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【 第七章 】 永遠に君のそばにいる
⑤ ちょっと顔がカワイイ有能なヤツら
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アリアンロッドが霊廟に向かい出した頃、一方の、王を探すディオニソスとアンヴァルが、ある場所でかちあった。
「アンヴァル、下の者からの報告はあったか?」
「こちらにはまったく」
「こちらもだ。私も東の庭園は大体見て回ったが」
「俺も西側は見ました。あとはこの倉庫周辺かと」
そういうわけでふたりは、大聖女の住まいの裏手にある、王専用の倉庫にやってきた。
「こんなところにいるわけはないと思うが」
「念のため、確認しましょう」
ふたりは倉庫の戸を開け、中に押し入った。
「「!?」」
◇◆◇
霊廟に向かう途中、アリアンロッドは考えていた。
確かに自分は、国史以来のならわしを一言で終わらせてしまった。
しかし間違ったことをしたとは思わない。使者が神の使いであろうとも、従者を道連れにするなど宜しい風習ではない。
ただそれが、神だからという理由ではなく、大事に思う者だから独りで逝かせたくないと願う気持ちならよく分かる。
(私だってそう。たとえ自分にまだ時間が残されていようとも、きっと、共に埋めてほしいと望む……)
神殿への階段に着いたらイーグルに門での見張りを頼み、アリアンロッドは棺の置かれている地下室へとまっすぐに走った。
「!」
大聖女の棺の手前、目に飛び込んできたのは──、崩された床の穴の中に立ち、土に埋もれ、胸から上だけが覗いている王と、彼を手伝い土を被せようとする下働きの少年らだった。
「止め――っ! その作業、止め――っ!!」
少年らは震えあがった。大層な衣装をまとったものすごい形相の女が、大声を上げて迫りくるのだから。埋もれかけの王も、振り向かずともこの異変に気付いたが、土の圧迫で声は出せない。
アリアンロッドは軽く少年らを突き飛ばし、その場に膝をつき、か細い指で土を掘り返し始めた。そして怯える彼に向かって、
「私は大聖女よ! 私を手伝いなさい!」
と威圧した。
少年らは混乱状態で、身振りを止めたままでいる。しかし現れた高貴な女性が真に大聖女なら、即座に大聖女の命令を聞かねばならないので、手にしている道具で今度は土を掘りだした。
そしてアリアンロッドはみなと共に王を引っ張り上げ、彼の無事を確認したら、ひとまず安心し、「ふう~~」といったん腰を据える。
「早く、王を丁重に連れ帰って、医師に見せないと……」
こうアリアンロッドが少年らに指示を出そうとしたこの時。使者の纏う装束を土まみれにした王は、彼女の前に膝をついて、申し出るのだった。
「どうか見逃してくれ。先代大聖女と共に逝かせて欲しい……。彼女は私の大事な相棒だ。独りで向かわせるのは、忍びなく……」
王の口調はすっかり威厳も零れ落ちたもので、少年の我が儘のようにも聞こえた。
(これは、どうしたらいいの……)
アリアンロッドには、本人が望むのなら止めるのが良いことなのか、という葛藤もあった。
(これは自らの命を絶つ行為だから……放ってはおけない。こちらも大事に思う者なら尚更。それが罷り通れば連鎖してしまうわ)
「はぁ~~」
長めに息を吐いて、彼女は容赦なく断言した。
「だめです。自分で自分の命を絶ってはだめ。理屈じゃないの、だめなものはだめ」
王は項垂れる。
(お墓はひとり用にしなくてもいいんじゃないかな……。王が立派な墓に眠らなくてはいけない理由も、ない)
「どうしても、あの世ですらあの方と共にありたいなら、いつかのあなたの旅立ちも、ここから始めればいい。私たちが責任を持って、あなたの棺をここに運んでくるから」
その時、地上階からばたばたと足音が聞こえた。
「ディオ様、ヴァル!」
主従の登場だ。
「ああ、やはりここにいたのか、我が父は」
ふたりはイーグルを従えてアリアンロッドがここに向かったと、兵から聞いて来たのだった。
