127 / 148
【 第十二章 】 それぞれの価値
① 救うべき命、見捨てるべき命?
しおりを挟む
決戦の時は刻々と迫る。
アリアンロッドはこのところ、あの幸福な夢を思い出しては、心地よい浮遊感に身を委ねていた。今からでも、いつであっても、きっと彼は国よりも何よりも私を選んでくれるの、と胸を焦がし、そしてすぐにそんな浅はかな自分を責める。隣国との決戦を止められない罪滅ぼしとして、潔くそこで果てるのは覚悟の上でいたかった。
そんな切羽詰まった日々の最中に、敵国方面から王宮へ一報が届く。それは隣国に放った密偵の使用する、連絡経路を通ってきた暗号文であった。
「イナンナからの連絡!? 本当に!?」
アリアンロッドも議会に招かれ、進行役から詳細を説明されるところだ。
「敵軍は手始めに、こちらの、ある地区の乗っ取りを画策中だそうです。相対し戦いを始めるでなく、これは奇襲。東部の街を崩してそこを拠点とし、全土にじわりじわり…、ということでしょう」
アリアンロッドは歓喜した。敵国の計画の話など今は耳に入ってこない。イナンナが生きていた。それだけで、神への感謝の心でいっぱいだ。
喜びの中、隣に座する、ディオニソスの手にあるその密書を取ろうとする。したら彼は、さっと手を引っ込めた。
「罠かもしれないよ」
「……!」
真顔になるアリアンロッド。ディオニソスはそんな彼女を切なげな眼差しで見る。
彼女は「そんなことない」と言いたいだろう。しかしその言葉には責任が重くのしかかる。
大聖女は多くの民の命を預かっている。「信じたいから」などと安易に言えるはずもない。
「……密書の中に一枚、手紙が添えられていた。君宛ての」
「!」
それも、初めに受け取るディオニソスに葬られる可能性の高いものであった。それでもイナンナは彼に委ねた。
「これも罠かもしれない。しかし、君に届けよう」
「ディオ様……」
アリアンロッドは少し震える手でそれを受け取った。そこには清廉な筆跡でこう書かれていた。
“むしのいい話だと分かっておりますが、どうか信じてください
あなたに助けていただいた命は
いつ消えても惜しくない、つまらないものですが
残りの生でもう一度、ただの一度きりでも、己を誇らしく思える瞬間が欲しいのです”
アリアンロッドは、確かに彼女は生きていて、生への執着が垣間見えることが嬉しくて、温かな気持ちで目を潤ませた。
「信じるわ。敵国のそれはどういう計画なの?」
「どうやらこれでいよいよ、本格的な開戦となりそうだな」
議員らは説明する。それは現時点から4日後の朝に、東の一領土の全民を捕虜として捕らえると計画されているようだ。なのでこちらは領民を避難させた上で応戦したい。王宮から送る隊は明朝に発たせても4日かかる。しかし伝書で連絡するだけなら2日。隊は間に合わないのでまず民を逃がすことに専念したい。たとえ街が焼かれようとも人々さえ生存させれば、と考えている。しかし1日の猶予で街の馬車などを使って他へ逃がせるのは全民のおよそ七割。それをどういった者にするのか、という話だ。
「三割の者を見捨てる、ということ?」
「そうです」
アリアンロッドは、その三割の捕らえられた民の受ける仕打ちを思い、動揺した。
「それをあなた様に委ねます」
「え?」
「国の民の命運は、大聖女様、あなたのものですから」
目線をまっすぐに向けて言い渡してくる宰相が、アリアンロッドには手厳しく思えた。しかしそのための大聖女だ。これに関して議員にできるのは、あくまで助言。
今夜、月の上る頃、大聖女の決定により関係者は夜明けに向けて準備を始める。大聖女の決意までの制限時間はわずか数刻──。
「…………」
アリアンロッドの顔は強張った。
議員の男らは大聖女の、取りも直さず神の、“間違いのない”答えを求めている。
ディオニソスはそこで、男王として議員らを牽制した。
「あとは定刻まで、私と大聖女、ふたりで話し合う。皆はできる限りの支度を、ただ今から進めよ」
「「「はっ」」」
ディオニソスはそっとアリアンロッドの肩を寄せ、彼女を隠すようにしてその場を退室した。
「ふぅ。神の力の前で男の王など、無力なものだな」
