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第3章:ダンジョンリフォームと初めての突撃お宅訪問!

第11話:アベルとカイン

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「まさか、相手を消耗させてから殺そうとか思ってる? 自信無いのかな?」
「ふんっ、その2人を倒したら、回復させてやるから囀るな若造が」

 やべっ、ムカつくわこいつ。
 いかんいかん、俺が挑発されてどうする。
 余裕だ余裕。
 
「おい、おっさん! 俺達に勝ってから、そういう事は心配しろよ」
「はあ……」

 いきなり勇者っぽい方が斬りかかってきたから、それを指で摘まんで止める。
 というか、遅せえわこいつ。

 そもそも俺のことおっさんとかって言ってるけど、お前ら死んで何年経ってるんだ?
 絶対に、俺よりも年上だろう。

 ただ、どっちがどっちかよく分からなかったりする。
 元から知らないからね。
 グリとグラと違って、一回で覚えられそうだけど。

「お前はどっちだ? アベルか? カインか?」
「ちっ、少しはやるようだが、その指……貰うぜ」

 答えろよ!
 お前は、誰なんだ。
 っと、指持ってかれたか。

「ほうっ、指が落ちたってのに冷静だな」
「いや、色々とムカついてはいるよ?」

 絶対切断も、ぶっちゃけ要らないんだけど?
 この辺の耐性を付けちゃうと、あとあと困るし。

「悪いけど、アベルだけだと思わないようにな」
「クソッ!」

 突如、背中に衝撃が走る。
 慌てて距離を取ったところで、さらに勇者が追撃をかけてくる。
 さっきよりも、断然早い攻撃だ。

「だあ、鬱陶しいな!」

 勇者を蹴り飛ばして、一気に距離を空ける。
 
 深呼吸をする。
 なるほど、勇者がアベルか?
 
 普通っぽいな。

 よしっ、少し落ち着いた。
 薬寄越せ石ころ。

『はあ……油断し過ぎです』

 分かってる。
 てか、こんなに強いのに2体1とか……楽しいじゃん。
 しばらく俺が強くなるために、舞台の中央で踊ってもらおうか。

 うん? こんなふざけた世界でゲームに没頭しすぎたせいか、思考までちょっとアレになってきた気がする。
 というか、アレだろ。
 こんなん、黒歴史にしかならんやつだな。

 言動に、気を付けよう。

「なあマスター、こいつ全然駄目だ」
「ここまで来られたのは、マグレじゃないのか?」

 勇者と賢者がブラムスの方を見て、鼻で笑ってる。
 余所見とは余裕だな。

「おいっ!」
「はっ?」

 自身の出せる最高速度で、勇者の横に移動するとその顔にハイキックを叩き込む。
 おお、飛んだ飛んだ!

「アベル!」

 そのまま地を蹴って宙を舞うアベルを追いかけると、顔面を掴んで後頭部から地面に叩きつける。
 そして、顔を持ち上げて睨み付ける。

「おい、勇者みたいな奴。お前はどっちだと聞いている。答えろ」
「くっそ、指が落ちたんじゃ無かったのかよ!」

 さっきのやり取りで知ってるけど、俺の質問を無視されたままにするのも癪だし。
 こいつの口から、言わせてやりたいんだが。

 吊り下げられたアベルが斬りかかってくるが、その剣を手の甲で弾くとその勢いのまま頬を叩く。

「答えろよ雑魚が。お前如きに無駄な時間を使わせてんじゃねーぞ?」
「くっそ、俺はアベルだ」

 ふんっ、最初から素直に答えとけよ。
 まったく……まったく?
 おう? やばいやばい、俺も調子に乗り過ぎてる気がしてきた。

「よく出来ましたっと!」
「アベル!」
「くはっ!」

 すぐに後ろから魔法を放とうとしていたカインに向かって、アベルを投げつける。
 背後から不意打ちとか、主従揃って……ああ、なんか考え方が……
 この世界観に沿ったような、思考と言動になっているというか。
 全力でロールプレイに興じているような……
 これ、あれだわ。
 うん、あれだな。
 きっと、そうだろう。

