一宮君と幽霊ちゃん

へたまろ

文字の大きさ
上 下
3 / 12

ふつつかものですが

しおりを挟む
「はっ? いや、大丈夫だって……うん、うん、……ごめん。えっ? うん……分かった、じゃあ駅まで迎えにいくわ」

 はあ……
 テーブルにスマホを放り投げて、ソファにダイブ。

 せっかく一人暮らし調子に乗ってきたのに。
 心配性の母さんが、早速来襲とか。

 早すぎない?
 まだ、実家出て一週間なんだけど。

 部屋をみる。
 まあ、いっか。

 そんなに散らかってないし、とくに叱られるような心当たり無いし。

 一週間電話もメールもしなかったことは、怒られたけど。

「ここ、俺の部屋。あがって」
「あらっ、良い部屋じゃない」
「うん、ありがとう。飲み物アイスコーヒーでいい?」
「ふふ、お客さんみたいね」
「いらっしゃいとでも言っとこうか?」

 母さんが何か言ってるけど、ここは俺の城だからな。
 いかにお袋といえども、今日はお客さん扱いだ。
 そして、早々に退散してもらおう。
 取り合えず氷を入れたコップに、ペットのアイスコーヒー。
 微糖だから、ガムシロップと牛乳を出しとこう。

「今日は泊まってっちゃおっかな?」
「えっ?」
「なによ、嫌なの?」

 母さんが面倒なことを言い出した。 
 いやいや、帰れよ。
 お客さんようの布団とかないし。
 それに……

「ここ、夜になると出るんだよ」
「何が出るのよ」
「これっ」

 そう言って、手をダランと下げてお化けのポーズ。

「馬鹿言ってるんじゃないよ、いい歳して」
「本当だって、若い女の子の霊がさ」
「まあ! 母さん聞いてないわよ」
「えっ?」
「あんた、彼女いるの?」
「違うって、幽霊の話がなんで彼女の話になるんだよ」
「まあ、いいわ。だったら、余計に会っていかないと。あんた、おっちょこちょいだから、その幽霊ちゃんにお願いしとかないとね」

 こういう人だった。
 まず、幽霊とか超常現象を全く信じてない。

 そして一度決めたら、絶対に意見を曲げない。
 特に反対されると、意地でも押し通そうとする。
 いや、そこは折れて。
 普通に面倒だから。

 一週間会わなくて、連絡しなかったからって……いや。
 これは、違うな。
 ここまであからさまに帰りたがらないのも、なんか怪しい。

「また父さんと、喧嘩でもした?」
「そうなのよ! 聞いてよ」

 そういうことらしい。
 親父にメールして、明日は無理矢理にでも回収してもらおう。
 昼からバイトだし。

 ため息が出るのをグッと堪える。
 諦めたんなら快く受けて、気持ちよく帰ってもらったほうが建設的か。

「仕方ないなあ。飯はどうする? 俺、作ろうか?」
「外にいきましょう。お金ならいっぱいあるから」
「呆れた。親父のだろ?」
「今日はお弁当も買えずに、困ったんじゃないかな?」

 母さんがケラケラと笑っているが、酷い。
 一生懸命家族のために働いてるのに、唯一の楽しみの昼食抜きとか。

 案の定、親父の財布の中身を全部抜きとってきたらしい。
 いつもは札だけだけど、今回は小銭も全部。

 まあ、封筒に1000円と恨み言をかいた手紙を入れて、鞄につっ込んではいたみたいだけど。
 なんだかんだで、ラブラブ。

 そして今日のうちに、父さんが迎えにきてくれた。
 わりと今回のやらかしは、父さんも思うところがあったらしい。
 家に入るなり俺をスルーして、母さんの前で土下座してた。 

 それから家族そろって、外食。
 父さんの財布から母さんが抜き取った金で。
 分厚いステーキは美味しかったとだけいっておこう。

その日の夜

「辛いよー」

 ん?
 いつもと、出だしが違う。

「いきなりお義母さんに挨拶は、ハードル高いよー」

 はっ?

「それは、流石に辛いよー」

 何を言ってるんだろう、この子は。

「でも、宜しくされちゃった」

 なんで、嬉しそうなんだろう。
 
「ふつつかものですが、次郎君のことはお任せくださいってこっそり言ってみた」

 なんか、嫁みたいなこと言い出した。
 てか、名前。

「郵便物とか、あと学校の教材とか、スマホとか……」

 やめて。
 勝手にみないで。

「次郎君はお母さん似かぁ」

 うるさい。
 寝ろ。
 寝るのは俺か。
しおりを挟む

処理中です...