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魔王編
魔王なのに目立たなくて辛い
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「魔王様! 勇者達です!」
はい、そうです。
最早、勇者達になってます。
そんな勇者達も今では魔王城の大切な収入源になっています。
「ふむ……して構成は?」
「男勇者38人、男のみパーティ3組、混合パーティ10組、ハーレムパーティ12組、単独13名です! 総勢113名です。」
「多くね?」
もはや流行りのクラブと化しつつある魔王城です。
つかさ……女神加護ばら撒きすぎじゃね?
勇者とはなんぞや?
俺が知ってる限り、勇者は一世界一人じゃねーの?
まぁ、最近は複数勇者物もあるっちゃあるが、これは多すぎだろ……
「取りあえず男のみパーティは通せ! 混合パーティは半分に削れ! ハーレムパーティは全員通せ! 単独は好きにしろ!」
ちなみに、日々増えてます……
こないだ幹部達にボッコボコにやられてから火が付いた奴もいるらしく、段々と強くなってるとかなってないとか。
「玉座の間の状況は?」
「はい物販部隊待機済みです! 黒騎士はすでにスタンバイ完了しております! 触れ合いコーナーは魔王様のスイーツ待ちです!」
「うむ、上々だな! 慣れたものだ。すぐに参ろう!」
俺が転移で玉座の間に移動すると、チビコ母が部屋の一角に設けられた物販コーナーにてグッズを並べている。
何グッズかって?
黒騎士グッズに決まってるだろ!
俺が撮り溜めした映像記憶ミラーの画像を、魔法で紙や団扇に転写したものを並べている。
さらにテーブルの横には、黒騎士の鎧のレプリカも用意してある。
物販コーナーの反対側には柵で囲まれた芝生があり、そこにウララ他可愛い部門担当の兎や猫系の魔物を配置してある。
喫茶スペースもあり、魔王城でしか食べられないスイーツと美味しい飲み物を用意してある。
ちなみにここのスタッフはチビコとエリーだ!
「よし、行くぞエリー! 戦場が俺を待っている!」
「……はぁ」
久しぶりにエリーのジト目頂きました。
有難うございます。
転移で玉座の間に移動すると、すでに門の前で喧騒が聞こえる。
「まだ入れないのか?」
「ここに魔王が居るんだな!」
「やっと黒騎士様に会えるわ!」
「あぁ……ウララちゃん……今日は美味しい葡萄を持ってきたのよ!」
「あっ! すみません! そちらの戦士の方! 持ち込みは遠慮しておりますので、こちらでお預かりさせていただきます!」
「なんでよー! わざわざ葡萄で有名なグレープ村まで行って、貯金はたいてまで買った時間停止型のアイテムバッグに入れた朝摘み葡萄なのにー!」
「すいません! そういう規則なので!」
「まだ入れないのかよ!」
「ああ、ちょっと勝手に扉に触らないでください! あと3組!あ と3組こちらに来られる予定なので! もう暫くお待ちください!」
凄いな……こいつら何しに来たか忘れてないか?
というかここ……どこだ?
魔王城だったよな?
といいつつ、俺も料理服に着替えている。
「はぁはぁ……なんでこんなに人が居るんだ?」
「知るかよ! こっから入れないんだって!」
「ちっ、お前らどけ! 俺が行く!」
「ちょっ! 何割り込んでんのよ!」
「うわっ! 何すんだお前!」
おー……新しく着いた単独勇者が女僧侶に蹴り飛ばされてる。
軽くカオスだな……
「最後の勇者が到着しました! それでは開場致します!」
本当にここ魔王城か?
