一宮君と幽霊ちゃん

へたまろ

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独り暮らし初日

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「じゃあ、こちらにサインをお願いします」
「はいはい」

 ペリカンな鳥をマスコットにしている運送屋さんのおじちゃんの出した伝票にサインする。
 これで、引っ越しも終わった。
 勿論俺も手伝ったし、親に言われた通り飲み物も渡した。

 大学3年目にして、ようやく独り暮らしの許可が下り資金が溜まった。
 まあ、お金は色々あってかなり余裕がある。
 学生にしては、金持ちだ。
 ふってわいた収入だけど、うまくいけば定期的に入るし。
 
 敷金礼金、一年分の家賃くらいはさくっと手にしたわけだし。
 バイトもしてるからな。

「かんばい!」
 
 と言っても、返事があるわけもなく。
 一人で引っ越し祝いを始め、ビールをあける。
 美味しい。

 少しだけパソコンに向かって作業をし、それから風呂に入って布団に。
 良い部屋だ。
 洋室6畳の部屋を寝室に。
 他にリビングもある。
 風呂とトイレは別。
 ユニットバスはどうしても許せなかった。
 実家暮らしが長かった弊害か。

 お腹も満たされたし、引っ越し疲れですでに限界。
 荷ほどきの続きは明日で良いか。
 幸い、まだまだ春休みだし。

 シクシク……

 うるさい。
 寝ようと思ったら、部屋の隅から女性の泣き声が聞こえてくる。
 いや、この部屋には俺しかいないはずだ。
 まあ、いいか。
 寝よう。

「つらい……」

 喋りかけてきた。
 しかも、すぐ傍で声がする。

 うんうん……

 声のした方を見る。
 ん?

 女の子?
 同い年くらいかな?

 手元に置いておいたシーリングライトのリモコンで、灯りを点ける。

「あれ? 誰も居ない」

 気のせいかな?
 電気を消す。

「苦しい……」
 
 電気を点ける。
 いない。
 消す。

「恨めしい」

 電気を点ける。
 消す。

「ねたまし」

 点ける。
 消す。

「ちょっと! 遊んでるの?」

 いきなり怒られた。
 
「なんで、電気点けるのよ!」
「いや、ちらっと可愛いらしい女の子が見えたから、しっかり見たくてさ」
「可愛らしっ!」

 普通に思ったことを言ったら、驚いた様子で黙り込んでしまった。

「電気点けていい?」
「……やだ」
「なんで?」
「すっぴんだし……髪の毛もセットしてないし……」

 なにこの子。
 可愛い。

「じゃあ、寝ていい?」
「……やだ」

 ふふ……楽しい独り暮らしになりそうだ。
 少しだけ彼女の恨み言を聞いてたけど、気が付いたら寝てた。
 最初と違ってかなり小声で、苦しいよとか、辛いよって言ってた。
 語尾によが付いただけで、ちょっと可愛らしく聞こえてしまった不思議。

「なんで、寝ちゃうのよ!」

 次の日の夜、普通に怒られた。
 ごめんごめん。
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