「ディオ様、あなたの意見は?」
「それはもちろん、まず若者を優先して逃がすべきだ。神に正解を乞うまでもない」
それはアリアンロッドにも分かる。生産性が違う。
よって捕えられた後の人質としての価値も違う。しかし命を選別するにそれでは、単純過ぎるとも思える。
「間違いではないと分かるわ。若ければ若いほど……でもそんな簡単に決めていいのかしら」
ディオニソスは彼女の次の言葉を静かに待つ。
「生産性で言ったら、健康体で体力のある40歳の大人と病床の10歳の子の差は? 病床の子はその子で、将来性というのもある、今は病床でもいつかは働けるかも。かといって今は働けなくても、長く人々のために働き貢献した老人が、今働き盛りの若者と、命の価値が違うとは思えない」
彼女はここで“命の価値”を口にしてしまった。納得のいくまで考え抜かなくては、後々まで引きずることになる。
「そのための時間だ。より細かく指令を出さなくてはならない。現地で役人らが混乱しないように」
「あの、ヴァルの意見も聞きたいのだけど」
「今日は周辺の地盤調査に出ているのではなかったかな。誰か居所を知っているだろうか」
ディオニソスが下の者らに尋ねるのも待ちきれず、アリアンロッドは大聖女の衣装を脱ぎ捨て、活動しやすい衣服で王宮の人間に聞いて回った。もはや大聖女が誰と話していてもお構いなしだ。このたびの大聖女はそういう存在だと周知されている。
アンヴァルの居場所の情報を掴んだ彼女は、王宮を出て少し行ったところの丘に向かった。アンヴァルは結局見つからず、そしてまたどこかへ、冷たい強風に吹き飛ばされていったのだった。
「ここは……洞窟かしら」
アリアンロッドはうっそうと茂る木々に包まれた岩崖の、洞窟の入り口にいた。日の光に照らされ、深そうな窟だと知る。その時、奥から物音が聞こえてきた。
「誰だ、そこにいるのは?」
奥から用具を持って人が出てきた。それはアリアンロッドより少し背の低い少年だ。彼は自分の仲間かと思って出てきたようだが、そこにいたのが妙齢の女性であることに驚く。アリアンロッドも早速自己紹介してもいいものかためらい、とりあえず友好的な態度で接してみることに。
「初めまして。私、初めてこの地域にやって来たのだけど。あなたはここで何をしているの?」
上品なレディに声を掛けられ、彼はなかなか気分が上がった様子。
「秘密基地を作っているんだ」
アリアンロッドは首を傾げる。
少年の言うには、先人がある程度掘っていた穴を町の子どもたちで見つけ、皆で更に掘ろうという話になった。それを彼の祖父が知って、子らは咎められるのだろうと思っていたが、彼はそれどころか積極的に協力してくれた。道具も祖父からの物のようだ。
「ここ2年くらいで意外と広くなったんだ!」
少年はとても明るく、この洞穴についてべらべらと話す。祖父にこの秘密基地を認めてもらえたことがよほど嬉しかったらしい。農作業の片手間にやる遊びなので、少しずつ大きくなるのを感じる程度だが。
「いつかここに住めるようにしたくてさ」
「面白そうね」
利便性は置いといて、とアリアンロッドは思った。
「ここは町の近くなの?」
「近くと言えば近くだけど。ここは森の入り口だよ。昔はきっとこの辺にも家があったんだ。そばに貝塚があるし」
アリアンロッドはそう聞くと、過ぎ去った時代への浪漫を感じた。
ふたりは話をしている間にどんどん打ち解けていき、少年は泊まるところもないというこのレディを自宅に連れて帰ることにした。
アリアンロッドはこのところ、あの幸福な夢を思い出しては、心地よい浮遊感に身を委ねていた。今からでも、いつであっても、きっと彼は国よりも何よりも私を選んでくれるの、と胸を焦がし、そしてすぐにそんな浅はかな自分を責める。隣国との決戦を止められない罪滅ぼしとして、潔くそこで果てるのは覚悟の上でいたかった。
そんな切羽詰まった日々の最中に、敵国方面から王宮へ一報が届く。それは隣国に放った密偵の使用する、連絡経路を通ってきた暗号文であった。
「イナンナからの連絡!? 本当に!?」
