが、慌てて訂正した。
「一族で移住の旅に出る、などの際に、行方不明者が出ることもあるだろう? あとは災害時とかな。その緊急事態に、特別に訓練された犬ではなくても、捜索を可能にする! 便利だろう?」
「便利ね! ……ん、待って?」
アリアンロッドは早々と気付いてしまった。この蜜の落とし穴に。
「それって、行方不明者があらかじめこれを食べてなきゃいけないってことよね?」
「うっ……」
マクリールはくりくりした目を大きく開けて、後ずさりした。
「ちょうど行方不明になる前に、これを食べてなきゃいけないのでしょう?」
追及圧を背負ってアリアンロッドは、そんな彼に迫った。
「猫に鈴を付けて逃げることにした鼠みたいだな」
アンヴァルは話半分で、まだサラダをもしゃもしゃ食べている。
取りも直さず、その不備のせいで商用にはまだ不満足な製品であった。
マクリールは一度たじたじになったが、こう追い込まれると薬師魂に火が付いて、改良する気負いも新たにした。
「ま、現状、捜索用としての確実性はないが、通常の蜂蜜より3倍は腹持ちがいい。おやつとして摂取しても損はない。犬には囲まれるがな」
「小さい子にはいいのかもね、いつどこで迷子になるか分からないし。じゃあせっかくだし、2瓶いただくわ」
ササッと取り出した金貨を1枚、差し出したアリアンロッド。受け取った金貨を摘まみ上げて、物珍しそうに眺めるマクリール。これにて、ご縁が成り立った。
「さてと」
アリアンロッドはアンヴァルに、“今回はこれで目的達成!”と目配せする。日没までにふもとの宿屋に着くように、ふたりは山頂の屋敷を後にした。
◇
アリアンロッドが入手した蜜の瓶を、アンヴァルが両脇に抱え、ふたり、スタスタと山道を下っている。
「山道の散歩は気持ちいいわね。あ、リスだわ。可愛い!」
まだ解放感冷めやらぬアリアンロッドは、木を伝っていく小リスの姿を追いかける。
「道から外れていくなよ」
「あ、ちょうちょ!」
「5歳児か。って、言ったそばから外れていくな!」
「あっ……?」
蝶の舞った道を行きかけたアリアンロッドに、この今の瞬間、異変が生じる。
例の、冷たい風に煽られて、今にも宙に弾き飛ばされるような感覚に襲われた。しかしこれも3度目だ、多少は心に余裕がある。
取り急ぎアンヴァルが抱えている2本の瓶を取り上げ、その場にしゃがみこんだ。
「ん、どうした!?」
「ヴァル、瓶を抱きしめてる私を抱きしめて!」
「は??」
「早く! せっかく買ったんだから守らなきゃ! 移動で瓶が割れませんように」
アリアンロッドの早口に急かされ、しゃがんだアンヴァルがぎこちなく彼女を抱きしめた瞬間、ふたりは山から飛び立ってゆくのだった。
緑々しい草木生い茂る山の奥に到着したアリアンロッドは、完全に気を失っている。
「おーい、どうかしたか?」
「ここで女が藪にハマってるんだ!」
農具を担いだひとりの少年が、藪に埋もれたアリアンロッドを目に留め、仲間たちの呼びかけにそう返した。
「この体勢、空から落ちてきたのか? 妙だな」
アリアンロッドは藪の中にすっぽりとハマり、2本の瓶を身体に挟んで守るようにして抱いていた。
少年は連れの男たちに向かって叫ぶ。
「この女を藪から出すの手伝ってくれ!」
◇
「うーん。生きてはいるんだけどな」
まずは彼女を藪から出して寝かせたが、頬を叩いてみても返事がない。
そこにまた他の男たちがやってきて、近くに見慣れぬ男が同じく失神して伏せていると少年に伝えた。
少年は、この男女は連れ合いだろうと思い、仲間たちにふたりを荷車に乗せてほしいと頼んだ。
◇◆◇
アリアンロッドが目を覚ましたら、そこは家屋の中だった。台所と繋がる居間にいる。これは庶民の家の造りだ。
「お目覚めですか?」
物作りの最中の女性がひとり、声を掛けてきた。
「ここは? ……いたっ」
「大丈夫? あなたは少し怪我をしてしまったのよ」
ふんわりした声のその可愛い娘が、起き上がるのを手伝ってくれた。
「あ、そうだ。私、また……」
気を失ったのもこれで2度目。いち早く気付けたアリアンロッドであった。
「あなたが助けてくれたんですか?」
「いえ、私じゃなくて」
「あ、ヴァル」
アンヴァルが隣で寝ていた。
「お連れさんも近くで倒れていたみたいで。あ、お連れさんですよね?」
「そ、そう。そうです」
「彼に怪我はないみたい。あなたは藪の中で倒れていたって。だから衣服が破れて怪我をしてしまったのね」
脚に痛みがあり、見ると手当がされている。
「あ、ありがとう……。私は、ええと、アリーといいます。こちらはヴァルです」
対外用に、ニックネームの“アリー”を名乗った。
「私は、フレイヤ」
金の髪にヘーゼルの瞳、透き通るような肌を持つ儚げな容貌の少女、フレイヤ。
容姿はいかにも淑やかな乙女だが、喋る声はハツラツとした、朗らかな音色だ。
彼女はアリアンロッドに、歳もそう違わないだろうから気安く話そうと提案した。
少しの会話の後、アリアンロッドはアンヴァルをゆすって起こす。
「ん……。ここは?」
「ヴァル、どこも痛くない? ……ん?」
アンヴァルが起きて状況をそれなりに理解した頃、玄関の戸の開く音が。
フレイヤの家族が帰宅した物音だ。
「ああ、目が覚めたんだな」
部屋に入ってきたのは、少し長めのアッシュゴールドの髪をひとつに束ねた目つきの鋭い男子。その緑の瞳には、採光加減で黄金色がちらつく。
少年の目力に圧倒され気味のふたりを見つけて、フレイヤが口を開いた。
「あなたたちを見つけて家に運んだのは、この弟なの。弟のユン」
アリアンロッドは、こんな10歳くらいの子が? と目を見張ったが、即座に礼を言った。アンヴァルも彼に向ってぺこっと頭を下げる。
「気絶したまま夜になったら凍死しかねないぞ。なんでそんなに薄着なんだ?」
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「もう春だけど、夜はまだ寒いからね。あなたたちは南の方からおいでなのね?」
「えっと、私たち旅をしていて。でもちょっと迷子になってしまって……」
「そう、もう日暮れ時だし良ければうちに泊まって。もしお急ぎでないなら、しばらくここらに滞在するのはいかが? 何もないところだけど、春の訪れで辺りはとても美しいの」
気さくに話す彼女に、アリアンロッドは、え? いいの? と期待を全面に表した。
ユン少年はテーブルの皿に乗った物を食べ始め、ふたりもそれをいくらかもらう。
「私、家事ならなんでもするから、もし空き小屋があればしばらく居させてほしいのだけど……」
アリアンロッドはこの家がそう大きくないことを察し、部屋ではなく小屋を望んだ。農家なら小屋があるはずだ。
「小屋でいいなら。うちは冬の食料保管庫が2棟あってね、うち1棟は当分不要だから使ってもらって構わないわ。過ごしやすいように片付けて」
「ありがとう」
スムーズな寝床確保にひと安心。
ただ、そこで、
「でも、1室でいいの?」
とフレイヤに聞かれたのだが、意を得ない。
「ええ、1室で十分」
「あ、夫婦なのね」
「え? ううん、夫婦ではないけど」
以前の旅先でも夜は普通に添い寝していたので、アリアンロッドはもう、どうも思わないようだ。
一方、質問者のフレイヤはいったん黙り込み、そのあと「ああ」と手拍子を打ち、笑顔でこう確認するのだった。
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