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王太子妃→王妃→王太后→后王太后……疲れた
第15話:マリアンヌ現実を知る
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「さて、で何の話をするんだい?」
食事も頂き、お風呂にも入れてもらって気分さっぱりだ。
本当は、すぐにでも寝たいところだが……横で目を輝かせている少女を見ると、流石におやすみとは言えないか。
まあ、一宿一飯のお礼代わりに、お話くらいは付き合うかね。
「その、エリスさんはどうして、そこまで殿下のことを嫌ってらっしゃるのですか?」
「友達同士、こうして同じ布団に入ってるんだ。エリスで構わないよ」
なぜ、そこで照れる。
頬を染めた彼女を見て、つい変な顔をしてしまったのは仕方ないだろう。
「まあ、殿下というか王族に近づきたくないだけだよ」
「ですが……第一王子の側妃なんて、願ってもなれるものではないのですが」
「王族との婚姻なんて、もってのほかさね。子供が産まれても取り上げられて、子育てどころかその成長を側で見守ることもできやしない。どこか他人事のように、子供の様子を侍女からの報告という形で聞くだけなんてごめんだよ」
「ですが、王族であればやはり教育もそれなりのものになるでしょうし」
「それでも、親子の関りってのは子供の成長に必要なものさね」
私の言葉に、マリアンヌが考え込むようなそぶりをしている。
悩んでいるのかねぇ?
「それに、常に衆目にさらされて気の休まる暇もない。夜になれば、馬鹿がやってきて義務的に子作りという作業。いったい、どこに自分の時間があるのだい?」
「それは、王族に嫁いだ方の宿命というものですから」
「では、そのどこに女性としての喜びや幸せがあるんだい?」
あっ、また固まってしまった。
「王妃になることで、何かメリットがあるのかい?」
「好きな方と添い遂げるのに、メリットなんて……」
「本当に殿下が好きなのかい?」
私の言葉に、彼女がこくりと小さく頷いた。
思わず、溜息が漏れたよ。
「どこが良いのか分からないが、好きな人と幸せな生活が送れるのは下級貴族やそこそこ裕福な平民だけだよ」
「なんて、夢の無い」
「義務の付きまとう相手なんて、いくら好きだとしてもそこに夫婦としての幸せなんて存在しやしないよ」
「そんなこと……」
「そして、結果として100年の恋も冷めちまうんだよ。王妃として自分を押し殺すうちに、相手に対する愛情や思いやりすらも消え失せちまうのさ」
「まるで、経験してきたみたいにおっしゃられるのですね」
まあ、実体験だからね。
実感はこもってるだろうさ。
「まあ王妃としての優越感や達成感はあるかもしれないけど、残るのはただただ虚無だよ。王妃になったら、私人としての全ての意識が消えてなくなるのさね。そんなの、生きてるって言えるかい?」
「なぜエリスさんが、頑なに殿下を避けているのかよく理解できました。私も、将来について考えてみた方がいいのでしょうか?」
「さあね。マリアンヌの人生さ。悔いのないように、生きるのが一番さね。王妃を経験してみたいなら、してみるといい」
「随分と突き放した言い方ですわ!」
「私の言葉のせいで後悔してほしくないからね。ただ、現実を知って覚悟を持って嫁ぐのと、ただただ王妃という立場に憧れて嫁ぐのでは結果が全然違うと思ってね」
「なるほど」
「流石に、人の人生を背負うほど、わたしゃ強くないからねぇ」
「やっぱり……喋り方、おばあさんみたいです。中身、おばあさんだったりしないですか?」
鋭いねぇ。
いや、こんな喋り方してたら、当たり前か。
「個性ってことで」
「随分と、個性的ですわ」
それから、マリアンヌが眠るまで色々と王城のことについて、話をしてあげた。
なんで、そんなに詳しいのかと訝し気にしていたが。
あくまで、一般論で押し通しておいたよ。
「一般論で語られるような隠し通路なんて、絶対作っちゃだめでしょう!」
「今度、王城に行ったら確認してごらん。一般的にああいう造りのお城は、えてしてそういった場所に隠し扉があったりするもんだよ」
