4 / 11
古びた尖塔
しおりを挟む
サウスフェリア学園の歴史は古い。
教師陣曰く、『ぶっちゃけ、いつからあるか詳しいことはわからない』程度には古い。
はっきりと、歴史の中に名を残しているのは戦さを納めた聖女の出身校であったなどと記されていた、500年ほど前。
だからなのか、代々拡張していった学園の広さは驚くほど広い。大学から小学校までの校舎はもちろん。各寮、生徒らが使う店、果てには森やら海やら湖まである。
その中でも古く開校当初からあるとされるのが西の森。鬱蒼と茂った木々が暗い影を落とし、一年中薄暗いそこに立ち寄るものは少ない。
その奥にぽつりと立っているのが第一蔵書保管庫と呼ばれる尖塔だった。
「なあ、本当に今から入るのか?」
「入るしかないんじゃない?」
こてりと首をかしげる華奢な少年の平然とした様子に顔が引きつりそうになる。
森の中でもひらけた土地にあるその古びた尖塔が赤金色の夕日に照らされえもいえぬ雰囲気を醸し出していた。
近くにポツリと佇む低木の上で真っ黒な鴉が一羽、かぁかぁと退屈そうに鳴いている。
「出そうだぞ?」
サイラスが呆れたようにもう一度聞いても、ベンは古びた扉から目を離そうとしない。
「出るから行くんでしょ?じゃ、行こうぜ」
彼はスタスタと扉を開け、中へと入って行く。
相変わらず、肝が座りすぎてもはや肝が無くなっている気がしないでもない様子にサイラスは本日5度目のため息をついた。
ーーーーーーーーーーーーーー
書庫の中は当然薄暗い。電気設備の整っていない時代に建てられた建築物だ。突貫工事で仕上げたとしか思えない電線丸出しの電球がチカチカと黄色い光で書庫の中を照らしていた。
「普通だな」
「普通だね」
薄暗い以外は拍子抜けするほど普通の書庫だ。
内装はサイラスたちが通う校舎の図書館とほぼ同じ。
違うところといえば、書物が古くさそうに見えることぐらいか。
「でも見ろよ、これとか『猿でもわかる魔法の使い方』だってさ。死語になったラティア語で書かれてる。」
ベンが無造作に本棚から取り出したその本は古びてはいるが美しい装丁が施されていた。深緑に染められた皮表紙が電光をつるりと反射する。
「見た目詐欺だな..... 」
題名が題名だけに、誰が学園に入れたのか少しきになる。分厚い羊皮紙をペラペラとめくれば、大ぶりに書かれた文字と、色とりどりの魔方陣が淡々と描かれている。
「ふぅん、
『第一 魔力を感じましょう。魔力を感じるにはどうするって?ぶっちゃけ気合いしかありません、瞑想もどきをひたすらして体に流れるナニカを感じましょう。7日以上でも感じない人は残念、あなたは落ちこぼれです。というか魔法を使うのを諦めてくださいね。』
だってさ。現代人全員落ち溢れ決定だな。」
覗き込んできたベンが読んだ文は大味な説明に加えて、煽るような表現が多く使われている。 地味に心に刺さる書き方にサイラスは眉間に皺を寄せて本をじっとり見つめる。
というかそもそも。
「誰だよ、こんな本を図書館に入れようとしたのは 」
「というより、昔の生徒さん。苦労したんだろうなぁ」
「ん?」
憐れみが入ったベンの視線の先に目をやれば、その本の裏の隅に『初学年必修科目指定教科書』と刻印されていた。
教師陣曰く、『ぶっちゃけ、いつからあるか詳しいことはわからない』程度には古い。
はっきりと、歴史の中に名を残しているのは戦さを納めた聖女の出身校であったなどと記されていた、500年ほど前。
だからなのか、代々拡張していった学園の広さは驚くほど広い。大学から小学校までの校舎はもちろん。各寮、生徒らが使う店、果てには森やら海やら湖まである。
その中でも古く開校当初からあるとされるのが西の森。鬱蒼と茂った木々が暗い影を落とし、一年中薄暗いそこに立ち寄るものは少ない。
その奥にぽつりと立っているのが第一蔵書保管庫と呼ばれる尖塔だった。
「なあ、本当に今から入るのか?」
「入るしかないんじゃない?」
こてりと首をかしげる華奢な少年の平然とした様子に顔が引きつりそうになる。
森の中でもひらけた土地にあるその古びた尖塔が赤金色の夕日に照らされえもいえぬ雰囲気を醸し出していた。
近くにポツリと佇む低木の上で真っ黒な鴉が一羽、かぁかぁと退屈そうに鳴いている。
「出そうだぞ?」
サイラスが呆れたようにもう一度聞いても、ベンは古びた扉から目を離そうとしない。
「出るから行くんでしょ?じゃ、行こうぜ」
彼はスタスタと扉を開け、中へと入って行く。
相変わらず、肝が座りすぎてもはや肝が無くなっている気がしないでもない様子にサイラスは本日5度目のため息をついた。
ーーーーーーーーーーーーーー
書庫の中は当然薄暗い。電気設備の整っていない時代に建てられた建築物だ。突貫工事で仕上げたとしか思えない電線丸出しの電球がチカチカと黄色い光で書庫の中を照らしていた。
「普通だな」
「普通だね」
薄暗い以外は拍子抜けするほど普通の書庫だ。
内装はサイラスたちが通う校舎の図書館とほぼ同じ。
違うところといえば、書物が古くさそうに見えることぐらいか。
「でも見ろよ、これとか『猿でもわかる魔法の使い方』だってさ。死語になったラティア語で書かれてる。」
ベンが無造作に本棚から取り出したその本は古びてはいるが美しい装丁が施されていた。深緑に染められた皮表紙が電光をつるりと反射する。
「見た目詐欺だな..... 」
題名が題名だけに、誰が学園に入れたのか少しきになる。分厚い羊皮紙をペラペラとめくれば、大ぶりに書かれた文字と、色とりどりの魔方陣が淡々と描かれている。
「ふぅん、
『第一 魔力を感じましょう。魔力を感じるにはどうするって?ぶっちゃけ気合いしかありません、瞑想もどきをひたすらして体に流れるナニカを感じましょう。7日以上でも感じない人は残念、あなたは落ちこぼれです。というか魔法を使うのを諦めてくださいね。』
だってさ。現代人全員落ち溢れ決定だな。」
覗き込んできたベンが読んだ文は大味な説明に加えて、煽るような表現が多く使われている。 地味に心に刺さる書き方にサイラスは眉間に皺を寄せて本をじっとり見つめる。
というかそもそも。
「誰だよ、こんな本を図書館に入れようとしたのは 」
「というより、昔の生徒さん。苦労したんだろうなぁ」
「ん?」
憐れみが入ったベンの視線の先に目をやれば、その本の裏の隅に『初学年必修科目指定教科書』と刻印されていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる