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【 第十一章 】 選ばなかった道の先にある運命
⑤ ボーイッシュな少女
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古代樹と見まごう大木の裏からぴょこっと飛び出てきた幼子を、しばらく、うわぁ可愛い女の子だぁ……とじろじろ見つめていた。
「ああ、さっき気絶してた奴だな? もう起きていいのか?」
声もいかにも幼子風に甲高く、可愛らしい子だ。民族衣装に身を包み、キノコのたくさん入ったカゴを手にしている。
「別に礼とかいいぞ。運んだのは爺さんだしな」
それだけを言って、向こうへ歩いていこうとした。
「あ、ちょっと待って!」
アリアンロッドはその子の見た目調査を慌てて止めた。
「何だ? 俺に何か用か?」
「んん?」
なんだか違和感だ。
(女の子……よね??)
まじまじとその見た目調査に入った。確かに子どもの見目や声の性差はそれほど大きくないが、やはりこの子は女の子だと思う。髪の毛は短いがそれでもちゃんと女子に見える。
「どこに行くの?」
「そっちの原っぱでヨモギ採る」
「なら私も手伝う。一緒に行っていい?」
「いいけど」
◇
すぐに林を抜け草原に出た。日当たりの良い場所で、ヨモギが集団を作って生い茂っている。少女は重ねてあったカゴを外し、ヨモギを採って入れ始めた。アリアンロッドも手伝いながら会話を始める。
「それはおじいさんに? 家族なんだよね?」
「いや、爺さんは友達だ。爺さんにも持ってくけど、これは母さまに食べさせるんだ」
「友達……」
少女と老人が友達というのは一見妙だが、案外親和性があるものだと感じた。
「晴れの日はちょくちょく爺さん無事か確認しにきて、ここらで食べ物を採って帰る」
「じゃあ、あなたは村で暮らしてるのね?」
「ん~~」
少女は若干言葉を濁したふうだが、アリアンロッドは気に留めず、次の問いを繰り出した。
「母君はキノコとヨモギが好きなの?」
「…………」
少女の顔が曇った。
アリアンロッドは少女の悲し気な顔の理由を聞いた。
「母さまはもう、何もかも食べられるわけじゃないから」
「病気なの?」
「そういう歳かな。……母さまはもうあと半年くらいか、きっと1年も生きられない」
「えええ?」
アリアンロッドは唖然とする。こんな小さな子が、親の余命いくばくを予想しているなんて。
「でも、そこのおじいさんだって、髪の毛全部白くなってもあんなに元気だし、あなたのお母様っていうくらいなら……」
「だってそう感じるんだ。爺さんは特別元気なんだよ」
そこでアリアンロッドはハッとした。今、自身が神隠しで飛ばされて、この年端もいかない少女と出会ったのだ。もしかしたらこの子は何らかの力、もしかしたら予言の力を持っているのかもしれない。もし力を持つ聖女なら、胸に聖痕があるかどうか確かめればいいのだが。
(でも急に、“胸を見せてくれる?”なんてねぇ……)
唐突にそんな話をするのは憚られる。もっと彼女のことを知ってから、こちらのことも知ってもらってからだろう。
ただ自分の何を知らせればいいのか。とある聖女の生まれ変わりを探しに違う世からやってきた、などと口にしようものなら、ただの怪しい大人である。
どう切り出せばいいのやら、と考えていたら、少女から話しかけてきた。
「お前、名前は?」
気付けば名乗りを忘れていたが、それはともかくどうしてそんな口調なのか。親の躾が行き届いていないのか。
「おい、聞いてるのか?」
「…………」
王宮で、淑女らしくたおやかにと仕込まれたアリアンロッドとしては、もやもやして説教したくなる。しかしまだ出会って数刻も経っていない、赤の他人だ。
「うん、私はアリー。あなたは?」
「俺はフトゥル。みんなにはルゥって呼ばれてる」
「ルゥね。ねぇ、ルゥはなんでそんな喋り方なの?」
赤の他人だが率直に言ってしまった。
「なんで?」
「だってそれは、男の人の喋り方でしょう?」
「は? 女がこう喋っちゃいけないって誰が決めたんだよ?」
「…………」
せっかく顔は可愛いのに……と、アリアンロッドはなんだか悔しい。
「お前は歳、いくつだ?」
尋ねてくるということは、それなりに興味を持ってくれているらしい。そう感じたアリアンロッドは、そこに乗っかろうと決めた。
「たぶん19歳よ。あなたは?」
「へえ、お前はちゃんと自分の年齢を分かってるんだな。俺は8歳だよ。たぶんじゃないぜ。母さまが毎年ちゃんと祝ってくれるからな。きょうだい全員の誕生日を」
その口ぶりで、みんながみんな、自分の生まれた年月日を把握していない文化の地域だと知った。アリアンロッドの国でも実際、平民の年齢は適当なものだ。
「そう、いいわね。きょうだいいっぱいいるの?」
「上に5人いる。俺がいちばん下なんだ」
「へぇ、賑やかで楽しそう!」
「まぁ賑やかだよ、いちばん上の兄さまはもう2人子どもいるし、みんなで遊ぶんだ」
「え~~いいなぁ! みんな仲良しなんだろうね。きょうだい羨ましい」
アリアンロッドは小さい頃からきょうだいというものに憧れがある。
「でも俺さ、兄さまにはいつも、ズルいって思ってる」
少女の顔が強ばった。それを目にしてアリアンロッドは、きょうだいとの関係で何か深刻な悩みがあるのかな、と心配になる。
「ズルい? どうして?」
彼女は真剣な様子で話しだした。
「俺と兄さまは17歳違う。ってことは、兄さまは俺より17年長く、母さまと一緒にいられるんだ」
その文句に、目を丸くするアリアンロッド。
「でも兄君は、もう自分の妻や子がいるのでしょ?」
「だから?」
「母君と一緒にいないじゃない?」
「すぐそばに住んでるよ! 兄さまはもう25歳で、でも母さまは生きてるんだ! けど、俺が10の時……きっと母さまはいない……」
少女が泣きそうになっている。ヨモギを採る手も止まってる。アリアンロッドはどうしよう何か言わなきゃと慌てた。
「えーっと、そうよね、寂しいわよねそれねっ」
慰めながら頭の片隅で、気の利いた言葉はないものかと探してみたら。
「あ、そう! そうだ」
「?」
「あなたは寂しくなってしまうのだけどね、母君にとっては、あなたがいちばんなのよ?」
「いちばん? なにが?」
「子は親にとって自分の命を繋ぐ希望だから。あなたがきょうだいの誰よりも長く生きている可能性があるでしょ、だっていちばん若いんだもん」
ルゥはちょっと意味わからない、といった顔。
「これからあなたは兄君より17年長く生きていられるんだよ」
「……兄さまと俺の死ぬ歳が同じだとしたらな?」
「うん、それは17年長くこの世に留まれるってことなの。自分の生んだ命が長くこの世にいてくれるって最高の幸せ。だから、あなたがきょうだいの誰よりもいちばんの希望だよ、母君にとって」
今度は少女が目を丸くした。
「そうなのか?」
「うん。自分がいなくなった後も、我が子に、この世の素晴らしい景色をずっと見ていて欲しいって思う。だから長く一緒にはいられない、生き物ってそういうふうになってるの。でも寂しくないよ、自分自身、親に託された、同じ“命”だもん」
「…………」
相手は今自己紹介し合ったばかりの人間だが、そのまるきり嘘のなさそうな声を受け入れ、少女は頷いて言った。
「そう思うことにする」
アリアンロッドの目に頬を染めた彼女が映った。初日の収穫としては、このふしぎな幼子は母親のことが大好きだ、と分かったぐらいだが、もはやとても愛おしい子どもに見えてきた。
(言葉遣いはまだ気になるけれどね!)
我が子を持ったらこういった気持ちになるのか、それともこれよりずっと溢れ返る幸せに包まれるのか、と、アリアンロッドはヨモギを採りながらふんわり考えていた。
「ああ、さっき気絶してた奴だな? もう起きていいのか?」
声もいかにも幼子風に甲高く、可愛らしい子だ。民族衣装に身を包み、キノコのたくさん入ったカゴを手にしている。
「別に礼とかいいぞ。運んだのは爺さんだしな」
それだけを言って、向こうへ歩いていこうとした。
「あ、ちょっと待って!」
アリアンロッドはその子の見た目調査を慌てて止めた。
「何だ? 俺に何か用か?」
「んん?」
なんだか違和感だ。
(女の子……よね??)
まじまじとその見た目調査に入った。確かに子どもの見目や声の性差はそれほど大きくないが、やはりこの子は女の子だと思う。髪の毛は短いがそれでもちゃんと女子に見える。
「どこに行くの?」
「そっちの原っぱでヨモギ採る」
「なら私も手伝う。一緒に行っていい?」
「いいけど」
◇
すぐに林を抜け草原に出た。日当たりの良い場所で、ヨモギが集団を作って生い茂っている。少女は重ねてあったカゴを外し、ヨモギを採って入れ始めた。アリアンロッドも手伝いながら会話を始める。
「それはおじいさんに? 家族なんだよね?」
「いや、爺さんは友達だ。爺さんにも持ってくけど、これは母さまに食べさせるんだ」
「友達……」
少女と老人が友達というのは一見妙だが、案外親和性があるものだと感じた。
「晴れの日はちょくちょく爺さん無事か確認しにきて、ここらで食べ物を採って帰る」
「じゃあ、あなたは村で暮らしてるのね?」
「ん~~」
少女は若干言葉を濁したふうだが、アリアンロッドは気に留めず、次の問いを繰り出した。
「母君はキノコとヨモギが好きなの?」
「…………」
少女の顔が曇った。
アリアンロッドは少女の悲し気な顔の理由を聞いた。
「母さまはもう、何もかも食べられるわけじゃないから」
「病気なの?」
「そういう歳かな。……母さまはもうあと半年くらいか、きっと1年も生きられない」
「えええ?」
アリアンロッドは唖然とする。こんな小さな子が、親の余命いくばくを予想しているなんて。
「でも、そこのおじいさんだって、髪の毛全部白くなってもあんなに元気だし、あなたのお母様っていうくらいなら……」
「だってそう感じるんだ。爺さんは特別元気なんだよ」
そこでアリアンロッドはハッとした。今、自身が神隠しで飛ばされて、この年端もいかない少女と出会ったのだ。もしかしたらこの子は何らかの力、もしかしたら予言の力を持っているのかもしれない。もし力を持つ聖女なら、胸に聖痕があるかどうか確かめればいいのだが。
(でも急に、“胸を見せてくれる?”なんてねぇ……)
唐突にそんな話をするのは憚られる。もっと彼女のことを知ってから、こちらのことも知ってもらってからだろう。
ただ自分の何を知らせればいいのか。とある聖女の生まれ変わりを探しに違う世からやってきた、などと口にしようものなら、ただの怪しい大人である。
どう切り出せばいいのやら、と考えていたら、少女から話しかけてきた。
「お前、名前は?」
気付けば名乗りを忘れていたが、それはともかくどうしてそんな口調なのか。親の躾が行き届いていないのか。
「おい、聞いてるのか?」
「…………」
王宮で、淑女らしくたおやかにと仕込まれたアリアンロッドとしては、もやもやして説教したくなる。しかしまだ出会って数刻も経っていない、赤の他人だ。
「うん、私はアリー。あなたは?」
「俺はフトゥル。みんなにはルゥって呼ばれてる」
「ルゥね。ねぇ、ルゥはなんでそんな喋り方なの?」
赤の他人だが率直に言ってしまった。
「なんで?」
「だってそれは、男の人の喋り方でしょう?」
「は? 女がこう喋っちゃいけないって誰が決めたんだよ?」
「…………」
せっかく顔は可愛いのに……と、アリアンロッドはなんだか悔しい。
「お前は歳、いくつだ?」
尋ねてくるということは、それなりに興味を持ってくれているらしい。そう感じたアリアンロッドは、そこに乗っかろうと決めた。
「たぶん19歳よ。あなたは?」
「へえ、お前はちゃんと自分の年齢を分かってるんだな。俺は8歳だよ。たぶんじゃないぜ。母さまが毎年ちゃんと祝ってくれるからな。きょうだい全員の誕生日を」
その口ぶりで、みんながみんな、自分の生まれた年月日を把握していない文化の地域だと知った。アリアンロッドの国でも実際、平民の年齢は適当なものだ。
「そう、いいわね。きょうだいいっぱいいるの?」
「上に5人いる。俺がいちばん下なんだ」
「へぇ、賑やかで楽しそう!」
「まぁ賑やかだよ、いちばん上の兄さまはもう2人子どもいるし、みんなで遊ぶんだ」
「え~~いいなぁ! みんな仲良しなんだろうね。きょうだい羨ましい」
アリアンロッドは小さい頃からきょうだいというものに憧れがある。
「でも俺さ、兄さまにはいつも、ズルいって思ってる」
少女の顔が強ばった。それを目にしてアリアンロッドは、きょうだいとの関係で何か深刻な悩みがあるのかな、と心配になる。
「ズルい? どうして?」
彼女は真剣な様子で話しだした。
「俺と兄さまは17歳違う。ってことは、兄さまは俺より17年長く、母さまと一緒にいられるんだ」
その文句に、目を丸くするアリアンロッド。
「でも兄君は、もう自分の妻や子がいるのでしょ?」
「だから?」
「母君と一緒にいないじゃない?」
「すぐそばに住んでるよ! 兄さまはもう25歳で、でも母さまは生きてるんだ! けど、俺が10の時……きっと母さまはいない……」
少女が泣きそうになっている。ヨモギを採る手も止まってる。アリアンロッドはどうしよう何か言わなきゃと慌てた。
「えーっと、そうよね、寂しいわよねそれねっ」
慰めながら頭の片隅で、気の利いた言葉はないものかと探してみたら。
「あ、そう! そうだ」
「?」
「あなたは寂しくなってしまうのだけどね、母君にとっては、あなたがいちばんなのよ?」
「いちばん? なにが?」
「子は親にとって自分の命を繋ぐ希望だから。あなたがきょうだいの誰よりも長く生きている可能性があるでしょ、だっていちばん若いんだもん」
ルゥはちょっと意味わからない、といった顔。
「これからあなたは兄君より17年長く生きていられるんだよ」
「……兄さまと俺の死ぬ歳が同じだとしたらな?」
「うん、それは17年長くこの世に留まれるってことなの。自分の生んだ命が長くこの世にいてくれるって最高の幸せ。だから、あなたがきょうだいの誰よりもいちばんの希望だよ、母君にとって」
今度は少女が目を丸くした。
「そうなのか?」
「うん。自分がいなくなった後も、我が子に、この世の素晴らしい景色をずっと見ていて欲しいって思う。だから長く一緒にはいられない、生き物ってそういうふうになってるの。でも寂しくないよ、自分自身、親に託された、同じ“命”だもん」
「…………」
相手は今自己紹介し合ったばかりの人間だが、そのまるきり嘘のなさそうな声を受け入れ、少女は頷いて言った。
「そう思うことにする」
アリアンロッドの目に頬を染めた彼女が映った。初日の収穫としては、このふしぎな幼子は母親のことが大好きだ、と分かったぐらいだが、もはやとても愛おしい子どもに見えてきた。
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