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第5章:会長と勇者

第11話:こじらせクラタ再び

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「まだやるのか?」
「何を! クソッ!」
「女の子がクソとか言うな!」

 たまにはとこちらから攻める。
 一気に地面を蹴って距離を詰めると、ミカエルが剣を振るおうとしたのでその手を掴んで止める。
 そして、そのまま引き寄せて腹に一撃を入れる。

「カハッ! なっ!」

 さらに、70%まで筋力解放する。
 強化された俺を見て、ミカエルの動きが完全に止まる。

「なんだ、巻き戻さないのか?」
「なっ! なんでそれを!」

 物凄く動揺してる。
 効いてる、効いてる。

「なんでそれを? むしろ、なんで気付いてないと思った?」
「えっ?」

 普通分かるよね?
 巻き戻す度に行動替えられたりしたら、普通怪しいとか思わないのかな?

「そ……そんな馬鹿な! 時間を超越した存在だとでもいうのか!」
「はあ……逆に、お前は自分しか時間を操れないとでも思っていたのか?」

 凄いね。
 どれだけ自分の能力に自信を持っていたのやら。
 というか、ここのダンジョンの名前知らないのかな?

「クソッ!」
「だから、クソとか女の娘が言うんじゃないって、何度も言わせんな!」

 軽くデコピンを当てる。
 本当に軽くだよ?
 一瞬だけ、筋力解放も1%にまで落としたし。
 それでも、以前の4倍だから慎重にデコピンした。

「痛い!」

 それでも、痛いらしい。
 あれだ……1%以下にも出来るよう訓練しないといけないみたいだ。
 豆腐トレーニング頑張らないと。

「こうなったら一旦「逃がすと思うか?」

 ローレルに指示を出そうとするミカエルの首根っこを掴む。
 逃がす訳が無い。
 そして、剣を奪うとセーブストーンに回収させる。

「だったら、ここに入る前にまで時間を戻せば!」

 戻させる訳無いだろ。
 セーブポイントに頼んで、先に時間操作を完全に無効化させとく。
 このダンジョン内において、セーブポイントを差し置いて時間操作しようとか。

「なっ! スキルが発動しないだと」
「お前、さっきからどこで戦ってると思うんだ?」

 顔を手前に引き寄せて、ニヤリと笑う。
 あー、チューしたい。
 あっ、俺口臭くないよな?
 歯磨きはしてるけど、途中で毒とか飲んでるし。
 でも、セーブでやり直してるから大丈夫だと思いたい。
 
「ここは、時止まりのダンジョンだぞ?」
「……」

 黙っちゃった。
 やっぱり、俺の口臭かったのかな?
 
『大丈夫だと思いますよ』

 こういう時は、素直にフォローしてくれるセーブポイントが可愛く思えるけど、実は臭いの知ってて敢えてとかだったらこいつを一生信用しなくなる自信はある。
 
「俺が使わせてやってただけだ……」

 完全に黙りこくったミカエルちゃんを、さらに高く持ち上げる。

「いつでも無効化出来るんだよ」

 そして、優しく投げ飛ばす。
 ふわりと地面に落ちるように上手にコントロールした。
 意外と器用な俺にビックリ。

「馬鹿にしてたのか……」

 あれっ?
 なんか、様子が……

「巻き戻ってたの知ってて、知らないふりして馬鹿にしてたんだな」

 怒ってる?

「酷い! こっちは初めてだと思って何度も同じやり取り繰り返したりしてたのに……」

 おーい、ミカエルちゃん。

「こんな屈辱初めてよ! ウワーン」

 あっ、泣き出した。
 どうしよう。

「うわあ……なんか良く分からないけど、ミカエル様号泣してるんだけど?」

 ローレルが何か言ってる。
 そりゃ、お前らは巻き戻しの記憶ないから良く分からないだろうね。

「クラタさんって、酷いんですね……何があったか知りませんが」

 カオルちゃんの方が酷いよ。
 何があったか知らないのに、なんで一方的に俺が悪者?
 ちょっと待って、俺のターン終了?
 こっから、面白くなるところじゃ無いの?
 というか、なまじカオルちゃんと仲良くなったせいで、やり辛い。

「ここに来るまで、何回死にかけたと思ってるのよ! 何回も何回もやり直して他のダンジョンだって制覇したのに」
「えっと……どのくらい?」
「もう、300回以上はやり直してここまで強くなったのに」

 あっ、別に大した事無かったわ。
 1回壁にぶち当たるごとに、数十回から数百回やり直してる俺からしたらまだまだ。
 しかも、こっちは死ぬまでやってからのやり直しだからね。
 死にそうになったり、ちょっとダメージ入ったくらいでやり直すような温いものでも無いし。

「たったの300回程度で敵わなかったからって、そんなに泣かなくても」
「必死でやり直したのに、たったのって言ったー! どうせ私の努力なんて無駄としか思って無いんだー」

 うん、本当ならそう言いかったんだけど。

「何度やり直したかしらないが……無駄な努力だな?」

 とか言って心砕く演出とか、やりたかったのに。
 それやる前に、砕け散ったし。
 メンタルが微妙なラインで弱いこの娘。

「大体、今の勇者じゃ話にならないから、急に勇者やれとかって言われてこっちに……あっ」

 何か言いかけて口を閉じるミカエルちゃん。
 こっちに何かな?
 
「こっちに?」
「いや、なんでも無いです」

 なんだろう?
 なんか怪しい。

「今の勇者じゃ話にならない?……」

 あっ、ローレルが地味にショック受けてる。

「あー、そういう意味じゃなくて」

 ミカエルちゃんがフォローに入ってるけど、ローレルの表情が暗い。
 まあ、そもそも勇者だったのに勇者の補佐に降格されて、まだここに来られるこいつが凄いと思えなくも無いけど。
 よくよく考えたら、この美人二人と冒険出来るならそりゃ少々のプライドは捨てられるかな?

 いや、それよりも今はミカエルちゃんの発言の本意が……

「ローレルが駄目だって最初に言い出したの、カオルちゃんだし」
「ちょっ、なんでそれ言っちゃうんですか!」
「えっ?」

 あー、それどころじゃなさそう。
 だけどさ……さっきの言葉を引用するとだね……

「お前らさっきから、どこで痴話げんかしてると思ってるんだ?」
「「「あっ……ごめんなさい」」」

 謝罪が軽い!
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