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魔王編
女勇者助けたけどフラグが立たない……辛い
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「魔王様! 楽しいですね!」
「そうだな。たまにはこうゆっくりするのも悪くない」
俺は今チビコを連れて国境付近まで来ている。
最近働きづめだったため順番に休暇を取る事にしたのだ……カイン以外。
ちなみに、昨日のうちに大量にスイーツを作らされた! エリーに!
つっても【三分調理】で作り出すだけなのでそんなに手間ではないが。
それでも軽くケーキという単語がゲシュタルト崩壊を起こす程に作らされた。
きっと自分たちが食べる分も含まれているのだろう。
だが、最近は彼女たちも頑張っているから心の広い魔王様はそんな事気にしない!
涎を垂らして覗き込む、エリー、ウロ子、ムカ娘、スッピン、チビコ母、ヘシャゲ子が怖かったわけではないとだけは断言しておこう!
勿論ウララも付いて来ているから今日の触れ合いコーナーは修羅場だろうな……
「そろそろ飯にするか?」
「うん! 今日は何が食べられるのかな?」
俺がそう言うと、チビコが目を輝かせる。
チビコには最近良いものばかり食わせてるからな。
でも、今日の俺はジャンクの気分だ!
俺は【三分調理】でマクダァナルドの大米国を作り出す。
それとポテトも忘れてない。
ポテトは多めに作り出す。
ウララも食べるからな。
「うわぁ! 本当に魔王様は凄いです!」
チビコにハンバーガーを手渡すと、それを胸に抱え込んで目をキラキラさせてこっちを見上げる。
可愛いなー……
横ではすでにウララがポテトをモキュモキュしてる。
ここが癒しの楽園か!
ちなみにチビコとその母はずっと魔国にいるせいか、俺に対する嫌悪感は大分薄れている。
もともとチビコはそこまで重度といったわけでは無かったが。
ハインツとチビコ母に話を聞くと教会にミサに行った後は、特に魔族への恨みや怒りが沸いてくると言っていた。
となるとこれは聖教会との関連性を疑わざるおえまい。
「早く食べよーよ!」
「そうだね、これで手を洗うといいよ」
俺が水魔法で水球を作り出すと、チビコがそこに手を突っ込んでゴシゴシする。
それからハンバーガーを口いっぱいに頬張る。
あーあ、ソースが口に付いてるよ。
「ほら、口!」
俺はそれを濡らした布巾で拭うと、そのまま布巾を手渡す。
「それで口を拭きながら食べろよ。慌てて食べて服に付けて、後でママに怒られても知らないからな」
「大丈夫だよ!そんな事言って、いっつも魔王様は魔法で綺麗にしてくれるもん」
我ながら甘々である。
自覚はあるが、そんな事はどうでもいい。
どうして外人の子供ってこんなに可愛いんだろうな?
まさに天使だ!
教会なんかどうでも良くなってくる。
「キャー―――――!」
その時遠くから悲鳴が聞こえてくる……けどどうでもいっか。
いまはこの時間を大切にしよう。
「魔王様?」
「ん? どうした? あっ、飲み物か?」
チビコが俺の服を引っ張る。
喉が渇いたか?
そうだな、飲み物を用意して無かった。
「いま女性の悲鳴が……」
「聞こえなかったよ?」
「魔王……?」
チビコにジト目で睨まれる。
だんだんエリーの影響を受けて来たな……ちょっとオーラが似て来たし。
「チッ! 分かったよ」
どうせ俺の領内では魔物や魔族は無暗に人を襲わないように言ってあるし。
どうせ、そいつがなんかちょっかい出したんだろう。
取りあえず気配を探って転移すると、一人の武装した少女が二匹のマーダーベアに襲われている。
人を殺さないのに殺人熊とか酷いよな。
取りあえず俺は少女とクマの間に割って入る。
「なっ! 貴方どこから?」
いきなり出て来た俺に少女がビックリしている。
まあ人間で転移出来るやつなんて、そんなに居ないだろうしな。
「助けてほしい?」
「くっ、別に助けてなんてほしくないんだからね!」
少女がなんか言ってる。
けど明らかに腰が引けてるし、膝がガクガク言ってる。
てか別に襲われてるわけじゃなさそうだけどね。
熊の方は剣を向けられてオロオロしてるし。
たまたま鉢合わせて逃げそびれたのだろう……お互い。
「まあいいや、お前ら帰っていいぞ」
俺がそう言って手をヒラヒラさせると、クマがペコペコしながら去っていく。
可愛いな。
前世では出会えば死を覚悟するレベルだが、自分より遥かに弱いとなるとそこらへんの犬猫と変わらないし。
魔物は魔王である俺に対しては、無条件で懐いてくれるしね。
人間よりよっぽどいいわ。
「いま何をした?」
少女がメッチャ驚いてる。
「別に? 追い払っただけだけど?」
俺がそう言うと、唖然とした表情をしている。
凄く質の良い魔力を纏っているが、気が弱いのか要領が悪いんだろうな。
まともに戦えたら、十中八九この少女が勝つだろう……俺の直轄の魔物で無いただのマーダーベアならば。
だが、魔王領の魔物はオリジナルより遥かに強いからねー。
もしかしたら彼女、相手の力量を見抜けるのかな?
「す……凄いな……素直に礼を言おう」
珍しいな……俺を見て嫌悪感を感じないのかな?
普通に礼を言われたことに驚いた。
「ん? 何か俺を見て思う事は無いか?」
「どこかで、お会いしてますよね? 私のこと見覚えありませんか?」
「何を言ってるんだ? いや、俺に対して不快感とか?」
「懐かしい感じがする!」
ふーん……こういう人間も居るんだ。
他の人間と何が違うんだろうか?
まあいいや、チビコが待っているからとっとと帰ろう。
「あんまりこの辺ウロウロするなよ? 危ないぞ。じゃっ、俺は帰るから」
俺がそう言って立ち去ろうとすると、服の裾を引っ張られる。
「……」
「なんだ?」
俺が尋ねるが、少女がモジモジしたまま答えようとしない……はっ!
これは、もしかして惚れたのか?
良く見ると、東洋風の顔つきをしてて親近感も沸くし結構な美少女だな。
エリーとかウロ子を見てるから気付かなかったけど、前世なら割とレベルが高い方だ。
「何か用ですか?」
再度尋ねると少女が頬を赤らめて俯く。
キタ――――――!
これフラグ立ってますよね?
ちょっと強気で行ってもいいですよね?
乳ぐらい揉んでも大丈夫ですよね?
「お腹……」
「お腹?」
お腹を撫でて欲しいんですね? 分かりません。
「すまない……助けてもらってこんな事言える義理では無いのだが、ここに来るまで二日間魔法で作り出した水しか飲んでないのだ……」
……ですよね。
5秒前の自分を殴りたい。
調子乗っててすんません。
魔王に惚れる人間なんているわけないよね……
ごめんね……魔王でごめんね……魔王なんて嫌だよね……辛い……
嫌悪感より空腹感が勝ってただけだよね……辛い……
「はあ……全く、魔国の入り口だというのに、準備もまともに出来ていないのか……」
ちょっとイラッとしたので俺は溜息を吐いてチクりとやる。
少女が小さくなる。
「まあいい、今から飯にするところだったからな……お前も来る「良いのか?」」
食い気味に返事来た。
どんだけ卑しんぼなんだよ!
「一人増えたところでどうという事は無い。行くぞ」
「行く? えっ?」
俺は少女を連れて転移でチビコの元に戻る。
「あっ、魔王様!」
「えっ? 魔王様?」
……oh
一瞬で身バレしました。
チビコ……まあ、こんな小さい子に空気読めってのが無理な話だよな。
「ちょっとまて……取りあえず転移させられたのも驚いたが、貴様魔王だったのか?」
少女が睨み付けてくる。
ですよねー……てかマーダーベア相手に手も足も出なかったくせにどうするんだろ?
