追放聖女アリアンロッドは過去も未来もあきらめない! ~救国の乙女は願いを胸に時の河を超える~

松ノ木るな

文字の大きさ
109 / 148
【 第十章 】 あなたが導いてくれたから

⑧ 思い出せ あのとき決めた あの数字

しおりを挟む
 山の民の頭領は、手下に“遊び”の支度を命令した。

 ここの者らは百数十年も拉致行為をもって血を繋いでいるが、争いになったことはないらしい。
「別に女たちを緊縛しているわけでもないからなぁ」
 さらわれてきた女たちは逃げようともしないし、ふもとから取り返しに来る男たちを、暴力で追い返したりもしていないと話す。

 実際、アンヴァルはここに来る前、町役場で話を聞いてきた。なぜこんな愚行を放っておいているのか。なぜ王宮に通達して軍の対応を要求しないのか、それを元兵士の役人、つまりルーンの父親にも聞いてみた。
 その返事としては、軍隊の、人命救助の範疇でない、ということだった。アンヴァルにしてみたら、分からないようで分かる。これは明確に犯罪としていないのだろう。被害者が祟りもろもろを恐れて、訴える度胸もないのだから。

「この山に暮らす民のならわしでな、女を取り返しに来られたら、遊んでお帰りいただけとなっているんだ」
 そんな話をしているうちに彼の手下らが、大きな酒樽を3つ、担いできた。

「それぞれに、口と手足を縛られた女が入っている。お前の女はどの樽にいるか、見事当てたら返してやろう。当てられなければ諦めて下山しろ」
「!?」
「これが俺たちの儀式ルールだ」
「つまり……」

 そんな下らないことで、連れ戻しに来た男たちは戦うこともせず帰っていったのか、と、アンヴァルは腹立たしい。
 ルーンが少しでも力になりたいと、足の痛みに耐えてアンヴァルの元に寄ってきた。

「まぁ言いがかりの布石なんだろうな。正解を外して反抗したら周りの男たちで殴りかかるということか」
「となればあれは罠でしょうが、でも僕は、彼らは本当に遊びに興じているような印象も受けます」
「?」
「女が必要なのは確かですが、自分たちが負けるかもしれない緊張感も楽しい、といったような」
「じゃあ案外、罠でもないのか?」
「どうでしょう? ギャンブルにイカサマは付きものですからね」

 ほろ酔いになってきた頭領が説明する。樽を叩いて中にいるのを確認するのはいい。女も音を返すだろうから、それで判断してもいい。だが樽を壊したら失格。
「簡単な話だろう?」

 ニヤリとする頭領を尻目にアンヴァルは、いちばん近くの樽を握りこぶしで軽く一度叩いた。すると中の人間が、括られた腕だか足だかで、ガン!ガン!と打ちながら、「んーんー」と声を上げる。が、それは女の声だと分かる程度で、個性などは伝わってこない。周囲では男たちがどんどん酒に溺れ、うるさく騒ぎ始める。

 アンヴァルはよく伝わるようにそれを、ダンダンダンダンダン! と、5回、叩いてみた。

「ん―ん―」
 返しはまたこの程度。

 次の樽も同じように叩いた。中からの反応はやはり同じ感じだ。
「分かるわけない」
「ここで冷静さを欠いたら、今まで奪還に失敗した人たちの二の舞いですよ」
 ルーンの“上から忠告”が、アンヴァルは多少癪に障ったようだが、3つ目の樽も同じように叩いてみた。
「アリアンロッドさんが入ってるのはどれですか?」
「さぁ?」
 アンヴァルは両手をひらっと上げた。

 その時、彼は首領の背後にある、窟の岩間の奥に、木々や枝葉で覆われ隠されているような倉庫を見つけた。倉庫が、というよりその木戸が見えたのだ。

「あんなところに戸が……」
「?」
「ほら、あれは木戸だろ。俺、目はいいんだよ」
「本当だ。それ目ざといっていうんじゃないですか?」
「お前、こいつらは愉快犯だって言ってたよな」
「? はい」

 アンヴァルは前進した。それを頭領が意識し、重い腰を上げ、立ちふさがる。
「そこをどけ」
 アンヴァルは面倒くささに苛立った。
「ああ?」
 頭領が言われるままに引くわけがなく、アンヴァルは剣を突き出した。
 となれば、立ちはだかる相手は応戦の構えだ。

 周りの男たちは冷やかし、下っ端が頭領に斧を渡す。そこからふたりは打ち合いを始めたが、アンヴァルはこれでも、大男が3人せぇのでかかってこようとも容易く返り討ちにできるよう鍛えてある。

「う゛うっ……」
「降参しろ」
 それほど時はかからず、余裕をもって後ろの大岩に相手を追い詰めた。

 周りの男らはガヤガヤと騒ぐ。この酔っぱらいたちが、ルーンを人質にして押さえつけるかと言いだした頃、アンヴァルは倉庫に向かって踏み込んだ。

 すぐにもその木戸を蹴り破ろうかと思ったが、その前にまず壁を、ダンダンダンダンダン!! と、3つの樽にしたのと同様に叩いた。
「…………」
 そして待つ。彼には長い時間に思えた。

 結局、何も応答はなく、彼は「ここじゃないのか」と、木戸から背を向ける。
 それとも、彼女がを覚えているだなんて、しかもこのような機会のために打ち合わせたわけでもなく、期待するほうがおかしいだろうよ、と諦めた、その時──

 向こうから、ダンダンダンダン! ダンダンダン!! と、7回、返ってきた。樽の時より音が強いので、こちらは足で蹴っているのだろう。

 ハッとして振り返った後、アンヴァルはまた大勢の方に顔を向けた。そして頭領に勝ち誇った顔でこう言い放ちながら、

「俺の女はここだ。当てたからには約束通り、俺たちを無傷で返せよ!」

木戸を全力で蹴り割った。

「…………!!」

 そこには猿ぐつわで口を封じられ、手足も括られたアリアンロッドが、エビのように寝そべっていた。

「んん―――ん――ん――!!」

 彼女は、「急に戸板が降ってきた! 危ないってば! ひどい!」と言ったのだが、少しも伝わらなかった。
 手早く彼女の縄を解くアンヴァルに、足を引きずりながら歩み寄ったルーンが尋ねる。

「なんで分かったんですか?」
「そりゃこんな思わせぶりな戸があったら、なんかあると普通思うだろ」
 それでは入れられているのが確実に彼女だと分かる理由にはならない、と彼は思ったが、安易に他者に漏らしてはいけない何かがあるのだろうと、それ以上は問わずにおいた。
「結局、性格の悪い愉快犯でしたね。彼女をこんな近くに隠してただなんて」

「ヴァル。待ってた」
「ん」

 何気に見つめ合うふたりだった。
 だが、彼らのほんわかな空気をよそに山の男たちが、3人を行かせまいと熱気を放って囲み込む。中には酔っぱらってふらふらしている者もいたりする。

「さすがに大人しく返す気はないですか……」
 アリアンロッドはいまいち状況が分からず、おろおろするだけだ。
「夜明けまでまだあるな」
 溜め息を漏らしたアンヴァルは、山の男たちに向かって声を張り上げた。

「ここで俺らを力でねじ伏せようものなら、夜明けに下から来る自警団に、お前ら全員しょっぴかれるぞ!」

「?」
 ルーンは隣で怪訝な顔だ。
「アンヴァルさん、地域の人たちなんて来ないでしょう……。今までに一度だって、対処しようとしたことがないんですから」

「いや。今、お前の父親の先導で準備している最中だ。夜明けに立つことになってる。特に、このあいだの大会で活躍した若い奴らが大張り切りで来るぞ」
 アンヴァルはあえて大声で話す。

「えっ? なんで父が?」
「役人なんだから、それぐらいの権限はあるだろ」
「役人だからこそ、あまり騒ぎにしたくないはずで……」
「実の息子が捕らわれてるってのに、及び腰な父親なんていない。まぁ確かに、大事にはしたくなさそうだったんだけどな。なによりお前の母親が大騒ぎしたんだよ」

 ルーンは“母”という言葉に青ざめた。

「そりゃもうものすごい剣幕で、男集めに近所中走りまわってたぞ。夜明けを待たずして来るかもしれない」
「あああ~~きっと、ものすごく集められてしまいます……母はタコのような人なので……」
 8本の足で他人を絡め取って離さない、と言いたいらしい。

「そういうわけだ、役人の実子をさらったのは悪手だったな。ここで大人しく俺たちを帰せば、それも解散になるんだが」
 山賊たちは、これで頭領の指令がないと下手に手出しできず、その場に立ち尽くした。

「おい、こいつら連れてきた奴どこだ! ちったあ選んでから連れて来いよ!」
 頭領は無茶なことを言っているが、どうやら穏便に逃がしてもらえるようだ。
 ひとまずは安心するアンヴァルとルーンであった。

 こうして、アンヴァルがさぁ行くぞと、再度ルーンを背負いだした時である。

「ねぇ! あなたたちも全員下山して、下の地域の人たちと仲良く暮らせばいいじゃない!」
 状況がろくに分かっていないアリアンロッドが、何か言いだしたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました

藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】 ※ヒーロー目線で進んでいきます。 王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。 ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。 不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。 才能を開花させ成長していくカティア。 そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。 立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。 「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」 「これからも、私の隣には君がいる」 甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...