追放聖女アリアンロッドは過去も未来もあきらめない! ~救国の乙女は願いを胸に時の河を超える~

松ノ木るな

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【 第七章 】 永遠に君のそばにいる

④ 亡霊パニック

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「先代大聖女の死出の旅に、従者を連れていくことを禁じます」

 そこは波が伝うようにどよめいた。しかしみな、大聖女の次のことばを待つ。

「ただのひとりでも道連れにすれば、この国に災いが起こると、神が仰せなのですから。もちろん、私の時にも同じです。以後の大聖女はすべて、ひとりで旅立ち、そして」

 新大聖女アリアンロッドは微笑んだ。

「あの世で友達をみつけます。自力で!!」

 男たちはみな、豆鉄砲を食らったような顔で、拳を天高く持ち上げた彼女を見つめる。

 彼女は知っている、いや誰もが分かっている。大聖女を見送る者らは、道連れなど実際いてもいなくても構わないのだ。ただ初代大聖女の時代から続く「ならわしだから」そうしているだけ。神の使いである大聖女の、死出の先すら慮ることで、国の更なる発展をと願う心も間違いではない。しかしこのような犠牲を生むならわしは、人を不幸にするだけだ。

「ここにいる者は押しなべて、神のことばの証人です。よろしいですね!!」

 そこはいまだ静かなる場だが、最前列のディオニソスがまず、膝をつき敬礼した。それを見た貴族の面々は同じように、続々と恭順の意を表すのだった。

 それを確認しアリアンロッドは、付きの者らを従え、大聖堂の中央を壮麗な歩みで退場した。

 涼やかで煌びやかな衣装の下で、ずっと足を震わせていた彼女。
 控室に戻ったらすぐ大聖女が、扉を背にもたれかかり腰を抜かしたなどと、大聖堂で毅然と輝く彼女の姿を目にしていた者は、誰ひとりとて思わぬことだろう。



 その後アリアンロッドは即位礼の衣装のまま、宮廷をひた走っていた。葬儀に向かうだろう彼を探すために。

「ディオ様!!」
「え? ……あっ」
 見つけたら脇目も振らず飛びついた。彼は血族の貴族たちと共にいたのだが、大聖女のまとう衣装のフレアがまるで羽のようで、目の当たりにした者らは精霊の訪れかと度肝を抜かれた。
 ディオニソスは彼女を抱え、大慌てで個室へと走ることになったのだった。



 ふたりきりになり、息を切らすアリアンロッドは再度、彼の胸に飛び込んだ。

「ごめんなさい。私、嘘をついた。ディオ様に、嘘をついてはいけないと教わったのに。確かそれは7つの頃、あなたから初めて教わったことだったのに」

 彼女はここのところずっと泣きはらして、よく見ると今も目が赤い。ディオニソスは一度自身から彼女を離し、その充血した目をじっと見つめ問うた。

「後悔しているのか?」

 それには大きく横に首を振るアリアンロッドだった。

「なら、今回だけは大目にみるよ」
 そう優しく囁いたら彼は、彼女を両腕で包み込み、後ろ頭を撫でた。

「ごめんなさい。でも、反省の気持ちどころか、珍しく……自分が誇らしい気分よ」

 彼の胸にある彼女の表情は、ずいぶんと清々しいものだった。




◇◆◇


「ええっ!? 亡霊が!? お母様の!??」

 霊廟周辺でもの恐ろしい噂があるとアリアンロッドが聞いたのは、即位式から5日後の午後。ディオニソスより、大聖女の霊廟は即位したその時より建設が始まる、という話をされている最中でのことだった。

「私は特別に作ってもらわなくても結構よ。それよりディオ様と同じお墓に入りたいわ!」
と言い切ったアリアンロッドを無視するためにアンヴァルが、この時期により増員している墓守り兵からの報告を提示したのだ。

「おおおお母様はぼぼぼ亡霊などどどにななってせせせ生者にとと憑りつつついたりなななななど……」
 彼女の震えっぷりにアンヴァルはニヤリ。

「先代の眠る墓だからって、今、兵らに憑りついてるのがご本人とは限らないだろ。もっと質の悪い悪霊がいるのかもしれないな」

 アリアンロッドは顔を青くし、声を失った。アンヴァルは大方満足したので、閑話休題。

「どこからともなくザックザックと音がするとかで、霊廟周辺に立つ兵らが逃げ出したり、気絶したりで仕事にならない。まだ4日だから、続くようなら俺が出向かなくては……」
 それからアンヴァルは王陛下の体調をディオニソスに報告した。

「陛下、どうかしたの?」
 ディオニソスの言うには、この頃、王の体調が思わしくないらしい。あの戦いの日に、馬に騎乗して現れたのが信じられないほどだと。そのうえ先代大聖女をうしない、精神的にも大打撃を受けた。

「もう四十を越えているからね。以前から仕事もあまり満足に進められず、そういった事情で、まだ12歳のフリカムイに業務を割り当てていたのだ」
「そうだったの……」
「ところで……。アリア、君の髪の結び目に結んであるその紙は何なんだ?」
 ディオニソスの冷静な指摘が入った。アリアンロッドは即位後、髪型をポニーテールにしていたが、そこに紙を結んでいるのは、アクセサリーにさほど興味のないアンヴァルも気になっていた。

「聖女の証明書」
「「?」」
 主従は動きが止まった。

「お母様の形見だから……。お母様の直筆なんてこれしか持ってないの」
「いや待て、普通それを髪に結ぶか? そのうちぼろぼろになるぞ」
「大事にしまっておくより、今は肌身離さず持っていたい。これがぼろぼろになる頃には、気持ちの整理もつくかもしれないと思って」
 まぁそういうことなら、と、彼らも納得した。


 アリアンロッドはディオニソスから、最近の王はもっぱら自室にて休息していると聞き、夕刻、彼を気遣いに出向いた。
「大聖女と王は、いつでも二人三脚だものね!」

 しかし自室を訪ねても王は不在。庭園へ散歩にでも出ているのかと、そこを後にした。
 だが翌日の暮れ方も部屋と庭園を回ったが、彼の姿は見当たらず。
「明日、お昼にまた訪ねてみよう……」



 結局、その翌日も王と会えずじまいだ。従者らに聞いても、それぞれ「担当者は別にいて分からない」と、ふわふわしたことを言う。アリアンロッドは、さすがにこれはおかしいと、ディオニソスに掛け合った。

「さ、探しましょうっ。まさか誘拐とかっ」
「それはないと思うが。曲がりなりにも王だからな。実務はすべて私が任されているし、別荘に湯治にでも出掛けたのかもな」
「でも、家来も付きの者も、誰も知らないなんて……」
「探してみよう。ただし現時点では事を荒立てたくないので、少人数で」

 ディオニソスはアンヴァルに、側近の兵のみに捜索の命を下すよう言った。
 彼らで王宮内を手分けして探し始め──……

 アリアンロッドも王宮内ではあるが、大聖女という立場にも関わらず、平然とその姿を見せ、それどころかむやみに駆け回っており、そこらの者々の目を丸くさせていた。
 そうしているうちに日は沈みかけ、いまだ王は見つからず、アリアンロッドがいちばん気を揉んでいる。

 王と大聖女は常に二人で一組の国の最高権力者だというのに、アリアンロッドが即位して間髪を入れず、この事態になってしまった。
 アリアンロッドは、王にとって、私では信頼に値するパートナーと認められないのだろうと、心を萎ませる。

(そういえば、王陛下が最後に私のそばにいらっしゃったの、いつだったっけ……)
 記憶を掘り起こしてみると、それは即位の日までさかのぼった。彼は体調不安を抱えていても、その後も忙しく過ごしていたようだ。
 アリアンロッドが最後に彼の顔を見たのは、即位式であの宣言をして、高座に腰掛けた時の一瞬のみ。彼女はあまりの緊張で、自分以外のことに思いを巡らす余裕がなかった。

(思い出して。あの時の、彼の表情は……)
 強張った表情、思いつめた表情、今思い起こせるのはそういったものだ。


「……っ」
 アリアンロッドは王宮の隅に建つ、兵の馬舎に走った。そこでは軍事官長の息子・イーグルが、馬に跨ろうとするところだった。
「アリアンロッド様、どうなさったのですか?」
「あ、イーグル。あなたは? もし時間が空いてるなら、頼みがあるのだけど!」

「私は今から先代様の霊廟に出向くところです。情けないことに例の噂のせいで、昼間から逃げ出す守りの兵が複数出てしまって。今から引き締めに」
「お願い、私も連れてって!」
「は?」
「ディオ様に叱られないように、後でちゃんと対処するから!」

 これは叱られるのも覚悟で聞き入れないと……と、イーグルは悟った。

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