扉が開くと同時に人が雪崩れ込んでくる。
「おい魔王! きさ「キャー!ウララちゃーん!」
「あっ! 黒騎士様の新しい団扇が出てる!」
「本当! あー、これ私持ってない!」
「くっ、お前ら邪魔だ!」
「うるさいわね! 魔王も倒せない勇者が偉そうにしてんじゃないわよ!」
「あんたなんか、黒騎士様にボコボコにやられてしまえばいいのよ!」
「順番に! 順番にお並び下さい!」
「こ……これは……風呂上りの黒騎士様だ……と?」
「買うしかない……」
「沢山ご用意してますので、順番に! 順番にお並び下さい!」
チビコ母がもみくちゃにされながらグッズを販売している。
ちなみに画像は小が銅貨1枚(100円)、中が銀貨1枚(1,000円)、大が銀貨3枚(3,000円)、等身大パネルが金貨2枚(20,000円)だ。
一番売れるのは小だが、一度に10枚から100枚単位で買って行かれる。
その次が大、等身大は必ず一人1枚買っていく。
「すいませーん! 触れ合いコーナー3人お願いします」
おっと仕事だ……
エリーが受付をしている。
俺は裏でスイーツ作り……辛い
「はいはい、それではお席に案内しますね。料金は1時間銀貨5枚(5,000円)でフリードリンク、スイーツおかわり自由です! ウララ嬢は一グループ15分迄で別途銀貨1枚頂いております!」
「はい、ウララちゃんをお願いします。銀貨20枚です」
「えっと、4枚程頂きすぎですが……」
「これで、ウララちゃんに何か良いものを買ってあげてください」
「そういう事でしたら有難うございます。ウララ、こちらのお嬢様方にお礼を言って差し上げて」
「キューン!」
「可愛い! 今月のお小遣い無くなっちゃったけど悔いは無いわ!」
「マジ天使!」
「魔王城最高ー」
……魔王討伐隊……これで良いのか?
「あっ、魔王さまボサっとしてないでケーキバイキングの方をお願いします!」
「うむ、分かった……」
なんだろう……俺がもはや魔王ですらない件……
「きゃ―! 何このケーキ! こんなの見た事ない!」
「でしょう? てかあんたケーキ食べた事あるの?」
「ごめん、実は私のお父さんサマルーンの子爵なの」
「貴族だったの? どおりでいっつも良いもの着てると思った」
「あー、ウララちゃん可愛いよー」
「こっちのラビも可愛いわよ!」
「魔物って最初は見ただけでもイラついたけど、慣れると凄く可愛いよね? もう私魔物殺せない!」
「すいませーん! 3人なんですけど良いですか?」
「はいはい、料金は……」
こっちも大繁盛だ。
チビコが所狭しと駆けずり回ってケーキを並べたり、ドリンクを補充している。
その姿を女性陣が微笑ましく眺めている。
物販と触れ合いコーナー合わせて、多いときは一日に利益が大金貨40枚(400万円)くらい行くこともある。
そりゃ人件費はチビコ母にしか払ってないし、材料費は魔法でただだからな!ボロ儲けや!
チビコ母の給与は歩合で5%、チビコの給与は魔王城で自由に過ごせる権利と魔王様の作るご飯だからな。
原価0%、利益率95%……真面目に商売してる人が聞いたらぶち切れるだろうな。
「くっ! いつになったら戦わせてくれるんだ!」
「つーか、魔王どこにもいねーじゃねーか!」
「敵が居ねーぞ! どうすりゃ良いんだ!」
魔王居るぞ!
ここに居るぞ!
つっても触れ合いコーナー裏の特設厨房に居るから見えないけど。
おっ! 物販が落ち着いてきたな。
そろそろか……
「それでは、魔王城主催! 黒騎士カイン対勇者sを始めます! 席を用意しますので皆さま下がってお待ちください!」
チビコ母が大声で叫ぶと中央を取り囲むように女性陣がスペースを開ける。
それから俺が大量にスイーツを作りだめした後、転移で玉座に移動する。
「静まれ!」
俺が玉座に座って一喝すると辺りが静まりかえ……らない。
「いつの間に! 魔王の癖に気配感じなかったぜ! 大したことねーな!」
「おいおい、あんなジジイが魔王かよ! 一発でも打たせたら自滅するんじゃねーのか?」
「良く考えろ? 奴はいつからそこに居た?」
「いや、だからずっと居たんじゃねーの? 気付かねーくらいちっちぇーんだって! オーラが!」
辛い……
倒置法で馬鹿にされたし……
「魔王が来たわ!」
「ついに始まるのね!」
「黒騎士様が来られるわ!」
緊張する相手が違うんじゃねーのかな?
まあ、もう慣れたけどさ……
俺が魔法で中央を取り囲むように椅子を出現させる。
「なっ、急に椅子が」
「プッ……もぐりが居るわよ! どうせ初めて来たんでしょうね!」
「椅子が出て来たという事はいよいよね!」
単独勇者の一人が驚いていたが、何度も来ている女性グループは小ばかにしている。
お前らもう魔王城に住むか?
「それではこちらにお並び下さい! 前列が銀貨4枚! 二列目が銀貨2枚になってます!」
チビコ母が今度は入場受付に早変わりだ。
「ちょっと、割り込まないでよ!」
「そんなの前列一択に決まってるじゃん!」
「わ……私は後ろで良いかな……」
「なに控えめアピールしてるのよ! 昨日まで肉食系宜しく明日はカイン様のハートをガッチリキャッチとか言ってビキニアーマー磨いてたじゃない!」
「ちょっと、それ言わないでよ!」
姦しい……女3人寄ればなんとやらだが、3人どころじゃないしな……
かなり時間が掛かったが、どうにか落ち着いて席に全員が座ってくれた。
チビコ母が肩で息をしている。
今日はいつもより多かったからな……何かボーナスを用意しておこう。
「それでは勇者様方前へ!」
勇者が10人か……単独で二人も来れたのか、
楽しめそうだな。
混合が5組……戦士が3人魔法使い2人か。
男組は戦士6人に僧侶3人か……
男組の奴ら目から血の汗が出てるな。
「ちっ! 嘗めやがって……」
「一瞬で方付けるぞ!」
「クッソ! マジ黒騎士クッソ!」
「ぜってー殺す! 殺した後にもう一回殺す!」
「俺もう魔王の部下になろうかな……」
一部除いて気合は十分だな!
楽しみだなー……たまには黒騎士やられないかな……
「飲み物はいかがですかー? ドリンク各種銅貨3枚から販売してるよー」
チビコがドリンクの売り子に早変わりだ。
「キャー可愛い! こっちにオレンジジュースくださーい!」
「私はリンゴのジュースが欲しいわ」
「いっつも思うけど、この魔王専用ドリンクってなんなのかしら? 売れないんだから止めたらいいのに」
いっつも思うとか……お前はいっつも来てるのか?
いい加減、俺を倒しに来い!
「それでは皆さん! 黒騎士を呼びましょう!」
チビコ母が声を掛けると女性陣が声を揃えて叫ぶ。
『カインさまーーーーーーー』
同時にスペースの中央に魔法陣が現れ俺に対して片膝を付いた姿勢でカインが現れる。
「魔王様……勇者討伐の下知を……」
「うむ、存分に暴れるが良い!」
俺がそれだけ言うとカインが立ち上がって振り返り剣を抜く。
「キャーカインさまー! てか魔王なに偉そうに私のカイン様に命令してるのよ!」
「あんた何言ってんの? カイン様は私のよ! まぁ、後半は同意だけど!」
「魔王死ね! 死んで私に魔王の座を譲れ!」
「あー、カイン様しか見えない……カイン様の声しか聞こえない……」
……辛い
「さて、それでは勇者諸君……楽しいダンスパーティといこうではないか? せいぜいそこで滑稽な踊りを披露するが良い!」
『きゃーーーーーーーーーー!』
『……殺す』
女性陣の心が一つになるのを感じたわ。
そして、勇者たちの意思が一つになるのを感じたわ。
ついでに俺の意思も勇者よりだ!
「おい! 僧侶達! パーティは関係ない! 協力して全員に強化魔法を掛けろ!」
「魔法使いの二人は遠距離から魔法を飛ばして気を反らせ!」
「俺たちが隙を作る! 戦士は一撃きついのを見舞わせてやれ!」
「俺らを侮った事を後悔させてやる!」
すげーな、複数の勇者が的確に共通の意識を持ったかのように指示を飛ばしてるわ。
「一瞬で倒れてくれるなよ? せいぜいオーディエンスを沸かすのに役立ってくれたまえ」
カインがそう言った瞬間、勇者sの殺意が膨れ上がるのを感じた。
そして直後、魔法使いの火炎魔法と氷結魔法が同時に放たれる。
二極属性を同時にアイコンタクトのみで示し会わせて放つとか、どんなベテランパーティだよ!
即席にくせに……
しかも両方の魔法に隠れるように勇者が二人ずつ突っ込んでるし。
「フッ……まずはそちらの4名の方にはご退場願おう」
そう言ってカインが魔法に向かって突っ込む。
右手の剣に氷を纏わせて火炎魔法を斬りつけ、左手の盾に炎熱魔法を纏わせ氷結魔法を掻き消す。
そしてそのまま勇者四人と交錯する……
多分人間には見えてないだろうけど、全員の攻撃を剣と盾で捌いてからすれ違い様に鳩尾に強化した蹴りを叩き込んでったのか……
4人の勇者がそのまま無言で倒れ込む。
「ばっ! 馬鹿な!」
「二極の魔法を一人で防ぐだと!」
「キャー! カインさまーーーー!」
「くっ、僧侶回復を!」
残った勇者が僧侶の3人に指示を飛ばす。
しかし、3人から返事は無い。
「遅いよ……その指示も……君の反応も」
指示を出した勇者の背後にカインがすでに移動している。
倒された4人の勇者に注目している間に、指弾で空気を飛ばして僧侶3人を無効化したのか……
そして指示を出した勇者の首を剣の柄頭で軽く叩く。
可哀想に白目を剥いてその場に倒れ込む。
「くっ! 勇者は下がれ! 俺達が盾になる!」
そういって4人の戦士が前に出る。
残りの5人はそれぞれの武器に力を込めている。
「こんなに脆いのに、盾になれるのかな?」
カインが剣を横薙ぎに払うと4人の戦士が観客席?に吹っ飛ぶ。
がそこは魔王様のお仕事! 観客席には結界が張ってあるからね。
そしてその結界に激しく叩きつけられて4人の戦士がもんどりうつ。
「お前らよくやった! その犠牲無駄にしないぜ!」
『ウォーリアスラッシュ』
しかし狙っていたかのようなタイミングで残りの5人の戦士が必殺技を放つ。
そして必殺話がカインに直撃する……つまらん……当たれば良かったのに。
「いやー! 黒騎士さまーーーー!」
「カインさま! 避けて―!」
「戦士なにやってんのよ!」
「決めた……あいつら殺す」
良い感じに盛り上がってるなー……
「やったか?」
「油断するな! 勇者すぐに追撃を頼む!」
流石に歴戦の戦士、気を抜かないねー……正解!
次のセリフ分かってるよ? 残像だでしょ?
「残像だ……」
カインが戦士の背後に移動している。
そして目の前には5人の勇者……
「それは知っていた! くらえ合体魔法! 【双竜の怒り】」
しかし魔法使いの二人を忘れていたな。
二つの炎がうねる様にしてカインに襲い掛かる。
たった今出会ったばかりの二人なのに息バッチリですげーな。
「遅いと言っている」
つってもカインには通用しないんだよねー。
2人の放った魔法が捉えたのはあくまでカインの残像……
二重に残像とか小癪な真似をする奴だわ……
これで魔法使いは退場か……
しかも置き土産にきっちり勇者も3人倒してるし。
「良かった……」
「ドキドキしたわ……」
「黒騎士様なら、あの程度の攻撃かわせて当然よね?」
お前ら、国に殺されるぞ?
『全てを斬り裂け! ブレイブスラッシュ!』
あー、いつもの奴ね? つーか開始同時に全員で打てば良かったのに今更だわ。
結構溜めてたみたいだけど……
「全てを飲み込め! イーブルブレイク!」
なん……だと?
こいつオリジナルで必殺技を作ったのか?
しかも……中二全開じゃねーか……
カインの放った黒い斬撃が勇者の斬撃を飲み込む……
「勇者!」
戦士5人が勇者の前に躍り出るが弾き飛ばされる。
「ばっ! 馬鹿な!」
そしてその勢いのまま二人の勇者を飲み込む。
「勝負あり!」
チビコ母が声高らかに勝利宣言をする。
ノリノリである。
『きゃーーーーー!』
「流石黒騎士様!」
「強すぎる! カッコ良すぎる! 素敵すぎる!」
「抱いて―!」
黒騎士がヘルムを脱いで、はにかみながら女性陣に手を振る……
おいっ! 兜取る意味あったか?
むしろ勝って兜の緒を締めよって言葉しらねーの?
取りあえず倒した野郎どもは希望の町へ強制送還す。
「それでは、カイン様から一言」
チビコ母がカインに向かってインタビューする。
「みんなの応援のお陰で勝てたよ! 有難う……でもいつか俺を倒して解放してくれるような勇者が現れるといいな……」
ちょっと陰のある表情をする。
そうか、そんなに辞めたいのなら解雇してやろうか?
「あぁ、お可哀想なカイン様」
「黒騎士様……きっと、きっと私が貴方様を助けに来ます」
「魔王め……さっさとカイン様を解放しろー!」
あー、ムカつくわ……
あとでカインに特訓してやろう。
「有難うございました! それでは本日の黒騎士カイン対勇者s戦はこれにて閉幕とさせていただきます。お帰りの際はお足元にご注意ください。触れ合いコーナーはこの後4時まで開いておりますので」
「私はウララちゃんと遊んで帰るわ」
「はー、今日も黒騎士様カッコ良かったわね」
「いつか、カイン様を私のものに……」
それから各々心行くまで魔王城を満喫して帰っていった。
……俺……いる?
てか……カインが魔王でよくね?
「魔王様!本日は売上の新記録更新です!」
エリー?
はい、そうです。
最早、勇者達になってます。
そんな勇者達も今では魔王城の大切な収入源になっています。
「ふむ……して構成は?」
「男勇者38人、男のみパーティ3組、混合パーティ10組、ハーレムパーティ12組、単独13名です! 総勢113名です。」
「多くね?」
もはや流行りのクラブと化しつつある魔王城です。
つかさ……女神加護ばら撒きすぎじゃね?
勇者とはなんぞや?
俺が知ってる限り、勇者は一世界一人じゃねーの?
まぁ、最近は複数勇者物もあるっちゃあるが、これは多すぎだろ……
「取りあえず男のみパーティは通せ! 混合パーティは半分に削れ! ハーレムパーティは全員通せ! 単独は好きにしろ!」
ちなみに、日々増えてます……
こないだ幹部達にボッコボコにやられてから火が付いた奴もいるらしく、段々と強くなってるとかなってないとか。
「玉座の間の状況は?」
「はい物販部隊待機済みです! 黒騎士はすでにスタンバイ完了しております! 触れ合いコーナーは魔王様のスイーツ待ちです!」
「うむ、上々だな! 慣れたものだ。すぐに参ろう!」
俺が転移で玉座の間に移動すると、チビコ母が部屋の一角に設けられた物販コーナーにてグッズを並べている。
何グッズかって?
黒騎士グッズに決まってるだろ!
俺が撮り溜めした映像記憶ミラーの画像を、魔法で紙や団扇に転写したものを並べている。
さらにテーブルの横には、黒騎士の鎧のレプリカも用意してある。
物販コーナーの反対側には柵で囲まれた芝生があり、そこにウララ他可愛い部門担当の兎や猫系の魔物を配置してある。
喫茶スペースもあり、魔王城でしか食べられないスイーツと美味しい飲み物を用意してある。
ちなみにここのスタッフはチビコとエリーだ!
「よし、行くぞエリー! 戦場が俺を待っている!」
「……はぁ」
久しぶりにエリーのジト目頂きました。
有難うございます。
転移で玉座の間に移動すると、すでに門の前で喧騒が聞こえる。
「まだ入れないのか?」
「ここに魔王が居るんだな!」
「やっと黒騎士様に会えるわ!」
「あぁ……ウララちゃん……今日は美味しい葡萄を持ってきたのよ!」
「あっ! すみません! そちらの戦士の方! 持ち込みは遠慮しておりますので、こちらでお預かりさせていただきます!」
「なんでよー! わざわざ葡萄で有名なグレープ村まで行って、貯金はたいてまで買った時間停止型のアイテムバッグに入れた朝摘み葡萄なのにー!」
「すいません! そういう規則なので!」
「まだ入れないのかよ!」
「ああ、ちょっと勝手に扉に触らないでください! あと3組!あ と3組こちらに来られる予定なので! もう暫くお待ちください!」
凄いな……こいつら何しに来たか忘れてないか?
というかここ……どこだ?
魔王城だったよな?
といいつつ、俺も料理服に着替えている。
「はぁはぁ……なんでこんなに人が居るんだ?」
「知るかよ! こっから入れないんだって!」
「ちっ、お前らどけ! 俺が行く!」
「ちょっ! 何割り込んでんのよ!」
「うわっ! 何すんだお前!」
おー……新しく着いた単独勇者が女僧侶に蹴り飛ばされてる。
軽くカオスだな……
「最後の勇者が到着しました! それでは開場致します!」
本当にここ魔王城か?
扉が開くと同時に人が雪崩れ込んでくる。
「おい魔王! きさ「キャー!ウララちゃーん!」
「あっ! 黒騎士様の新しい団扇が出てる!」
「本当! あー、これ私持ってない!」
「くっ、お前ら邪魔だ!」
「うるさいわね! 魔王も倒せない勇者が偉そうにしてんじゃないわよ!」
「あんたなんか、黒騎士様にボコボコにやられてしまえばいいのよ!」
「順番に! 順番にお並び下さい!」
「こ……これは……風呂上りの黒騎士様だ……と?」
「買うしかない……」
「沢山ご用意してますので、順番に! 順番にお並び下さい!」
チビコ母がもみくちゃにされながらグッズを販売している。
ちなみに画像は小が銅貨1枚(100円)、中が銀貨1枚(1,000円)、大が銀貨3枚(3,000円)、等身大パネルが金貨2枚(20,000円)だ。
一番売れるのは小だが、一度に10枚から100枚単位で買って行かれる。
その次が大、等身大は必ず一人1枚買っていく。
「すいませーん! 触れ合いコーナー3人お願いします」
おっと仕事だ……
エリーが受付をしている。
俺は裏でスイーツ作り……辛い
「はいはい、それではお席に案内しますね。料金は1時間銀貨5枚(5,000円)でフリードリンク、スイーツおかわり自由です! ウララ嬢は一グループ15分迄で別途銀貨1枚頂いております!」
「はい、ウララちゃんをお願いします。銀貨20枚です」
「えっと、4枚程頂きすぎですが……」
「これで、ウララちゃんに何か良いものを買ってあげてください」
「そういう事でしたら有難うございます。ウララ、こちらのお嬢様方にお礼を言って差し上げて」
「キューン!」
「可愛い! 今月のお小遣い無くなっちゃったけど悔いは無いわ!」
「マジ天使!」
「魔王城最高ー」
……魔王討伐隊……これで良いのか?
「あっ、魔王さまボサっとしてないでケーキバイキングの方をお願いします!」
「うむ、分かった……」
なんだろう……俺がもはや魔王ですらない件……
「きゃ―! 何このケーキ! こんなの見た事ない!」
「でしょう? てかあんたケーキ食べた事あるの?」
「ごめん、実は私のお父さんサマルーンの子爵なの」
「貴族だったの? どおりでいっつも良いもの着てると思った」
「あー、ウララちゃん可愛いよー」
「こっちのラビも可愛いわよ!」
「魔物って最初は見ただけでもイラついたけど、慣れると凄く可愛いよね? もう私魔物殺せない!」
「すいませーん! 3人なんですけど良いですか?」
「はいはい、料金は……」
こっちも大繁盛だ。
チビコが所狭しと駆けずり回ってケーキを並べたり、ドリンクを補充している。
その姿を女性陣が微笑ましく眺めている。
物販と触れ合いコーナー合わせて、多いときは一日に利益が大金貨40枚(400万円)くらい行くこともある。
そりゃ人件費はチビコ母にしか払ってないし、材料費は魔法でただだからな!ボロ儲けや!
チビコ母の給与は歩合で5%、チビコの給与は魔王城で自由に過ごせる権利と魔王様の作るご飯だからな。
原価0%、利益率95%……真面目に商売してる人が聞いたらぶち切れるだろうな。
「くっ! いつになったら戦わせてくれるんだ!」
「つーか、魔王どこにもいねーじゃねーか!」
「敵が居ねーぞ! どうすりゃ良いんだ!」
魔王居るぞ!
ここに居るぞ!
つっても触れ合いコーナー裏の特設厨房に居るから見えないけど。
おっ! 物販が落ち着いてきたな。
そろそろか……
「それでは、魔王城主催! 黒騎士カイン対勇者sを始めます! 席を用意しますので皆さま下がってお待ちください!」
チビコ母が大声で叫ぶと中央を取り囲むように女性陣がスペースを開ける。
それから俺が大量にスイーツを作りだめした後、転移で玉座に移動する。
「静まれ!」
俺が玉座に座って一喝すると辺りが静まりかえ……らない。
「いつの間に! 魔王の癖に気配感じなかったぜ! 大したことねーな!」
「おいおい、あんなジジイが魔王かよ! 一発でも打たせたら自滅するんじゃねーのか?」
「良く考えろ? 奴はいつからそこに居た?」
「いや、だからずっと居たんじゃねーの? 気付かねーくらいちっちぇーんだって! オーラが!」
辛い……
倒置法で馬鹿にされたし……
「魔王が来たわ!」
「ついに始まるのね!」
「黒騎士様が来られるわ!」
緊張する相手が違うんじゃねーのかな?
まあ、もう慣れたけどさ……
俺が魔法で中央を取り囲むように椅子を出現させる。
「なっ、急に椅子が」
「プッ……もぐりが居るわよ! どうせ初めて来たんでしょうね!」
「椅子が出て来たという事はいよいよね!」
単独勇者の一人が驚いていたが、何度も来ている女性グループは小ばかにしている。
お前らもう魔王城に住むか?
「それではこちらにお並び下さい! 前列が銀貨4枚! 二列目が銀貨2枚になってます!」
チビコ母が今度は入場受付に早変わりだ。
「ちょっと、割り込まないでよ!」
「そんなの前列一択に決まってるじゃん!」
「わ……私は後ろで良いかな……」
「なに控えめアピールしてるのよ! 昨日まで肉食系宜しく明日はカイン様のハートをガッチリキャッチとか言ってビキニアーマー磨いてたじゃない!」
「ちょっと、それ言わないでよ!」
姦しい……女3人寄ればなんとやらだが、3人どころじゃないしな……
かなり時間が掛かったが、どうにか落ち着いて席に全員が座ってくれた。
チビコ母が肩で息をしている。
今日はいつもより多かったからな……何かボーナスを用意しておこう。
「それでは勇者様方前へ!」
勇者が10人か……単独で二人も来れたのか、
楽しめそうだな。
混合が5組……戦士が3人魔法使い2人か。
男組は戦士6人に僧侶3人か……
男組の奴ら目から血の汗が出てるな。
「ちっ! 嘗めやがって……」
「一瞬で方付けるぞ!」
「クッソ! マジ黒騎士クッソ!」
「ぜってー殺す! 殺した後にもう一回殺す!」
「俺もう魔王の部下になろうかな……」
一部除いて気合は十分だな!
楽しみだなー……たまには黒騎士やられないかな……
「飲み物はいかがですかー? ドリンク各種銅貨3枚から販売してるよー」
チビコがドリンクの売り子に早変わりだ。
「キャー可愛い! こっちにオレンジジュースくださーい!」
「私はリンゴのジュースが欲しいわ」
「いっつも思うけど、この魔王専用ドリンクってなんなのかしら? 売れないんだから止めたらいいのに」
いっつも思うとか……お前はいっつも来てるのか?
いい加減、俺を倒しに来い!
「それでは皆さん! 黒騎士を呼びましょう!」
チビコ母が声を掛けると女性陣が声を揃えて叫ぶ。
『カインさまーーーーーーー』
同時にスペースの中央に魔法陣が現れ俺に対して片膝を付いた姿勢でカインが現れる。
「魔王様……勇者討伐の下知を……」
「うむ、存分に暴れるが良い!」
俺がそれだけ言うとカインが立ち上がって振り返り剣を抜く。
「キャーカインさまー! てか魔王なに偉そうに私のカイン様に命令してるのよ!」
「あんた何言ってんの? カイン様は私のよ! まぁ、後半は同意だけど!」
「魔王死ね! 死んで私に魔王の座を譲れ!」
「あー、カイン様しか見えない……カイン様の声しか聞こえない……」
……辛い
「さて、それでは勇者諸君……楽しいダンスパーティといこうではないか? せいぜいそこで滑稽な踊りを披露するが良い!」
『きゃーーーーーーーーーー!』
『……殺す』
女性陣の心が一つになるのを感じたわ。
そして、勇者たちの意思が一つになるのを感じたわ。
ついでに俺の意思も勇者よりだ!
「おい! 僧侶達! パーティは関係ない! 協力して全員に強化魔法を掛けろ!」
「魔法使いの二人は遠距離から魔法を飛ばして気を反らせ!」
「俺たちが隙を作る! 戦士は一撃きついのを見舞わせてやれ!」
「俺らを侮った事を後悔させてやる!」
すげーな、複数の勇者が的確に共通の意識を持ったかのように指示を飛ばしてるわ。
「一瞬で倒れてくれるなよ? せいぜいオーディエンスを沸かすのに役立ってくれたまえ」
カインがそう言った瞬間、勇者sの殺意が膨れ上がるのを感じた。
そして直後、魔法使いの火炎魔法と氷結魔法が同時に放たれる。
二極属性を同時にアイコンタクトのみで示し会わせて放つとか、どんなベテランパーティだよ!
即席にくせに……
しかも両方の魔法に隠れるように勇者が二人ずつ突っ込んでるし。
「フッ……まずはそちらの4名の方にはご退場願おう」
そう言ってカインが魔法に向かって突っ込む。
右手の剣に氷を纏わせて火炎魔法を斬りつけ、左手の盾に炎熱魔法を纏わせ氷結魔法を掻き消す。
そしてそのまま勇者四人と交錯する……
多分人間には見えてないだろうけど、全員の攻撃を剣と盾で捌いてからすれ違い様に鳩尾に強化した蹴りを叩き込んでったのか……
4人の勇者がそのまま無言で倒れ込む。
「ばっ! 馬鹿な!」
「二極の魔法を一人で防ぐだと!」
「キャー! カインさまーーーー!」
「くっ、僧侶回復を!」
残った勇者が僧侶の3人に指示を飛ばす。
しかし、3人から返事は無い。
「遅いよ……その指示も……君の反応も」
指示を出した勇者の背後にカインがすでに移動している。
倒された4人の勇者に注目している間に、指弾で空気を飛ばして僧侶3人を無効化したのか……
そして指示を出した勇者の首を剣の柄頭で軽く叩く。
可哀想に白目を剥いてその場に倒れ込む。
「くっ! 勇者は下がれ! 俺達が盾になる!」
そういって4人の戦士が前に出る。
残りの5人はそれぞれの武器に力を込めている。
「こんなに脆いのに、盾になれるのかな?」
カインが剣を横薙ぎに払うと4人の戦士が観客席?に吹っ飛ぶ。
がそこは魔王様のお仕事! 観客席には結界が張ってあるからね。
そしてその結界に激しく叩きつけられて4人の戦士がもんどりうつ。
「お前らよくやった! その犠牲無駄にしないぜ!」
『ウォーリアスラッシュ』
しかし狙っていたかのようなタイミングで残りの5人の戦士が必殺技を放つ。
そして必殺話がカインに直撃する……つまらん……当たれば良かったのに。
「いやー! 黒騎士さまーーーー!」
「カインさま! 避けて―!」
「戦士なにやってんのよ!」
「決めた……あいつら殺す」
良い感じに盛り上がってるなー……
「やったか?」
「油断するな! 勇者すぐに追撃を頼む!」
流石に歴戦の戦士、気を抜かないねー……正解!
次のセリフ分かってるよ? 残像だでしょ?
「残像だ……」
カインが戦士の背後に移動している。
そして目の前には5人の勇者……
「それは知っていた! くらえ合体魔法! 【双竜の怒り】」
しかし魔法使いの二人を忘れていたな。
二つの炎がうねる様にしてカインに襲い掛かる。
たった今出会ったばかりの二人なのに息バッチリですげーな。
「遅いと言っている」
つってもカインには通用しないんだよねー。
2人の放った魔法が捉えたのはあくまでカインの残像……
二重に残像とか小癪な真似をする奴だわ……
これで魔法使いは退場か……
しかも置き土産にきっちり勇者も3人倒してるし。
「良かった……」
「ドキドキしたわ……」
「黒騎士様なら、あの程度の攻撃かわせて当然よね?」
お前ら、国に殺されるぞ?
『全てを斬り裂け! ブレイブスラッシュ!』
あー、いつもの奴ね? つーか開始同時に全員で打てば良かったのに今更だわ。
結構溜めてたみたいだけど……
「全てを飲み込め! イーブルブレイク!」
なん……だと?
こいつオリジナルで必殺技を作ったのか?
しかも……中二全開じゃねーか……
カインの放った黒い斬撃が勇者の斬撃を飲み込む……
「勇者!」
戦士5人が勇者の前に躍り出るが弾き飛ばされる。
「ばっ! 馬鹿な!」
そしてその勢いのまま二人の勇者を飲み込む。
「勝負あり!」
チビコ母が声高らかに勝利宣言をする。
ノリノリである。
『きゃーーーーー!』
「流石黒騎士様!」
「強すぎる! カッコ良すぎる! 素敵すぎる!」
「抱いて―!」
黒騎士がヘルムを脱いで、はにかみながら女性陣に手を振る……
おいっ! 兜取る意味あったか?
むしろ勝って兜の緒を締めよって言葉しらねーの?
取りあえず倒した野郎どもは希望の町へ強制送還す。
「それでは、カイン様から一言」
チビコ母がカインに向かってインタビューする。
「みんなの応援のお陰で勝てたよ! 有難う……でもいつか俺を倒して解放してくれるような勇者が現れるといいな……」
ちょっと陰のある表情をする。
そうか、そんなに辞めたいのなら解雇してやろうか?
「あぁ、お可哀想なカイン様」
「黒騎士様……きっと、きっと私が貴方様を助けに来ます」
「魔王め……さっさとカイン様を解放しろー!」
あー、ムカつくわ……
あとでカインに特訓してやろう。
「有難うございました! それでは本日の黒騎士カイン対勇者s戦はこれにて閉幕とさせていただきます。お帰りの際はお足元にご注意ください。触れ合いコーナーはこの後4時まで開いておりますので」
「私はウララちゃんと遊んで帰るわ」
「はー、今日も黒騎士様カッコ良かったわね」
「いつか、カイン様を私のものに……」
それから各々心行くまで魔王城を満喫して帰っていった。
……俺……いる?
てか……カインが魔王でよくね?
「魔王様!本日は売上の新記録更新です!」
エリー?
10
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