ふとアリアンロッドは気付く。アンヴァルが何か茶色いものを担いでいる。
「ヴァル、それ何? 人……?」
彼が肩から降ろした人型の何やらに寄ってみたら、それはアリアンロッドの背丈より少し小さいだけの土器だった。
「……顔がちょっと可愛い……」
これがアリアンロッドのそれに対する第一印象である。
「これは王専用の倉庫にあったものだ」
「なぜか倉庫に、土製品の人体模型のばかり、百体ほど詰め込まれていた」
「ひゃ、百体!?」
後ろめたいのか、王はただ黙ってうつむいている。
「これは何だと思い焼き場で調べたら、たったひとり事情を知る、年老いた職人が教えてくれた。これは父が20年も前から隠れて作り続けている“埴輪”なのだと」
「ハニワ??」
アリアンロッドは知らないものだ。
「遠い東の国々で作られている人形のようだ。祭祀や魔除けに使うのだとか」
職人は手伝わされていたようだが、ディオニソスは父が作ったと聞き、「どれほどに熱を注いでいたのだ?」と舌を巻いた。
「父王。あなたが工芸術に情熱を秘めていたのは理解しましたが……」
ディオニソスは子どもの頃から、王が最高権力者として最前線で人望を集めるよりも、内に閉じこもりたい性格であったことを苦々しく感じていた。
「あなたが情熱を傾けるべきところは、他にあったのでは?」
「あ、いいこと思いついたわ!」
その人体様土器を物珍しげに見つめていたアリアンロッドが、ディオニソスの前に出るようにして叫んだ。
「その20年に渡る情熱、ここで活用しましょ」
アンヴァルから受けとった埴輪を抱いて、王の目の前で腰を落とす。
「これ、何のために作ったのですか?」
「……国が永く平和でいられるように……そして家族も、末永く幸せに……またはそれを通じて、私自身が、許されたかったのかもしれない……」
「ふむ? “この子”の中の空洞には、そんなあなたの深い思いが詰まってるのですね。じゃあ、もうこれ、あなたじゃないですか? 顔もなんだか可愛げがあって、少し王陛下に似てます。だから……」
王は顔を上げ、アリアンロッドの目を見た。
「このあなたそのものであるハニワに、先代様と一緒に逝ってもらいましょう!」
アリアンロッドも、彼に思いが伝わるように、まっすぐ見つめ返した。
「百人のあなたが、天上の世界で引き続き、いつもあの方のそばにいて、心の支えになってあげるのです。だから大丈夫」
「…………」
すぱっと立ち上がったアリアンロッドは、
「百体すべて、従者が入るはずだった大穴に運んで」
こうヴァルに命じた。
そして再び、王の前に膝を立て、伺いを立てる。
「それでいいでしょう? そしてあなたが旅立つ時は、ここ、先代大聖女の手前に眠ってもらうから」
「……はい。お心遣いに感謝する。新たなる大聖女陛下」
彼はアリアンロッドの前で深く頭を下げた。
しかし、そのまま頭が上がらなかった。
「……どうしたの?」
彼は高い熱を出していて、そこに倒れたのだった。
それから2日が過ぎ、王は、熱は下がったものの、ただ眠り続けた。
ディオニソスはアリアンロッドに宮廷医の言葉を伝えた。
おそらくこのまま、神に召されるのだろうと。
アリアンロッドは当然動揺するが、ディオニソスは落ち着き払った声音でこう説く。
「父王は元々身体の丈夫な人ではなくてね。このまま眠るように先代大聖女様の元に逝ければ、まったくの果報者だ」
「それは、そうなのでしょうけど……」
それからアリアンロッドはずっと王の病床にいた。真夜中も隣でうたた寝といった様子なのでディオニソスにいなされるが、絶対に離れないと聞かなかった。
ある時そこの侍女の、庭園の水辺に良い香りの水仙が生えていたのおしゃべりを耳にする。病床の彼が目を開けなくても、花の匂いなら伝わるかもしれないと、アリアンロッドはその場を一時侍女に任せ、外へ出た。
「しまった、大聖女の衣装のまま来ちゃった」
草花が茂る庭園を回るには、大聖女専用のローブだと動きづらい。裾がすぐに汚れてしまった。