「本当にあったら、びっくりですわ!」
本当にあるんだけどねぇ。
食事も頂き、お風呂にも入れてもらって気分さっぱりだ。
本当は、すぐにでも寝たいところだが……横で目を輝かせている少女を見ると、流石におやすみとは言えないか。
まあ、一宿一飯のお礼代わりに、お話くらいは付き合うかね。
「その、エリスさんはどうして、そこまで殿下のことを嫌ってらっしゃるのですか?」
「友達同士、こうして同じ布団に入ってるんだ。エリスで構わないよ」
なぜ、そこで照れる。
頬を染めた彼女を見て、つい変な顔をしてしまったのは仕方ないだろう。
「まあ、殿下というか王族に近づきたくないだけだよ」
「ですが……第一王子の側妃なんて、願ってもなれるものではないのですが」
「王族との婚姻なんて、もってのほかさね。子供が産まれても取り上げられて、子育てどころかその成長を側で見守ることもできやしない。どこか他人事のように、子供の様子を侍女からの報告という形で聞くだけなんてごめんだよ」
「ですが、王族であればやはり教育もそれなりのものになるでしょうし」
「それでも、親子の関りってのは子供の成長に必要なものさね」
私の言葉に、マリアンヌが考え込むようなそぶりをしている。
悩んでいるのかねぇ?
「それに、常に衆目にさらされて気の休まる暇もない。夜になれば、馬鹿がやってきて義務的に子作りという作業。いったい、どこに自分の時間があるのだい?」
「それは、王族に嫁いだ方の宿命というものですから」
「では、そのどこに女性としての喜びや幸せがあるんだい?」
あっ、また固まってしまった。
「王妃になることで、何かメリットがあるのかい?」
「好きな方と添い遂げるのに、メリットなんて……」
「本当に殿下が好きなのかい?」
私の言葉に、彼女がこくりと小さく頷いた。
思わず、溜息が漏れたよ。
「どこが良いのか分からないが、好きな人と幸せな生活が送れるのは下級貴族やそこそこ裕福な平民だけだよ」
「なんて、夢の無い」
「義務の付きまとう相手なんて、いくら好きだとしてもそこに夫婦としての幸せなんて存在しやしないよ」
「そんなこと……」
「そして、結果として100年の恋も冷めちまうんだよ。王妃として自分を押し殺すうちに、相手に対する愛情や思いやりすらも消え失せちまうのさ」
「まるで、経験してきたみたいにおっしゃられるのですね」
まあ、実体験だからね。
実感はこもってるだろうさ。
「まあ王妃としての優越感や達成感はあるかもしれないけど、残るのはただただ虚無だよ。王妃になったら、私人としての全ての意識が消えてなくなるのさね。そんなの、生きてるって言えるかい?」
「なぜエリスさんが、頑なに殿下を避けているのかよく理解できました。私も、将来について考えてみた方がいいのでしょうか?」
「さあね。マリアンヌの人生さ。悔いのないように、生きるのが一番さね。王妃を経験してみたいなら、してみるといい」
「随分と突き放した言い方ですわ!」
「私の言葉のせいで後悔してほしくないからね。ただ、現実を知って覚悟を持って嫁ぐのと、ただただ王妃という立場に憧れて嫁ぐのでは結果が全然違うと思ってね」
「なるほど」
「流石に、人の人生を背負うほど、わたしゃ強くないからねぇ」
「やっぱり……喋り方、おばあさんみたいです。中身、おばあさんだったりしないですか?」
鋭いねぇ。
いや、こんな喋り方してたら、当たり前か。
「個性ってことで」
「随分と、個性的ですわ」
それから、マリアンヌが眠るまで色々と王城のことについて、話をしてあげた。
なんで、そんなに詳しいのかと訝し気にしていたが。
あくまで、一般論で押し通しておいたよ。
「一般論で語られるような隠し通路なんて、絶対作っちゃだめでしょう!」
「今度、王城に行ったら確認してごらん。一般的にああいう造りのお城は、えてしてそういった場所に隠し扉があったりするもんだよ」
「本当にあったら、びっくりですわ!」
本当にあるんだけどねぇ。
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