 クソがっ!
 デスマ時期並みに、気が短くなってる感じもあるし。
 やってくれたわ。
 
「なんだ?」
「お前さあ? 本当に強いのか?」

 ブラムスを睨み付ける。
 こいつ、たぶん精神阻害系のスキル使ってる気がしてならない。
 いつものような、落ち着きというか余裕が無い。
 もう良い、何も考えずにまずは目の前の雑魚……アベルとカインをなんとかしないとな。
 ブラムスは無視だ。

「くそっ、思ったよりやるじゃねーか」
「もう良い、槍をくれ」

 取りあえず出て来たアスモデウスの槍を、思いっきりカインに向かって投げつける。

「は……速い……」

 槍はカインを貫通して、その先の壁に突き刺さる。
 
「クソッ、よくもカインを!」
「次! 盾だ」

 手に現れた盾で受けた剣ごと、アベルを地面に叩きつける。

「なんて馬鹿力だよっ!」
「【ホーリーアロー聖なる矢】!」

 カインの奴、壁に縫い付けられた状態でもお構いなしか。
 ああ、アンデッドだから痛覚も、神経も無いのか。
 さらにアンデッドの分際で、生意気にも聖属性魔法まで撃ってきやがった。

 ダークナイトのお陰で既に耐性は得ているんだけどな。

「効くか!」

 光る矢を蹴りで掻き消すと、アベルを降ろした足で踏み付けてから土台にして一気にカインとの距離を詰める。
 鍛え込まれたアベルの身体がなまじ弾力がある分、初動の加速が増す。

「お前は、黙っとけよ!」

 口を狙って拳を放つと、カインの歯が砕け散りその破片で舌がぐちゃぐちゃなるのが分かる。
 さらに両手を引きちぎって、手に持った杖をセーブストーンに回収する。

「カイン!」
「フハッ……ハッ……ハハ」
「何言ってるか分かんねーよ!」

 カインを縫い付けていた槍を抜くと、これもセーブストーンに預ける。
 代わりに剣を送ってもらってカインの喉を突き刺して地面に磔にすると、そのまま横に捻って首を斬り飛ばす。
 自分でも雑なのが分かる戦い方だ。

 クソッ……新しい耐性とか欲しいのに。
 邪魔臭い。
 落ち着きが無いな……いっそ、死んでブラムスの仕掛けてる謎の攻撃を解析した方が良い気がしてきたな。

「カインーーーーー!」
「お前もすぐに送ってやるよ!」

 アベルが立ち上がろうとする。
 すでに、体内のあちこちが潰れていると思うが、本当にアンデッドてのは出鱈目だな。
 人の事言えないけどな。

「死ねよ! アハッ? もう死んでるってか?」
「クッ! ガハッ!」

 そんなボロボロの身体で、まともに動ける訳無いだろう。
 どうにか立ち上がったアベルの頭を、セーブポイントから送ってもらったメイスで叩き潰すとアベルが痙攣しながら後ろに倒れ込む。

「やるじゃないか! 勇者にスキルすら使わせずに倒すとは!」
「くそがっ、邪魔ばっかしやがって!」
「なんのことだ?」

 ニヤニヤと笑いやがって。

「ふむ……全く効いてないといった様子じゃ無さそうだけど、呆れた精神力だ。ここまで精神を搔き乱された状態であの二人を倒すくらいだからな」

 やっぱりか。
 こいつ、何かしてやがった。

「何が二人を倒したらだ。3対1だったわけだ」
「今度こそ、油断したな?」

 あれっ?
 なんだこれ?
 視界がグルグルと回る。
 誰かが俺の頭を踏み付ける。
 そこにあるのは、俺の身体……?

「グフッ……」
「くそ……調子乗りやがって」
「中々に手強かったですね」

 頭が潰れて色々と酷い状況になったアベルに見下される。
 そして、首の無いカインがいつの間にか繋げた腕の掌を突きつけてくる。

「墜ちろ!【チェインソウル魂の呪縛】」

 声が首のある方から聞こえてくるので、違和感がパネーよ!
 心臓の鼓動が止まったのに、意識が覚醒する……
 ああ、なんだろう……
 ブラムス……やるじゃねーか……こいつになら仕えてやっても……

――――――

精神同調耐性を獲得しました。
思考誘導耐性を獲得しました。
アンチアンデッドを獲得しました。

――――――

「完敗やー!」
『どうやら、ブラムスの精神支配の影響は無さそうですね。いつも通りのアホなお目覚めに安心しました』
「ちょっ、酷い!」
「アウーン!」

 おお、セーブポイントに何か言われたのか、臨戦態勢ぽかったファングが尻尾をフリフリ寄って来る。
 にしても柔らかいでござる。
 頭の下に、とても高級な枕が……
 視線を上に向ける。

「私の為に怒ってくれて、嬉しいです」
「ギャーーーーー!」
「酷いです!」
「いや、酷いのはお前のか……今日も可愛いぜベイベー!」
「もうっ!」

 どうやら、上半身を腐らせた状態のヘルちゃんが膝枕をしてくれてたらしい。
 幸せな状況のはずなんだけどね。
 取りあえず、目を閉じて腐って無いヘルちゃんを思い浮かべたら。
 おおう……中々に良い感じ、あれっ、ちょっと顔になんか垂れて来た。
 まさか、腐って膿んだ部分のとかじゃ……
 ちょっとだけ片目を開けてみる。
 なんだファングの涎か。
 めっちゃ、ハッハッハッハッ言いながらファングが覗き込んでた。
 心配してくれて、ありがとう。
 いや、もうちょっとこの状況を……
  
 ていうか、あいつら絶対に許さん!
 あれっ? なんで俺が怒ったのヘルちゃん知ってるの?
 ああ、でもなんか、この絶妙な弾力と少しひんやりとした太ももの膝枕……眠れそう……
 眠くなってきたし。
 
 なんで、太もも枕のことを膝枕って言うんだろう……
 でもガチ膝枕って堅そうで、や……だ……な……

――――――
 
 よく眠れた。
 セーブポイントで回復した時よりも、元気になった気がする。
 目を開けるから、ちょっと腐ってる部分を変えて貰えるかな
 その前に、頭を下ろしてと。
 いいぞ!

「もうっ!」
「ははは、ちょっと慣れたから許して」

 ふくれっ面のヘルちゃん可愛い。
 スカートの下は想像しないようにしよう。

 体力全開! ブラムス達にもしばらく地獄のトライアルに付き合ってもらうからな? 
 ん? どうしたファング?
 
 一緒に戦いたいのか?
 違う?
 お腹空いた?
 そうか、だが先にあいつらを……

 ちょっ、分かったから顔を嘗めるな!
 先にご飯だな。
 うんうん、食事して落ち着いて対策を考えよう。

 今日も無機質な奴が作ったホカホカご飯。
 ムカつくことに味だけは良い。
 そこは、素直に褒めとこう。
 かの有名な戦国武将、伊達政宗も言ってるしな。

「嫁の飯は美味からずとも、褒めて食うべし」

 とな。
 偉大な実感の籠った言葉だ。
 石ころは嫁じゃ無いけど。

 ああ、お腹いっぱい。
 我が家が、最高だな。
 もう、出たくなくなってきたんだけど?

 とっとと、済ませてゆっくりしろ?
 分かったよ。
 その前に、アンデッドに有効な武器無い?
 カタログ見して。
 うんうん、これとか良いね。
 準備万端。

 待ってろよブラムス!
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