「くそ……ここまでか……こうなったら潔く散ってやる! 私は勇者が一人マイ・ノースフィールドだ! 魔王! 私と戦え!」
「それはどうも。俺は魔王タナカ・ヒトシだよ? あとなんで戦うの?」
「タッ! 田中ひとしだと?」
割と流暢なイントネーションね。
てかそこで驚くんだ……
「ちょっとー! お姉ちゃん、魔王様に助けてもらったんじゃないの?」
「うっ……それはそうだが……て、ちょっと待て! お前何を食べている?」
チビコに突っ込まれてマイが狼狽えている。
そして、チビコの持っているハンバーガーを指さして大声を上げる。
「何って? 魔王様がくれたの」
「まさかあれはマックの……いや、でもこの世界でもハンバーガーくらいは……でもあの包み紙は……」
色々ダダ漏れなんだけど?
てかこの世界とか言っちゃってるし。
召還勇者? 転生勇者?
キミ……日本人だよね?
「それより、お前腹が減ってたんじゃないのか?」
「くっ……」
マイが苦悶に満ちた表情をしている。
まあ、日本人なら当然か……
「食わないのか?」
俺はそう言って【三分調理】で大米国を作り出してマイに差し出す。
「……食う」
チョロイぜ!
「だが、食ったら私と勝負しろ!」
何それ?
飯は寄越せ、だがお前は倒すって貴女どこの悪党ですか?
迷い込んだ悪党に気付かずに飯を食わせたらお礼に殺されたなんて昔話を聞いた事あるが、やってる事いっしょだぜ?
「はぁ……すげー迷惑な奴だなあんた……助けてもらって、飯までもらって、俺を殺そうってのか?」
「それはそれ! これはこれだ!」
言ってる意味が分からない。
異世界の言葉難しいネ……
「魔王……もうこの子やっちゃって良いんじゃないの?」
チビコが途端に物騒な事を言い出す。
チビコさん……いつの間にこんなに好戦的に……
完全にミニチュアエリーだな……
「分かった分かった。勝負してやるよ」
「うむ、助かる」
今日一日中あんたの事助けてるんだけど?
その恩を仇で返す事を日本人がするとはねー……
「美味い! なんて美味いんだ! お前魔王やめて料理人になれよ! そしたら殺さなくてすむし」
「俺もそうしたいのはやまやまなんだけどね……てかまだ殺す気だったんだ」
「魔王! もうこいつ殺そうよ!」
チビコ……帰ったらエリーに説教だな……
俺の知ってる健気な魔王被害遺児はどこいった……
俺の癒しはどこ行った……
「キューン!」
居た! ウララが俺の頬を流れる涙を嘗めてくれる。
可愛いよウララ……
「キュッ!」
それからマイを尻尾で指さして前足で首を掻っ切る仕草をする……ウララェ……
周りの癒し担当が地味に酷くて辛い……
***
しばらく食事に専念したあと、マイと対峙する。
マイは体に似合わず無骨な鉄の剣を構えている。
対する俺は頭の後ろで腕を組んでウトウトしている。
「貴様! 真面目にやれ!」
「命の恩人に貴様とか言うな!」
くっそ……俺の知ってる日本人は世界に誇る礼儀の国なのに。
こいつは非国民だ!
しょうがない……少し真面目にやるか……
「マイよ! なにゆえもがき生きるのか? 滅びこそ我が喜び。死に行くものこそ美しい。さあ我が腕の中で息絶えるがよい!」
「くっ……なんて威圧だ……それでこそ魔王だな……」
かなりカッコよく決めてやったのだが……
あれっ? 分からないかな? 日本人じゃなかった?
いや、若いし女の子だし……まあジェネレーションギャップって奴か?
「全てを斬り裂け! ブレイブスラッシュ!」
おーしょっぱなから使ってきた。
流石日本人! 容赦ない!
しかも今まで見た中で一番威力高いんじゃないか?
これ、さっきのクマレベルなら致命傷いけるぜ? 1体なら……
「無駄だ……」
思いっきり直撃したが、魔法障壁で簡単に防げるしね。
しかも、パッシブスキルだから、本当に身じろぎ一つすることなく衝撃波が消え去るの。
はたから見たら、本当にやばいよね?