アリアンロッドも議会に招かれ、進行役から詳細を説明されるところだ。
「敵軍は手始めに、こちらの、ある地区の乗っ取りを画策中だそうです。相対し戦いを始めるでなく、これは奇襲。東部の街を崩してそこを拠点とし、全土にじわりじわり…、ということでしょう」
アリアンロッドは歓喜した。敵国の計画の話など今は耳に入ってこない。イナンナが生きていた。それだけで、神への感謝の心でいっぱいだ。
喜びの中、隣に座する、ディオニソスの手にあるその密書を取ろうとする。したら彼は、さっと手を引っ込めた。
「罠かもしれないよ」
「……!」
真顔になるアリアンロッド。ディオニソスはそんな彼女を切なげな眼差しで見る。
彼女は「そんなことない」と言いたいだろう。しかしその言葉には責任が重くのしかかる。
大聖女は多くの民の命を預かっている。「信じたいから」などと安易に言えるはずもない。
「……密書の中に一枚、手紙が添えられていた。君宛ての」
「!」
それも、初めに受け取るディオニソスに葬られる可能性の高いものであった。それでもイナンナは彼に委ねた。
「これも罠かもしれない。しかし、君に届けよう」
「ディオ様……」
アリアンロッドは少し震える手でそれを受け取った。そこには清廉な筆跡でこう書かれていた。
“むしのいい話だと分かっておりますが、どうか信じてください
あなたに助けていただいた命は
いつ消えても惜しくない、つまらないものですが
残りの生でもう一度、ただの一度きりでも、己を誇らしく思える瞬間が欲しいのです”
アリアンロッドは、確かに彼女は生きていて、生への執着が垣間見えることが嬉しくて、温かな気持ちで目を潤ませた。
「信じるわ。敵国のそれはどういう計画なの?」
「どうやらこれでいよいよ、本格的な開戦となりそうだな」
議員らは説明する。それは現時点から4日後の朝に、東の一領土の全民を捕虜として捕らえると計画されているようだ。なのでこちらは領民を避難させた上で応戦したい。王宮から送る隊は明朝に発たせても4日かかる。しかし伝書で連絡するだけなら2日。隊は間に合わないのでまず民を逃がすことに専念したい。たとえ街が焼かれようとも人々さえ生存させれば、と考えている。しかし1日の猶予で街の馬車などを使って他へ逃がせるのは全民のおよそ七割。それをどういった者にするのか、という話だ。
「三割の者を見捨てる、ということ?」
「そうです」
アリアンロッドは、その三割の捕らえられた民の受ける仕打ちを思い、動揺した。
「それをあなた様に委ねます」
「え?」
「国の民の命運は、大聖女様、あなたのものですから」
目線をまっすぐに向けて言い渡してくる宰相が、アリアンロッドには手厳しく思えた。しかしそのための大聖女だ。これに関して議員にできるのは、あくまで助言。
今夜、月の上る頃、大聖女の決定により関係者は夜明けに向けて準備を始める。大聖女の決意までの制限時間はわずか数刻──。
「…………」
アリアンロッドの顔は強張った。
議員の男らは大聖女の、取りも直さず神の、“間違いのない”答えを求めている。
ディオニソスはそこで、男王として議員らを牽制した。
「あとは定刻まで、私と大聖女、ふたりで話し合う。皆はできる限りの支度を、ただ今から進めよ」
「「「はっ」」」
ディオニソスはそっとアリアンロッドの肩を寄せ、彼女を隠すようにしてその場を退室した。
「ふぅ。神の力の前で男の王など、無力なものだな」
「ディオ様、あなたの意見は?」
「それはもちろん、まず若者を優先して逃がすべきだ。神に正解を乞うまでもない」
それはアリアンロッドにも分かる。生産性が違う。
よって捕えられた後の人質としての価値も違う。しかし命を選別するにそれでは、単純過ぎるとも思える。
「間違いではないと分かるわ。若ければ若いほど……でもそんな簡単に決めていいのかしら」
ディオニソスは彼女の次の言葉を静かに待つ。
「生産性で言ったら、健康体で体力のある40歳の大人と病床の10歳の子の差は? 病床の子はその子で、将来性というのもある、今は病床でもいつかは働けるかも。かといって今は働けなくても、長く人々のために働き貢献した老人が、今働き盛りの若者と、命の価値が違うとは思えない」