「楽な服装に着替えたいけど、みんなファッションにも厳しいのよね……。って、あ、風が……」
このような時に、久しぶりの、あの感覚が。
アリアンロッドは自分の両肩をぐっと掴み、静かに宙へ浮かぶ瞬間を待った。
「アンヴァル、下の者からの報告はあったか?」
「こちらにはまったく」
「こちらもだ。私も東の庭園は大体見て回ったが」
「俺も西側は見ました。あとはこの倉庫周辺かと」
そういうわけでふたりは、大聖女の住まいの裏手にある、王専用の倉庫にやってきた。
「こんなところにいるわけはないと思うが」
「念のため、確認しましょう」
ふたりは倉庫の戸を開け、中に押し入った。
「「!?」」
◇◆◇
霊廟に向かう途中、アリアンロッドは考えていた。
確かに自分は、国史以来のならわしを一言で終わらせてしまった。
しかし間違ったことをしたとは思わない。使者が神の使いであろうとも、従者を道連れにするなど宜しい風習ではない。
ただそれが、神だからという理由ではなく、大事に思う者だから独りで逝かせたくないと願う気持ちならよく分かる。
(私だってそう。たとえ自分にまだ時間が残されていようとも、きっと、共に埋めてほしいと望む……)
神殿への階段に着いたらイーグルに門での見張りを頼み、アリアンロッドは棺の置かれている地下室へとまっすぐに走った。
「!」
大聖女の棺の手前、目に飛び込んできたのは──、崩された床の穴の中に立ち、土に埋もれ、胸から上だけが覗いている王と、彼を手伝い土を被せようとする下働きの少年らだった。
「止め――っ! その作業、止め――っ!!」
少年らは震えあがった。大層な衣装をまとったものすごい形相の女が、大声を上げて迫りくるのだから。埋もれかけの王も、振り向かずともこの異変に気付いたが、土の圧迫で声は出せない。
アリアンロッドは軽く少年らを突き飛ばし、その場に膝をつき、か細い指で土を掘り返し始めた。そして怯える彼に向かって、
「私は大聖女よ! 私を手伝いなさい!」
と威圧した。
少年らは混乱状態で、身振りを止めたままでいる。しかし現れた高貴な女性が真に大聖女なら、即座に大聖女の命令を聞かねばならないので、手にしている道具で今度は土を掘りだした。
そしてアリアンロッドはみなと共に王を引っ張り上げ、彼の無事を確認したら、ひとまず安心し、「ふう~~」といったん腰を据える。
「早く、王を丁重に連れ帰って、医師に見せないと……」
こうアリアンロッドが少年らに指示を出そうとしたこの時。使者の纏う装束を土まみれにした王は、彼女の前に膝をついて、申し出るのだった。
「どうか見逃してくれ。先代大聖女と共に逝かせて欲しい……。彼女は私の大事な相棒だ。独りで向かわせるのは、忍びなく……」
王の口調はすっかり威厳も零れ落ちたもので、少年の我が儘のようにも聞こえた。
(これは、どうしたらいいの……)
アリアンロッドには、本人が望むのなら止めるのが良いことなのか、という葛藤もあった。
(これは自らの命を絶つ行為だから……放ってはおけない。こちらも大事に思う者なら尚更。それが罷り通れば連鎖してしまうわ)
「はぁ~~」
長めに息を吐いて、彼女は容赦なく断言した。
「だめです。自分で自分の命を絶ってはだめ。理屈じゃないの、だめなものはだめ」
王は項垂れる。
(お墓はひとり用にしなくてもいいんじゃないかな……。王が立派な墓に眠らなくてはいけない理由も、ない)
「どうしても、あの世ですらあの方と共にありたいなら、いつかのあなたの旅立ちも、ここから始めればいい。私たちが責任を持って、あなたの棺をここに運んでくるから」
その時、地上階からばたばたと足音が聞こえた。
「ディオ様、ヴァル!」
主従の登場だ。
「ああ、やはりここにいたのか、我が父は」
ふたりはイーグルを従えてアリアンロッドがここに向かったと、兵から聞いて来たのだった。
ふとアリアンロッドは気付く。アンヴァルが何か茶色いものを担いでいる。
「ヴァル、それ何? 人……?」
彼が肩から降ろした人型の何やらに寄ってみたら、それはアリアンロッドの背丈より少し小さいだけの土器だった。
「……顔がちょっと可愛い……」
これがアリアンロッドのそれに対する第一印象である。
「これは王専用の倉庫にあったものだ」
「なぜか倉庫に、土製品の人体模型のばかり、百体ほど詰め込まれていた」
「ひゃ、百体!?」
後ろめたいのか、王はただ黙ってうつむいている。
「これは何だと思い焼き場で調べたら、たったひとり事情を知る、年老いた職人が教えてくれた。これは父が20年も前から隠れて作り続けている“埴輪”なのだと」
「ハニワ??」
アリアンロッドは知らないものだ。
「遠い東の国々で作られている人形のようだ。祭祀や魔除けに使うのだとか」
職人は手伝わされていたようだが、ディオニソスは父が作ったと聞き、「どれほどに熱を注いでいたのだ?」と舌を巻いた。
「父王。あなたが工芸術に情熱を秘めていたのは理解しましたが……」
ディオニソスは子どもの頃から、王が最高権力者として最前線で人望を集めるよりも、内に閉じこもりたい性格であったことを苦々しく感じていた。
「あなたが情熱を傾けるべきところは、他にあったのでは?」
「あ、いいこと思いついたわ!」
その人体様土器を物珍しげに見つめていたアリアンロッドが、ディオニソスの前に出るようにして叫んだ。
「その20年に渡る情熱、ここで活用しましょ」
アンヴァルから受けとった埴輪を抱いて、王の目の前で腰を落とす。
「これ、何のために作ったのですか?」
「……国が永く平和でいられるように……そして家族も、末永く幸せに……またはそれを通じて、私自身が、許されたかったのかもしれない……」
「ふむ? “この子”の中の空洞には、そんなあなたの深い思いが詰まってるのですね。じゃあ、もうこれ、あなたじゃないですか? 顔もなんだか可愛げがあって、少し王陛下に似てます。だから……」
王は顔を上げ、アリアンロッドの目を見た。
「このあなたそのものであるハニワに、先代様と一緒に逝ってもらいましょう!」
アリアンロッドも、彼に思いが伝わるように、まっすぐ見つめ返した。
「百人のあなたが、天上の世界で引き続き、いつもあの方のそばにいて、心の支えになってあげるのです。だから大丈夫」
「…………」
すぱっと立ち上がったアリアンロッドは、
「百体すべて、従者が入るはずだった大穴に運んで」
こうヴァルに命じた。
そして再び、王の前に膝を立て、伺いを立てる。
「それでいいでしょう? そしてあなたが旅立つ時は、ここ、先代大聖女の手前に眠ってもらうから」
「……はい。お心遣いに感謝する。新たなる大聖女陛下」
彼はアリアンロッドの前で深く頭を下げた。
しかし、そのまま頭が上がらなかった。
「……どうしたの?」
彼は高い熱を出していて、そこに倒れたのだった。
それから2日が過ぎ、王は、熱は下がったものの、ただ眠り続けた。
ディオニソスはアリアンロッドに宮廷医の言葉を伝えた。
おそらくこのまま、神に召されるのだろうと。
アリアンロッドは当然動揺するが、ディオニソスは落ち着き払った声音でこう説く。
「父王は元々身体の丈夫な人ではなくてね。このまま眠るように先代大聖女様の元に逝ければ、まったくの果報者だ」
「それは、そうなのでしょうけど……」
それからアリアンロッドはずっと王の病床にいた。真夜中も隣でうたた寝といった様子なのでディオニソスにいなされるが、絶対に離れないと聞かなかった。
ある時そこの侍女の、庭園の水辺に良い香りの水仙が生えていたのおしゃべりを耳にする。病床の彼が目を開けなくても、花の匂いなら伝わるかもしれないと、アリアンロッドはその場を一時侍女に任せ、外へ出た。
「しまった、大聖女の衣装のまま来ちゃった」
草花が茂る庭園を回るには、大聖女専用のローブだと動きづらい。裾がすぐに汚れてしまった。
「楽な服装に着替えたいけど、みんなファッションにも厳しいのよね……。って、あ、風が……」
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