ただ、あえて喰らってみた方が分かりやすかったかな。
だって、俺の防御力って、この万能魔法障壁の1000倍以上の硬さだし。
魔法障壁の意味……
「無理だ……」
マイが膝を付いて俯き漏らす……
おーい!諦めるの早くないか?
「もう満足?」
「ああ、私ではお前は殺せない……」
「なら希望の町まで送ろうか?」
「ああ、そうしてくれると助かる」
こいつ本当に良い性格してるわ……
「えー? もっとボコボコにしようよ!」
「キュッ! キュッ!」
「こらっ、チビコ!女の子がそういう事言うんじゃないの! あとウララ! マイを蹴らない!」
俺の知ってるチビコとウララはどこ行った?
俺に叱られて二人がショボーンとしてる。
どうやらまだ修正が出来る段階だ!良かった。
ホッと胸を撫で下ろす。
「まあ、暫くは大人しくしてろよ? それじゃ送るからな?」
「ちょっと待ってくれ!」
俺はそう言ってマイを強制送還そうとするとマイが抵抗する。
どうした?
「実はだな……希望の町を出るときにこれで最後だと思って所持金を全て使ってしまってだな……手持ちが……」
「知るかー!」
俺はとっととマイを希望の町に強制送還した。
とはいえ、余りに可哀想なので懐に金貨を5枚入れておいたのは内緒だ。
そして忍び込ませる際に、わざとでは無いが胸に手が触れたのも内緒だ。
「さあ、くだらん事で時間を割いたな。散歩の続きを楽しむか?」
「はーい、魔王さま乱暴な言葉言ってごめんなさーい」
「キューン」
2人が俺に謝ってくれる。
これなら、ちゃんと道に戻してやれることが出来そうだ。
さて取りあえず、木の実でも摘みながら帰りますか。
「アニキー! 勇者の気配がしたんやけど、大丈夫っすかーーーー?」
遠くから凄く大きな声で比嘉が叫んでくる。
「勇者なら魔王様がもう追い払ったよ!」
「さすが兄貴! パネェっすわ! てかここまで来たんなら顔出してくださいよ! あとお茶漬けも出してくださいよ!」
俺の休み……オワタ……辛い
「そうだな。たまにはこうゆっくりするのも悪くない」
俺は今チビコを連れて国境付近まで来ている。
最近働きづめだったため順番に休暇を取る事にしたのだ……カイン以外。
ちなみに、昨日のうちに大量にスイーツを作らされた! エリーに!
つっても【三分調理】で作り出すだけなのでそんなに手間ではないが。
それでも軽くケーキという単語がゲシュタルト崩壊を起こす程に作らされた。
きっと自分たちが食べる分も含まれているのだろう。
だが、最近は彼女たちも頑張っているから心の広い魔王様はそんな事気にしない!
涎を垂らして覗き込む、エリー、ウロ子、ムカ娘、スッピン、チビコ母、ヘシャゲ子が怖かったわけではないとだけは断言しておこう!
勿論ウララも付いて来ているから今日の触れ合いコーナーは修羅場だろうな……
「そろそろ飯にするか?」
「うん! 今日は何が食べられるのかな?」
俺がそう言うと、チビコが目を輝かせる。
チビコには最近良いものばかり食わせてるからな。
でも、今日の俺はジャンクの気分だ!
俺は【三分調理】でマクダァナルドの大米国を作り出す。
それとポテトも忘れてない。
ポテトは多めに作り出す。
ウララも食べるからな。
「うわぁ! 本当に魔王様は凄いです!」
チビコにハンバーガーを手渡すと、それを胸に抱え込んで目をキラキラさせてこっちを見上げる。
可愛いなー……
横ではすでにウララがポテトをモキュモキュしてる。
ここが癒しの楽園か!
ちなみにチビコとその母はずっと魔国にいるせいか、俺に対する嫌悪感は大分薄れている。
もともとチビコはそこまで重度といったわけでは無かったが。
ハインツとチビコ母に話を聞くと教会にミサに行った後は、特に魔族への恨みや怒りが沸いてくると言っていた。
となるとこれは聖教会との関連性を疑わざるおえまい。
「早く食べよーよ!」
「そうだね、これで手を洗うといいよ」
俺が水魔法で水球を作り出すと、チビコがそこに手を突っ込んでゴシゴシする。
それからハンバーガーを口いっぱいに頬張る。
あーあ、ソースが口に付いてるよ。
「ほら、口!」
俺はそれを濡らした布巾で拭うと、そのまま布巾を手渡す。
「それで口を拭きながら食べろよ。慌てて食べて服に付けて、後でママに怒られても知らないからな」
「大丈夫だよ!そんな事言って、いっつも魔王様は魔法で綺麗にしてくれるもん」
我ながら甘々である。
自覚はあるが、そんな事はどうでもいい。
どうして外人の子供ってこんなに可愛いんだろうな?
まさに天使だ!
教会なんかどうでも良くなってくる。
「キャー―――――!」
その時遠くから悲鳴が聞こえてくる……けどどうでもいっか。
いまはこの時間を大切にしよう。
「魔王様?」
「ん? どうした? あっ、飲み物か?」
チビコが俺の服を引っ張る。
喉が渇いたか?
そうだな、飲み物を用意して無かった。
「いま女性の悲鳴が……」
「聞こえなかったよ?」
「魔王……?」
チビコにジト目で睨まれる。
だんだんエリーの影響を受けて来たな……ちょっとオーラが似て来たし。
「チッ! 分かったよ」
どうせ俺の領内では魔物や魔族は無暗に人を襲わないように言ってあるし。
どうせ、そいつがなんかちょっかい出したんだろう。
取りあえず気配を探って転移すると、一人の武装した少女が二匹のマーダーベアに襲われている。
人を殺さないのに殺人熊とか酷いよな。
取りあえず俺は少女とクマの間に割って入る。
「なっ! 貴方どこから?」
いきなり出て来た俺に少女がビックリしている。
まあ人間で転移出来るやつなんて、そんなに居ないだろうしな。
「助けてほしい?」
「くっ、別に助けてなんてほしくないんだからね!」
少女がなんか言ってる。
けど明らかに腰が引けてるし、膝がガクガク言ってる。
てか別に襲われてるわけじゃなさそうだけどね。
熊の方は剣を向けられてオロオロしてるし。
たまたま鉢合わせて逃げそびれたのだろう……お互い。
「まあいいや、お前ら帰っていいぞ」
俺がそう言って手をヒラヒラさせると、クマがペコペコしながら去っていく。
可愛いな。
前世では出会えば死を覚悟するレベルだが、自分より遥かに弱いとなるとそこらへんの犬猫と変わらないし。
魔物は魔王である俺に対しては、無条件で懐いてくれるしね。
人間よりよっぽどいいわ。
「いま何をした?」
少女がメッチャ驚いてる。
「別に? 追い払っただけだけど?」
俺がそう言うと、唖然とした表情をしている。
凄く質の良い魔力を纏っているが、気が弱いのか要領が悪いんだろうな。
まともに戦えたら、十中八九この少女が勝つだろう……俺の直轄の魔物で無いただのマーダーベアならば。
だが、魔王領の魔物はオリジナルより遥かに強いからねー。
もしかしたら彼女、相手の力量を見抜けるのかな?
「す……凄いな……素直に礼を言おう」
珍しいな……俺を見て嫌悪感を感じないのかな?
普通に礼を言われたことに驚いた。
「ん? 何か俺を見て思う事は無いか?」
「どこかで、お会いしてますよね? 私のこと見覚えありませんか?」
「何を言ってるんだ? いや、俺に対して不快感とか?」
「懐かしい感じがする!」
ふーん……こういう人間も居るんだ。
他の人間と何が違うんだろうか?
まあいいや、チビコが待っているからとっとと帰ろう。
「あんまりこの辺ウロウロするなよ? 危ないぞ。じゃっ、俺は帰るから」
俺がそう言って立ち去ろうとすると、服の裾を引っ張られる。
「……」
「なんだ?」
俺が尋ねるが、少女がモジモジしたまま答えようとしない……はっ!
これは、もしかして惚れたのか?
良く見ると、東洋風の顔つきをしてて親近感も沸くし結構な美少女だな。
エリーとかウロ子を見てるから気付かなかったけど、前世なら割とレベルが高い方だ。
「何か用ですか?」
再度尋ねると少女が頬を赤らめて俯く。
キタ――――――!
これフラグ立ってますよね?
ちょっと強気で行ってもいいですよね?
乳ぐらい揉んでも大丈夫ですよね?
「お腹……」
「お腹?」
お腹を撫でて欲しいんですね? 分かりません。
「すまない……助けてもらってこんな事言える義理では無いのだが、ここに来るまで二日間魔法で作り出した水しか飲んでないのだ……」
……ですよね。
5秒前の自分を殴りたい。
調子乗っててすんません。
魔王に惚れる人間なんているわけないよね……
ごめんね……魔王でごめんね……魔王なんて嫌だよね……辛い……
嫌悪感より空腹感が勝ってただけだよね……辛い……
「はあ……全く、魔国の入り口だというのに、準備もまともに出来ていないのか……」
ちょっとイラッとしたので俺は溜息を吐いてチクりとやる。
少女が小さくなる。
「まあいい、今から飯にするところだったからな……お前も来る「良いのか?」」
食い気味に返事来た。
どんだけ卑しんぼなんだよ!
「一人増えたところでどうという事は無い。行くぞ」
「行く? えっ?」
俺は少女を連れて転移でチビコの元に戻る。
「あっ、魔王様!」
「えっ? 魔王様?」
……oh
一瞬で身バレしました。
チビコ……まあ、こんな小さい子に空気読めってのが無理な話だよな。
「ちょっとまて……取りあえず転移させられたのも驚いたが、貴様魔王だったのか?」
少女が睨み付けてくる。
ですよねー……てかマーダーベア相手に手も足も出なかったくせにどうするんだろ?
「くそ……ここまでか……こうなったら潔く散ってやる! 私は勇者が一人マイ・ノースフィールドだ! 魔王! 私と戦え!」
「それはどうも。俺は魔王タナカ・ヒトシだよ? あとなんで戦うの?」
「タッ! 田中ひとしだと?」
割と流暢なイントネーションね。
てかそこで驚くんだ……
「ちょっとー! お姉ちゃん、魔王様に助けてもらったんじゃないの?」
「うっ……それはそうだが……て、ちょっと待て! お前何を食べている?」
チビコに突っ込まれてマイが狼狽えている。
そして、チビコの持っているハンバーガーを指さして大声を上げる。
「何って? 魔王様がくれたの」
「まさかあれはマックの……いや、でもこの世界でもハンバーガーくらいは……でもあの包み紙は……」
色々ダダ漏れなんだけど?
てかこの世界とか言っちゃってるし。
召還勇者? 転生勇者?
キミ……日本人だよね?
「それより、お前腹が減ってたんじゃないのか?」
「くっ……」
マイが苦悶に満ちた表情をしている。
まあ、日本人なら当然か……
「食わないのか?」
俺はそう言って【三分調理】で大米国を作り出してマイに差し出す。
「……食う」
チョロイぜ!
「だが、食ったら私と勝負しろ!」
何それ?
飯は寄越せ、だがお前は倒すって貴女どこの悪党ですか?
迷い込んだ悪党に気付かずに飯を食わせたらお礼に殺されたなんて昔話を聞いた事あるが、やってる事いっしょだぜ?
「はぁ……すげー迷惑な奴だなあんた……助けてもらって、飯までもらって、俺を殺そうってのか?」
「それはそれ! これはこれだ!」
言ってる意味が分からない。
異世界の言葉難しいネ……
「魔王……もうこの子やっちゃって良いんじゃないの?」
チビコが途端に物騒な事を言い出す。
チビコさん……いつの間にこんなに好戦的に……
完全にミニチュアエリーだな……
「分かった分かった。勝負してやるよ」
「うむ、助かる」
今日一日中あんたの事助けてるんだけど?
その恩を仇で返す事を日本人がするとはねー……
「美味い! なんて美味いんだ! お前魔王やめて料理人になれよ! そしたら殺さなくてすむし」
「俺もそうしたいのはやまやまなんだけどね……てかまだ殺す気だったんだ」
「魔王! もうこいつ殺そうよ!」
チビコ……帰ったらエリーに説教だな……
俺の知ってる健気な魔王被害遺児はどこいった……
俺の癒しはどこ行った……
「キューン!」
居た! ウララが俺の頬を流れる涙を嘗めてくれる。
可愛いよウララ……
「キュッ!」
それからマイを尻尾で指さして前足で首を掻っ切る仕草をする……ウララェ……
周りの癒し担当が地味に酷くて辛い……
***
しばらく食事に専念したあと、マイと対峙する。
マイは体に似合わず無骨な鉄の剣を構えている。
対する俺は頭の後ろで腕を組んでウトウトしている。
「貴様! 真面目にやれ!」
「命の恩人に貴様とか言うな!」
くっそ……俺の知ってる日本人は世界に誇る礼儀の国なのに。
こいつは非国民だ!
しょうがない……少し真面目にやるか……
「マイよ! なにゆえもがき生きるのか? 滅びこそ我が喜び。死に行くものこそ美しい。さあ我が腕の中で息絶えるがよい!」
「くっ……なんて威圧だ……それでこそ魔王だな……」
かなりカッコよく決めてやったのだが……
あれっ? 分からないかな? 日本人じゃなかった?
いや、若いし女の子だし……まあジェネレーションギャップって奴か?
「全てを斬り裂け! ブレイブスラッシュ!」
おーしょっぱなから使ってきた。
流石日本人! 容赦ない!
しかも今まで見た中で一番威力高いんじゃないか?
これ、さっきのクマレベルなら致命傷いけるぜ? 1体なら……
「無駄だ……」
思いっきり直撃したが、魔法障壁で簡単に防げるしね。
しかも、パッシブスキルだから、本当に身じろぎ一つすることなく衝撃波が消え去るの。
はたから見たら、本当にやばいよね?
ただ、あえて喰らってみた方が分かりやすかったかな。
だって、俺の防御力って、この万能魔法障壁の1000倍以上の硬さだし。
魔法障壁の意味……
「無理だ……」
マイが膝を付いて俯き漏らす……
おーい!諦めるの早くないか?
「もう満足?」
「ああ、私ではお前は殺せない……」
「なら希望の町まで送ろうか?」
「ああ、そうしてくれると助かる」
こいつ本当に良い性格してるわ……
「えー? もっとボコボコにしようよ!」
「キュッ! キュッ!」
「こらっ、チビコ!女の子がそういう事言うんじゃないの! あとウララ! マイを蹴らない!」
俺の知ってるチビコとウララはどこ行った?
俺に叱られて二人がショボーンとしてる。
どうやらまだ修正が出来る段階だ!良かった。
ホッと胸を撫で下ろす。
「まあ、暫くは大人しくしてろよ? それじゃ送るからな?」
「ちょっと待ってくれ!」
俺はそう言ってマイを強制送還そうとするとマイが抵抗する。
どうした?
「実はだな……希望の町を出るときにこれで最後だと思って所持金を全て使ってしまってだな……手持ちが……」
「知るかー!」
俺はとっととマイを希望の町に強制送還した。
とはいえ、余りに可哀想なので懐に金貨を5枚入れておいたのは内緒だ。
そして忍び込ませる際に、わざとでは無いが胸に手が触れたのも内緒だ。
「さあ、くだらん事で時間を割いたな。散歩の続きを楽しむか?」
「はーい、魔王さま乱暴な言葉言ってごめんなさーい」
「キューン」
2人が俺に謝ってくれる。
これなら、ちゃんと道に戻してやれることが出来そうだ。
さて取りあえず、木の実でも摘みながら帰りますか。
「アニキー! 勇者の気配がしたんやけど、大丈夫っすかーーーー?」
遠くから凄く大きな声で比嘉が叫んでくる。
「勇者なら魔王様がもう追い払ったよ!」
「さすが兄貴! パネェっすわ! てかここまで来たんなら顔出してくださいよ! あとお茶漬けも出してくださいよ!」
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