彼女はここで“命の価値”を口にしてしまった。納得のいくまで考え抜かなくては、後々まで引きずることになる。
「そのための時間だ。より細かく指令を出さなくてはならない。現地で役人らが混乱しないように」
「あの、ヴァルの意見も聞きたいのだけど」
「今日は周辺の地盤調査に出ているのではなかったかな。誰か居所を知っているだろうか」
ディオニソスが下の者らに尋ねるのも待ちきれず、アリアンロッドは大聖女の衣装を脱ぎ捨て、活動しやすい衣服で王宮の人間に聞いて回った。もはや大聖女が誰と話していてもお構いなしだ。このたびの大聖女はそういう存在だと周知されている。
アンヴァルの居場所の情報を掴んだ彼女は、王宮を出て少し行ったところの丘に向かった。アンヴァルは結局見つからず、そしてまたどこかへ、冷たい強風に吹き飛ばされていったのだった。
「ここは……洞窟かしら」
アリアンロッドはうっそうと茂る木々に包まれた岩崖の、洞窟の入り口にいた。日の光に照らされ、深そうな窟だと知る。その時、奥から物音が聞こえてきた。
「誰だ、そこにいるのは?」
奥から用具を持って人が出てきた。それはアリアンロッドより少し背の低い少年だ。彼は自分の仲間かと思って出てきたようだが、そこにいたのが妙齢の女性であることに驚く。アリアンロッドも早速自己紹介してもいいものかためらい、とりあえず友好的な態度で接してみることに。
「初めまして。私、初めてこの地域にやって来たのだけど。あなたはここで何をしているの?」
上品なレディに声を掛けられ、彼はなかなか気分が上がった様子。
「秘密基地を作っているんだ」
アリアンロッドは首を傾げる。
少年の言うには、先人がある程度掘っていた穴を町の子どもたちで見つけ、皆で更に掘ろうという話になった。それを彼の祖父が知って、子らは咎められるのだろうと思っていたが、彼はそれどころか積極的に協力してくれた。道具も祖父からの物のようだ。
「ここ2年くらいで意外と広くなったんだ!」
少年はとても明るく、この洞穴についてべらべらと話す。祖父にこの秘密基地を認めてもらえたことがよほど嬉しかったらしい。農作業の片手間にやる遊びなので、少しずつ大きくなるのを感じる程度だが。
「いつかここに住めるようにしたくてさ」
「面白そうね」
利便性は置いといて、とアリアンロッドは思った。
「ここは町の近くなの?」
「近くと言えば近くだけど。ここは森の入り口だよ。昔はきっとこの辺にも家があったんだ。そばに貝塚があるし」
アリアンロッドはそう聞くと、過ぎ去った時代への浪漫を感じた。
ふたりは話をしている間にどんどん打ち解けていき、少年は泊まるところもないというこのレディを自宅に連れて帰ることにした。
0
あなたにおすすめの小説
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました
藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】
※ヒーロー目線で進んでいきます。
王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。
ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。
不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。
才能を開花させ成長していくカティア。
そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。
立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。
「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」
「これからも、私の隣には君がいる」
甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる